第90話 OBは結構強いみたいだ
治安維持隊への引き渡しを終えると、俺たちはまた空間転移で控え室に戻った。
「さて、第3試合の様子は……」
そろそろ3年主席対国王直属騎士団代表選手の試合は始まっていて、戦いが白熱している頃だろう。
そう思い、俺は身を乗り出して試合場の様子を見ようとした。
だが……そこには選手はおらず、ただただ観客の歓声だけが鳴り響いていた。
何があったんだ? まさか、もう決着がついたのか?
そう思い、試合結果の表に目をやる。
すると……実際そのまさかで、試合は国王直属騎士団代表の勝利に終わっていた。
……早くね?
俺はそれを見て、そんな感想を抱いた。
試合と試合の間には、ちょっとだけ休憩時間がある。
俺は休憩時間の間にテキ屋の店主の引き渡しを終え、試合の序盤の頃に控え室に戻ったつもりだった。
それなのに、もう試合が終わっているということは……第3試合、かなりのスピード勝負だったということになる。
「あれ……もう第3試合終わったのか?」
そう思っていると……エボルバも同じことを考えていたようで、エボルバはケイディの関係者と思われる人を一人捕まえ、質問していた。
「はい。第1ラウンドの第3試合……たったの25秒で決着がついてしまったんですよ」
「に、25秒? 一体どんな展開だったんだそれは……」
「初めは精鋭学院3年主席のサイ=トーライト選手の方が優勢に見えたんです。彼女の得意技、『超重力腕十字』は相手選手に対し完璧に決まってました。ですが……相手選手・アヴニール=チャオツァン選手は技の重力圏からいとも簡単に脱出してしまったんです。そして、その後は一瞬で……アヴニール選手の衝撃波を伴うパンチで、サイ選手は一瞬で沈んでしまいました」
そして、試合内容はそんな感じらしかった。
……超重力腕十字か。
あれ、かかってしまったら逃げるのは至難の技なので、技の重力圏に入ってしまわないよう加速魔法で躱すのがセオリーなんだけどな……。
それを力づくで抜け出すとは、国王直属騎士団の代表選手は相当なパワーファイターのようだ。
そんなことを考えていると、今度は拡声魔法での会場アナウンスが流れ、こんなことが伝えられた。
「えー、次の第2ラウンドの第1試合ですが……本来ならば精鋭学院1年代表ヴァリウス選手対国王直属騎士団代表アヴニール選手となる所ですが、本大会では試合順を前後させ、2年代表のケイディ選手とアヴニール選手の試合が先に行われることになりました」
戦技大会のトータルの勝敗は、次のように決められる。
まず、第1ラウンドで精鋭学院側、あるいは騎士団側が3本とも取った場合は、そのまま勝者側のストレート勝ちとなる。
だが今回みたいにそれぞれの側に勝者がいる場合は、第2ラウンドで勝者同士が試合をし、最終的な決着をつけるのだ。
今回の場合は、ケイディあるいは俺どちらかがアヴニールさんに勝てば精鋭学院の勝ち、アヴニールさんが俺たち両方に勝てば騎士団側の勝ちとなる。
そして……本来、第2ラウンドでは俺が先にアヴニールさんと戦うはずだったのだが。
どうやら、ケイディが先に行くことになったみたいだな。
意図は分からないが、そういうことなら大人しく観戦していよう。
そう思い、俺は再び試合場に視線を戻した。
◇
「それでは……始め!」
審判の合図と共に。
ケイディは、自分が持つ剣の先に魔力を集中させ……何やら魔法を発動させるための準備を始めた。
「あいつ……何の魔法を使うつもりなんだ?」
エボルバが隣で呑気にそう呟いている間にも、ケイディが持つ剣の魔力は加速度的に膨れ上がっていく。
そして……しばらくすると、その剣の周りにはいろんな惑星が吸い込まれていくようなエフェクトが発生しだした。
「へー、あれ使えるんだ」
それを見て……俺は柄にもなく、素直に感心してしまった。
今ケイディが使おうとしているのは、「ギャラクシースラッシュ」という技。
英雄が使う職業専用魔法の中では、上の中くらいに位置するかなりの難易度の技だ。
転生者かつテイマーの俺は別として、あれ10代のうちに扱えるようになる人はほんの一握りのはずなんだが……流石に、この世界の最高学府で主席と呼ばれるだけのことはあるようだ。
「お、おい……あんな技放って大丈夫か? 対戦選手、一刀両断されちまうんじゃないか?」
エボルバといえば、まかり間違ってケイディがアヴニールさんを殺してしまうことを心配している様子である。
だが……
「流石にその心配はないと思いますよ? おそらく彼女は……あの大技に賭けないと勝つことができない。そういうつもりで、今の技を発動している気がします」
俺の目には、今の状況はそんな風に映っていた。
そして……ついに技が完成したのか、ケイディは剣を一振りし、地面を断裂させながらアヴニールに肉迫する光の斬撃を飛ばした。
……アヴニールさん、どう迎え撃つつもりだ?
そう思っていると……あろうことか、アヴニールさんはその斬撃を素手で鷲掴みにし、そのまま地面にねじ伏せてしまった。