第91話 俺の番が来た
アヴニールさんに無理やりねじ伏せられた光の斬撃は……バリンと大きな音を立て、粉々に砕け散ってしまった。
と同時に……まだ決着が着いたわけでもないのに、観客席からは盛大な歓声が鳴り響いた。
「は……はああぁぁぁぁ!? なあヴァリウス、あんなことあっていいのかよ!」
「流石にあれはちょっとウケますね」
エボルバは目の玉が飛び出そうなほど驚いていたが、俺は笑ってそう返した。
確かに……アヴニールさんのパワーは、どう考えても尋常ではない。
英雄の最上位魔法であるギャラクシースラッシュは、まともに受けてはいけない技の代表格とも言えるものなのだ。
本来なら、絶妙な角度で強力な対魔法結界をあてがい、いなすくらいしか無傷で済む方法は存在しない。
それを……事もあろうかアヴニールさんは真正面から物理的に受け止め、尚全くの無傷でいるのだ。
テイマーを除けば、彼は前世と今世合わせた中でも間違いなく最強だろう。
だが……俺はそのことを、むしろありがたいと思っていた。
これほど強力な選手を相手に、真っ向勝負で誰の目にも明らかな勝ち方ができたら……人々の目に、テイマーの真の力を強く印象づけることができる。
それは間違いなく、今後の活動にとって大きなプラスになるはずだ。
第一ラウンドの戦いも、悪くはなかったのだが……お互い戦略がちょっとトリッキーだったため、傍目には滑稽な試合になってしまっていた気がするからな。
それとうってかわって、次の試合は、観客の目にも見ごたえのあるものにできるだろう。
第一ラウンドの試合があんなのだったのも、ギャップで次の試合の印象を強められると考えれば、あの勝ち方がむしろ最適だったとも言えるかもしれない。
ケイディには悪いが……この大会、俺の手で締めくくらせてもらおう。
そんな風に俺は、試合の順番が回ってくるのがちょっぴり楽しみにもなっていた。
「ウケるって……なんでアレ見てそんな余裕でいられるんだよぉ……」
エボルバは呆れたような声のトーンで、そう口にした。
ギャラクシースラッシュを破ったアヴニールさんは……そのまま跳躍して一気にケイディとの間合いを詰めた。
そして……衝撃波を伴うパンチの連撃を、何十発と繰り出していった。
ケイディは最大限の防御を展開し、それに対抗しようとしたが……ものの数秒で、勢いに押されてそのまま場外落ちしてしまった。
そうして第二ラウンドの第一試合は、アヴニールの圧勝に終わった。
……さて、じゃあそろそろ試合に出る準備をしようか。
『コーカサス、ベルゼブブ。試合前の腹ごしらえだ』
俺は2匹に念話でそう伝え、収納魔法から取り出したビーストチップスを分け与えた。
『いよっしゃあ! 食事こそフードだぜ!』
『ヴァリウス、次はどんな作戦で行くんだ?』
『そうだな、まずは……』
2匹がビーストチップスを頬張る中、俺は次の試合で最適と考えられる立ち回りを伝え、準備を整えた。
「では、行ってきます」
「おう。なんかもう、次の試合どうなるのか怖いぜ……」
インターバルが終わる頃になって、俺は筋斗雲を取り出しつつエボルバに挨拶をし、それから2匹と共に試合場に向かった。
試合場に上がると……アヴニールさんは既に、コンディション調整を終えてその場に立っていた。
その穏やかそうな表情からは逆に、集中力を最大限まで高めているのがひしひしと伝わってきた。
こういうメンタルの奴が、一番手ごわかったりするもんなんだよな。
などと考えつつ……俺はコーカサスとベルゼブブに目配せをし、お互い万全を期していることを確かめ合った。