25話 ボッチ と師匠の変化
とまあ、感傷的な雰囲気で再会したわけだが、師匠はモンスターなので、プレイヤーに攻撃をしないという選択肢はなく……弾力のあるボディーを弾ませて俺に突撃してきた。
俺は精神を集中させると木の枝を師匠に向かって薙ぎ払い、接触の瞬間にスキルを発動させた。
「パリィ――ッ! よし、反応できているぞ!」
俺は師匠の攻撃を上手く【パリィ】で弾き返すことに成功した――【鷹の目】を発動させた状態でだ。
四日間の修行の成果が如実にあらわれている。
歩く修行から始まり、飛行してスキル発動を失敗しては地面とキスをしたり、キスをされたり、キスを奪われたりと、何度も土の味を噛みしめて……ついに本来の戦闘スタイルを取り戻すことができた。
親父による修行という名の拷問を経験していなければ、ここまで早くモノにすることはできなかっただろう……今だけは感謝しといてやるよ親父。
今でも鮮明に思い浮かべられる悪夢の日々。
精神を鍛えるためとかで、ガキの頃の俺を凶暴な野生動物がいる無人島に放置した――あのとき。
受け身の修行と称して、断崖絶壁の高所から下へと投げられた――あのとき。
武器との戦い方を教えてやると言われ、ヤクザの取引現場に放り投げられた――あのとき。
……やっぱり訂正する――くたばれクソ親父! いつか、絶対に泣かせてやる。
と、少しトラウマを思い出して思考が逸れてしまった。
今は、師匠との戦いに集中しよう。
師匠の攻撃を左右に装備している木の枝を交互に使い【パリィ】で弾いていく。
以前とは違い【両手装備】のスキルのおかげで、両手で【パリィ】を行うことができる。
そのため、今の俺は体を回転させながら鼻歌交じりに攻撃を対処できる余裕さえある。
しばらくの間、そんな攻防を続けて満足した俺はカウンター移動を使い、師匠から距離をとった。
そして、【クイックチェンジ】を発動し、『木の枝』から『呪毒の大鎌<死月>』に武器を切り替える。
その理由は試したいことがあるからだ。
以前、『呪毒の大鎌<死月>』の効果でHPを攻撃力に変換されるまでの時間がネックになっているという説明をしたと思う。
どうにか、その時間を短縮できないかと色々と検証していたら……面白い発見をした。
装備していると所持者の生命=HPを徐々に吸っていくわけだが、もしも自分自身を大鎌で攻撃してみるとどうなるかと思い試してみたのだ。
そして、肩から横腹にかけて斜めに大鎌で切り裂いている時にすぐさまステータスを確認すると――武器攻撃のステータスが一気に跳ね上がっていたのだ。
つまり、大鎌で自分自身を切り裂けば、削られたHPがそのまま攻撃力に変換されるのだ。
まあ、その後すぐに紙装甲の俺は過剰にあがった攻撃ダメージで死んだけどな。
ここでもう一つ発見したことなのだが、この死んだときには【致死の一撃(呪)】が発動していなかったのだ。
疑問に思って『悪神の呪縛黒衣』の説明欄を一部分確認した。
『防御、魔防のマイナス補正は悪神の呪い【致死の一撃】が発動し、自傷以外でのダメージが1でも入るとプレイヤーを即死させる。
【致死の一撃】は所持プレイヤー対して常時発動型スキルとして強制的に追加される。』
そう、自傷行為ならば、強制的にスキル効果で殺されることはない。
問題は紙装甲ゆえに、結局、ダメージ過多で死んでしまう。
そこで、その問題を解決できるかもしれないのが先ほど習得したスキル【手加減】だ。
スキルの効果は、【手加減】を発動させているときに選択対象にダメージを与えた場合、対象がHPを上回るダメージを受けても必ずHP1で固定される。
つまり、このスキルを使えば『呪毒の大鎌<死月>』で自分を攻撃した時に死なずにHPを1で固定させつつ、瞬時に武器の攻撃力に変換できるかもしれないってことだ。
早速、【手加減】を発動させて『呪毒の大鎌<死月>』で己を切り裂く。
赤いダメージエフェクトが発生し、HPゲージがゴリゴリ減っていたが1ドットを残してピタリと止まった。
「おお! 思っていたとおりに成功したな。これでより好戦的に出られる。いやー、このゲーム痛覚設定とかなくて本当によかった。もしあったら毎回激痛に耐えながら戦わないといけないのは辛いからな。」
ちなみにVR系において痛覚設定などは本体に影響を及ぼす可能性があるので法律で禁止されている。
物は試しと大鎌を体に突き刺しグリグリと捻ったりして確認をしてみる。
うむ、HPは1から減ることもないし、人体に影響はなさそうだな。
もし、これが現実なら肉が抉れ裂かれ、血潮が辺りを染め上げて大変なことになってしまう。
この世界はダメージエフェクトが発生するだけで、グロテスクな光景にはならないから、その点は安心だ。
こんなことやっていたら防具耐久値がゴリゴリ減らないか不安になってしまうだろう。
だが、俺が装備している『悪神の呪縛黒衣』は解呪しないと外せないかわりに装備耐久値が存在しないので自分を攻撃しまくっても壊れる心配がないから相性がいい。
と、話が長くなってしまったな。そろそろ修行に戻るとしよう。
実は、この【手加減】というスキルは今回の修行においても丁度いいのだ。
それは、師匠の隠された種族特性と関係している。
流石は師匠! 可愛い上に弾力のあるボディーは触り心地もよく、癒やし効果も抜群! おまけに修行の役にも立つなんて、一家に一匹は欲しい存在だね。
早速、俺は師匠にカウンター移動で近づき【手加減】を発動させて大鎌で切り裂いた。
ものすごい勢いで師匠のHPゲージが一瞬で減り、ピタリと止まる。
そして、弾力性のあるプルプルボディーを震わせると――二匹に分裂した。