第88話 ペテン師を見つけた
試合が終わり、控え室に戻る。
すると早速、エボルバが話しかけてきた。
「いやあ、見事だったよ。O2騎士団相手にあそこまで華麗にやるとはね」
「いえいえ」
「しかしまあ……マジでやりやがったな。『もしかしたらヴァリウスなら、栽培戦士を発動さえさせないんじゃ……なんちゃって』とか考えてはいたけどさ」
「ベルゼブブのおかげですよ」
試合後の感想を語り合う中、エボルバは楽しそうな表情を浮かべていた。
「それに……O2騎士団の方も、流石にマズいと思ったのか『究極の直感』は使ってきませんでしたしね」
しかし。
俺がそう言うと、エボルバは急にキョトンとした表情になってしまった。
「……ん、何それ?」
「何、とは?」
「その……究極のうんたらって奴」
どうやらエボルバは、「究極の直感」を知らない様子だった。
……そういえば、「究極の直感」はあくまで前世でのポーションの名前だしな。
もしかしたら今世では、別の名称で呼ばれているんだろうか。
そう思い、俺は薬効を詳しく説明してみた。
だが……それに対するエボルバの反応は、想像の斜め上をいくものだった。
「いや何だよその反則みたいなポーション!? 栽培戦士の上を行く錬金術とか初めて聞いたんだけど!」
なんと……今世では、そもそも「究極の直感」が存在しないことになっていたのだ。
「え……究極の直感、存在しないんですか……」
「しないよ! 何なら出禁前の大会でO2騎士団が使ったのだって栽培戦士だしさ……」
……マジか。
アイツら、結局更生してなかったんだな。
エリクサーを渡したのは、失敗だったかもしれない。まあ、
「ちなみにその……究極の直感とかいう薬、どんな材料でできてんだ?」
「そうですね。まず、エンジェルグリズリーの爪と……」
「もうしょっぱなから伝説の素材言い出してるよね」
材料を聞かれたので説明しようとしたら、そうツッコまれてしまった。
なるほど……確かに材料が入手できなければ、いくら錬金術に熟練していても作ることはできないか。
……いつか材料を揃えて、ベルゼブブに作らせてでもみようかな。
などと考えていると。
控え室の方に、第2試合の選手入場の合図が響いてきた。
次の試合……ケイディ対プリンゼルの試合が、もうすぐ始まるのである。
「なあヴァリウス……。流石にこの試合の時くらいはさ、俺の従姉妹応援してくれるよな?」
そのタイミングで、エボルバは話題を変え、そんなことを聞いてきた。
「そうですね……」
俺はそこで、若干言葉を濁した。
別に俺は、同じチームでも応援したくないってレベルでケイディを嫌っているわけではない。
多少迷惑ではあるものの全ての場面で面倒ごとは回避できてるし、今のところ実害はゼロだからな。
だが……問題はそこじゃない。
「それが……相手選手、俺を精鋭学院に推薦してくれた貴族の息子さんなんですよね……」
「あー、そりゃ確かに複雑だよな……」
そうなんだよな。
相手、プリンゼルなんだよな。
転生直後の第一印象はアレだが……そんなの、まさか今さら根に持ってるわけがない。
それにあの日以降彼はテイマーを見下すことはなくなったしな。
彼がカルメル様の息子である以上、俺はプリンゼルを応援すべき立場にもある……気がするのだ。
まあ要は……どっちが勝っても素直に喜べないのである。
こんな時は……そうだな 。
会場周辺の様子でも、千里眼で眺めてみるか。
俺は第2試合の間は、お祭り状態の外の様子を観察していることに決めた。
◇
そして……しばらくして。
俺は、会場周辺にある無数の屋台の一つに注目していた。
その屋台は、テキ屋を営んでいた。
テキ屋はとなりに「1等は豪華商品、ワイバーンの角!!」という看板を立てていることもあり……辺りで最大の繁盛具合を見せていた。
だが……俺が目をつけたのは、テキ屋の景品ではなかった。
俺は千里眼を使い……祭りくじの当たりの割合を調べていたのである。
その結果、とんでもないことが判明した。
なんとこのテキ屋……2等以上の当たりくじを、1枚たりとも入れていなかったのである。
これは……完全に詐欺だな。
一瞬試合に目を戻し、ケイディの勝ちで決着がついたのを確認すると……俺はエボルバに声をかけた。
「エボルバさん。ちょっとついてきてほしい場所があるんですが」
「良いけど……どこだ?」
「ちょっと外へ。大丈夫です、すぐ着きますしすぐ終わります」
犯罪を暴くには、立会人が必要だ。
だから俺はエボルバに、その役目を果たしてもらおうと考えているのだ。
俺は空間転移で、エボルバと共にテキ屋の屋台から少し離れたところまで移動した。