1話 ボッチ VRゲーム機を手に入れる
ついに、この時がきた。
……どれだけ焦がれ、羨望し、憂いに満ちた日々をおくってきたか分かるだろうか。
両手で大事に持っている、ソレを見つめる。
あまりの興奮に身体が震えている。
それはなぜかって? 恐怖のためか? 否! 憤怒だろうか? 否!
答えは……抑えきれない歓喜の感情だ。
「俺は、ついにVRゲーム機を手に入れたぞー!」
もう17にもなる歳なのに、俺は初めてプレゼントを貰った子供のようにはしゃいでいた。
どうしてこんなにも興奮しているかというと、VRゲーム機が導入されたのは今回が初なのだ。
軍事や医学、人間の生活とVR技術が発展していったが娯楽の分野は劣っていた。
だがそれは少し前の話……ついに発売がされたのだ、VRゲーム機が。
その内容は剣と魔法があるファンタジーの世界を、かなり現実に近い感覚で遊ぶことができるというもの。
子供のころゲームをしたことがないだろうか? 異なる世界で勇者となり、魔物を剣や魔法で倒し壮大な大地を駆けて冒険をする。
寝る間を惜しんで遊んだあの日々を俺は今でも鮮明に思い浮かべられる。
画面越しではない、本当に自分自身がその世界へ踏み入りたいと何度願ったか。
俺が熱く語ったように待ち望む人間は多くいた。特に若者たちの人気はすさまじく、その売り上げは異常だった。
ゲーム店舗を探し回っても、どこもかしこも品切れ状態。オークションは阿呆かっていうほど馬鹿げた値段つけられていて、コネも金もない俺が手に入れるにはどれだけ大変だったか言うまでもない。
それでも諦めきれなかった俺は応募や抽選といった運に頼る行いを、神にも祈る気持ちで何度も何度も行い、ようやく手に入れたのだ。
「もう離さないよ、君のことを……」
俺は、傍からみるとかなり気持ち悪い台詞を、まるで恋人に語りかけるようにVRゲーム機に呟く。
そして、専用機具を頭に装着するとベットに寝っ転がり起動スイッチを押した。
『ようこそ○○オンラインの世界へ!』
優しげで透き通るような綺麗な女の人の声が聞こえた。
周りの景色は真っ白な空間で、目の前にはモニターがあった。
『プレイヤーネームを決めて下さい』
モニターに名前を入力する欄がでてきた。
名前、か……ゲームを手に入れたことに興奮していた俺は全くそのことを考慮していなかったのだ。
少し悩むと宙に浮かんで見えるタッチパネルを触り名前を入力する。
『ボッチ』……っと三つの文字を。
なんでこんな名前にしたかって?
それは、俺が現実世界でもボッチという名に相応しい学園生活をおくっているからさ!
少し言い訳をさせて貰う。これには理由がある。
まず俺の容姿から説明する。
生まれつき人を射殺さんとばかりに威嚇するような鋭い目つき。
額から右目にかけて三本の切り傷のような痕。
髪型は、これまた人を威嚇するように逆立っており、水をつけても直らない。
肉体は肥大化させた筋肉ではなく、無駄を削ぎ落とし、戦いやすいよう引き締まっている。
そして性格は……極度の人見知り。
こんな奴、周りからみたらヤバいと思われてもしょうがないよな。
アイツ絶対に誰かをヤってるぜとか。ヤクザの息子なんじゃないのか……と影で噂されてしまっている。
この状況下でどうやって友達を作ればいいのか教えてくれ!
せめて、コミュ力が高ければ誤解も解けるかもしれないが、人見知りのため難しい。
それでも毎日学校にいってる俺を誰か褒めて欲しい、切実に。
俺が皮肉にもこの名を選んだのは、この世界でも例え友達が出来なくても生き抜き、誰よりも全力で楽しもうと思ったからだ。
俺はどこかズレた決意を固めると次のメニューを開く。
『職業を選択して下さい』
剣士、武闘家、魔法使い、僧侶――と色んなゲームで見慣れた職業が様々あるが、それらを無視してカーソルを下にズラしていく。
じつをいうと、もう職業は決まっている。
いつかVRゲームが出来る日々を妄想し、先にゲームを遊んでいる人達が情報を募り、まとめを書いてある攻略サイトを少し閲覧していたことがある。
<職業人気ランキング~>
それは多種多様な職業がランキング付けされているページの中でもかなり下の方にあるやつだ。
下の方にあるのは癖や扱いが難しく普通の人たちがあまり好き好んで選びたくない不遇職業が並んでいる。
そのなかでもデメリットは多そうだが面白そうな職業を見つけ、遊ぶときはこれにしようと決めていたのだ。
そして、俺はメニュー欄から、ある職業を選ぶと決定キーを押した。