第94話 土地を探そう
戦技大会の日から数日が経って。
俺は国王に相談をしに、謁見の間にやって来ていた。
今回の謁見の目的は、麒麟芋の生産拡大計画について相談すること。
新たな農地を確保するために、考えた案を聞いて貰おうと思って来たのである。
まさか……来年度から正式にテイマーの学部ができるなんて話が進んでいたとは、思ってもいなかったからな。
それが発表された時、嬉しい気持ちももちろんあったのだが……それ以上に、「このままでは麒麟芋の生産が追いつかないぞ」という懸念点が頭に浮かんだのだ。
麒麟芋が無ければ、旨味調味料があったところでビーストチップスが作れない。
俺みたいに甲虫系魔物をテイムするのであれば、ある程度はビーストゼリーでの代用とかも効かなくはないが……基本的にテイマーにとって、ビーストチップスの供給不足は死活問題だ。
テイマーがいる各家庭に麒麟芋を一個ずつ配って「皆さん家庭菜園頑張ってください」というのは流石にスマートではないし……どうにかして、量産体制は整えたいところ。
あの日俺はそのための方法として、国王にとってもwinーwinとなる方策を一つ咄嗟に思いつけたので……今日それを話すべく、アポイントを取っていたのである。
謁見の間に入ると、国王は「よく来てくれたな」と、前と変わらぬ様子で俺を手招きした。
「今日は余に話があるそうだが……それはいったい、どんな話なのだ?」
「土地は広いが農業が盛んではない地域の活性化の案を考えつきましたので、その案を聞いていただきたいと思っております」
国王の質問に、俺はそう答えた。
国王はその立場上、民衆の豊かな暮らしやそこから来る税収に関する関心が高いはずだからな。
自分の希望を通すためにも、俺はそう言った切り口から話を始めることで、国王の興味を引こうと思ったのだ。
「ほう。ヴァリウスの案となると、とんでもない案が出てきそうだが……どんな内容なのだ? 話してみよ」
「麒麟芋という芋を、そのような土地の特産品にするのです」
「……麒麟芋?」
国王が訝しげな表情をしたところで、俺は収納魔法で麒麟芋とビーストチップスを取り出し、それから話を続けた。
「麒麟芋とは、簡単に言えば……魔物が好んで食べる餌の原材料になるものです。テイマーが魔物を手懐けるのに使うのが、主な用途となっております。要は……テイマーにとっての必需品ですね」
「ほう」
「ティリオンさんが精鋭学院の教師になってくださるのもありますし……今後正しい従魔の扱い方が広まっていけば、確実にこれの需要は伸びます。それを見越してこれを栽培しておけば、テイマーもこの芋の在庫に困りませんし、栽培する側も一気に儲かります。双方得する案だと思うのですが、いかがでしょう?」
提案を終えると……国王はしばらく目を瞑って考え、そしてこう聞いてきた。
「確かに、余も素晴らしい案ではあると思う。そのような領地は、確かに存在するし……そこが特産品を得られるとなれば、そこに住む者の暮らしも一気に向上するだろう。ただ……一つ問題があるとすれば。今から育てるとなると、テイマーが実際に芋を購入しだすまでにタイムラグがあると思うのだが……その間の農民の暮らしは、どう保証するつもりだ?」
この質問は想定していたので……俺は、予め用意していた答えを言うことにした。
「その間は、とりあえず俺がエリクサーで支払って立て替えておこうと思います。いかがですか?」
「……今何と言った?」
答えると……国王は、聞こえちゃいけない単語が聞こえたかのような表情で聞き返してきた。
「とりあえずは、俺がエリクサーで……」
「エリクサーでだと!? 当然のように奇跡の薬の名を……というか、その口ぶりだとまさか大量生産できるのか?」
「まあ。近くのダンジョンに行けば、まとまった量生産できますね。先日の大会でも、色んな選手に配ったりしてたくらいですし……」
「そ、そんな……」
「もちろん、流通量を増やせば市場価値は下落するはずなので、現在の価格で換算とはいかないと思いますが……それを見越した上で、適正な賃金分になるよう渡すつもりですよ」
「お、おう……」
国王は、しばらく考え込むように動かなくなった。
「……まあ、そういうことなら、余としては問題無いな」
国王が考え込んでいる間、俺は提案が通るか少し心配だったが……最終的に、国王はそう返事してくれた。
「というわけで、そなたの計画を実行できる土地について話していこうと思うが。よいか?」
「ありがとうございます」
俺が一礼すると、国王は玉座から立ち上がり、一巻きの巨大な巻き物を手に取った。
「その候補は、ここなのだが……」
広げた巻き物の中身は地図だった。
国王はその一箇所を指しつつ、土地の説明を始めた。