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side: 観客たち

[side:一般観戦者]


チヴァが栽培戦士の種を植えだした時。

観客席の空気は……凍りついていた。


「おいアイツら……また懲りもせずにあの技を……」

「出禁解けたと思ったらまた栽培戦士かよ!」


戦技大会は人気なイベントというだけあって、観客の中には長年のファンもたくさんいる。

中には、O2騎士団が出禁となる原因となった大会も見に来ていた人も多かった。


そんな彼らの脳裏には……当時の大会の惨状が浮かんでいた。

O2騎士団の選手が放った3体の栽培戦士の手によって、精鋭学院の生徒が葬り去られる光景が、だ。


「で、でも……流石になんか手を打ってはあるんじゃないのか? 相手選手を殺してしまわないための手をさ」

「どうだろうな……」


観客の中には、希望的観測からそんなことを言い出す者もいた。

だがその意見は……あっさりと否定された。


「それがな……逆に不安なんだよ。あの選手が植えてる栽培戦士の数、1個減ってるだろ? アレで手加減した気になってるとしたら……最悪だぜ」


今回チヴァが植えている栽培戦士の種は、2個。

その事が逆に、観客たちの不安を呼んだのだ。


栽培戦士は、単体でも十分選手の実力を凌駕する程には強力だ。

3個から2個に減らすのなど、とても手加減とは言えないのである。


「いよいよ……来るぞ……」


栽培戦士の種から芽が出る様子を見て……観客たちは、固唾を飲んだ。


あと数秒で、あの悍ましい植物が姿を表す。

誰もがそう思い、戦いの行方を見守った。



しかし……その瞬間は、いつまで経ってもやって来なかった。


「……あれ、どうなってんだ?」

「O2騎士団の選手、頭抱えてるぞ?」


芽が全く育たないどころか、黄色く枯れかけている様子を見て……観客たちは困惑しだした。

その困惑が続いていくなか、試合展開は矢継ぎ早に進んでいく。


「てかさ……精鋭学院の選手、あれテイマーだよな?」

「だ……よな。黒髪っぽいし、あのコーカサス、あの選手の指示で動いてるみたいだし……」


そして観客の興味は、ヴァリウスの従魔たちへと移っていった。


「おい、O2騎士団の選手、コーカサスにぶん投げられたぞ」

「コーカサスってさ、Bランクだし確かに強い魔物だけど……O2騎士団員が成すすべもなくやられるほどだっけ?」


さらに観客の関心は、ヴァリウスの従魔の想定以上の強さへ向かっていく。

そんな中……2回目の放り投げが決まり、チヴァの場外負けが決まると。


「あのテイマー……勝った……?」


栽培戦士の不発に安堵しつつも、精鋭学院側の選手が勝つとは思っていなかった観客たちは……この結果に唖然とするのだった。



[side:アヴニール]


俺はアヴニール・チャオツァン。

今回の戦技大会で、国王直属騎士団代表として出場する選手だ。


俺は今……信じられないものを目にしてしまった。

O2騎士団の選手が放った栽培戦士が……なんと、育たずに枯れていってしまったのだ。


「な……あんなことが、あっていいのか?」


思わず、そんな言葉が口をついて出ていた。

それだけ、今起こっている現象はあり得ないことなのだ。



栽培戦士が育たない、ということ自体は、そこまで驚くことではない。

栽培戦士の種の合成や液肥の調合といった錬金術はかなり高難易度なもので、熟練した錬金術師でも失敗作を作ることはままあるからだ。


もし、今O2騎士団の選手が植えた種から芽が出てこなかったら……俺だって、「なんだ、ただの失敗か」と思っていたことだろう。


問題は……「発芽した種が、なぜかそれ以上成長せず枯れてしまった」という点だ。


栽培戦士が成功作か失敗作かを見分ける最大のポイントは、「芽が出るか否か」。

種に液肥をかけても芽が出なかったら失敗作だが、芽が出たものは必ず成体の栽培戦士になるのだ。


これは今までなされてきた数々の研究から分かっている、絶対的な事実だ。


そして一度育ち始めた栽培戦士の成長を止めるのは、まず不可能だ。

これについても、過去に試みた錬金術師は何人もいたが……それらの試みは、悉く失敗に終わっているのである。


だが……発芽してから枯れたということは、その不可能を、誰かが成し遂げたということになる。


そして状況的に、それをやったであろう人物はあのテイマーしかいない。



一体あの者は、何をやったというのだ?

というかそもそも、なんでテイマーが精鋭学院に? しかも主席で?

なんか今年の精鋭学院に関しては、嘘としか思えない噂がいくつか立っていたが……奴がその正体だというのか?


考えても分からない。

一つ確実に言えるのは……あのテイマーは、想像以上にイレギュラーな奴だということだな。


これは……とんでもないダークホースが出現したものだ。

今朝までは、第1ラウンドの対戦相手である精鋭学院3年主席・サイとの試合を一番楽しみにしていたんだが……もはやそうも言っていられなくなった。


あのテイマーの実力を知るために、全力を尽くさねばな。




というわけで……申し訳ないが、第1ラウンドの試合は体力温存のため、手加減しすぎずサクッと終わらそう。


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