第86話 炎上騎士団
ちょっと文中の表現について一箇所、大丈夫かどうか運営に確認したかったところがあったので投稿遅れました。すみません。
「O2……は!? アイツら、この大会は出禁になってるはずじゃ……?」
「いやでも、対戦表そうなってましたよ。見てみたらどうですか?」
俺がそう返すと、エボルバは信じられないという表情のまま対戦表を見に行った。
……出禁ってどういうことだよ。
一体過去に何があったって言うんだ。
そう疑問に思っていると……エボルバは驚きの表情のまま、俺の隣に帰ってきた。
「マジじゃん! え、やば」
エボルバは控え室全体に聞こえるような大声でそう言った。
……少しはボリュームを落として欲しいものだ。
「あの……出禁って、何があったんですか?」
俺はとりあえず、一番気になるワードについて質問してみた。
すると……エボルバの口からは、予想もしなかったような言葉が出てきた。
「O2騎士団はな……3年前この大会に出場した時にな。あり得ないほど酷い技を使用して、対戦相手を死亡させてしまったんだ」
「え……死亡、ですか?」
思わず俺は、そう聞き返した。
確かに、模擬戦に不慮の事故は付き物だ。
だが……もし対戦相手の死亡がそういう理由なら、それでその選手が出禁を食らうとはならないだろう。
「あり得ないほど酷い技で死亡させた」という事は、おそらくO2騎士団の選手は故意に相手を殺したのだろうが……この大会では対戦相手を殺すと反則負けとなってしまうというのに、そんな事をするものなのだろうか。
そう考えを巡らせていると、エボルバはこう続けた。
「O2騎士団ってのは、他とはちょっと違う特殊な騎士団でな……。どの貴族のお抱えでもない、『錬金術師だけで構成された独立騎士団』なんだ。戦闘に特化した錬金術はこの手の大会では危険すぎるって事で、アイツらは出場禁止になることになったのさ」
「ああ、なるほど……」
そう言われて、俺はちょっと納得がいった。
確かに……錬金術ってのは、途中で歯止めが効かない技がほとんどだからな。
手加減のしようがなく、やむなく対戦相手を見殺しにしてしまったということなら説明はつく。
例えば錬金術師が作る戦闘補助ポーションの一種に「究極の直感」というものがあるが……あれを使う戦法も、典型的な「歯止めが効かない技」の一つだ。
「究極の直感」は、飲むことで意識と肉体が切り離され、身体が勝手に戦闘に最適な動作をしてくれるようになる薬。
上位のものだと周囲の空気までもが飲んだ者の一部とみなされ、空気分子一つ一つが勝手に判断して動いてくれるようになる。
そのため、飲んだ者はプラズマを纏ったり放ったりと、強力な攻撃を繰り出せるようになるのだ。
反面、この薬にはデメリットもあって……一度「究極の直感」を飲んだら、敵を殺すまで「戦闘に最適な動き」を止めることができなくなる。
だから本来、模擬戦でこの薬を使うのは愚の骨頂としか言えないのだが……もし仮にどうしても戦果を挙げたかった錬金術師がこの大会でこの薬を使ってしまったなら、そんな結果になるのも無理はないな。
もちろん、動きのキレは飲んだ本人の身体能力にも左右されるので……いくら戦闘に最適な動作ができるようになるとは言っても限界はある。
いくらなんでも、ちゃんと力をつけたテイマーの本気の身体強化について行けるまでにはならないというわけだ。
だから……この戦いで、俺が負ける心配はまずないだろう。
そういう事情なら、ある意味「相手が卑怯な手段に出る恐れは無い」ということにもなってくるしな。
「……出禁になったのは、それだけが理由なんですね?」
一応俺は、そう確認してみた。
「まあ……戦闘に関しては、それだけだな。それ以外で言えば、観客に流通禁止の『オーガ殺し』を売ったりとか、素行が問題になったりもしてるが……」
「オーガ……殺し?」
「ああ。錬金術で作った、普通には実現不可能な度数の酒の事さ。そんなものを売るから、アイツら別名『炎上騎士団』なんて呼ばれてんだぜ」
「ああ……」
……あの酒ね。
アレ、飲むと高確率でアル中になるし、俺個人としては人間の飲み物じゃないとおもってるんだがな。
錬金術師は確かに酒好きが多い傾向にあるが……アレを市販するとは、相当だな。
「ま……要はO2騎士団、ただのライ縦ライ横ライ斜め的な集団ってとこですね」
俺が戦う分には、そんな認識で構わないだろう。
会場アナウンスで、第1試合開始の合図が聞こえてきたので……俺はそう言って席を立った。
「気をつけて戦ってきます」
俺はそう告げて、試合場に通じるドアを開けた。
「お前……年齢を理由に縁談は断ったクセに、飲みコールは一丁前に知ってんだな……」
後ろからエボルバが何か言ってたようだが、会場の歓声でよく聞こえなかった。
◇
試合場の舞台に上がると……そこには、すでに対戦相手の選手が入場していた。
あれが今回の対戦相手の錬金術師か。
見上げると、向かいの観客席の手すりにはO2騎士団のものと思われる横断幕がかかっていた。
その横断幕には、「もちろん俺らは更生するで、錬金術で」などと書かれてある。
……コイツら、絶対更生する気なんて無いな。
本当に更生する奴は、「更生するで」などと更生をネタにしないものだ。
てか、O2騎士団の応援席から「おいチヴァ、お前負けたらオーガ殺しイッキだぞ!」とか聞こえてくるんだが……あいつら、応援とかじゃなくて完全に野次馬感覚だよな。
……そんなことを思っていると。
対戦相手の選手が……おもむろに地面に穴を開け始め、開けた穴に植物の種のようなものを埋めだした。
……あれ、あの技を使ってくるってことは……今回の相手は「究極の直感」は使ってこないのか?