<< 前へ次へ >>  更新
86/118

第85話 懐かしい人に会った

それから俺は、「覚醒進化で飛躍的に実力が上がる魔物」を特定できないかと、色々な角度からデータの統計を取っていたが……その成果が出るより前に、あの日が来てしまった。


国王から「出場してくれ」と頼まれていた、戦技大会である。



もともと出場する気など全く無かったが、「クヌースの矢印希望」救済の表彰式をセットで行うとのことから欠場の余地がなくなったこの大会。


今回の会場は精鋭学院だとのことなので、今俺は一旦自決島から帰還し、学院へと戻っているところだ。


ちなみに開催地は、半年以内に大きな戦争があったか否かで変わるらしい。

戦争があった場合は辺境の軍の疲弊を考慮し、開催地は王都、対戦相手側の出場選手は王都周辺の貴族領の騎士団から選ばれるそうだが……戦争が特に無かった場合は開催地は精鋭学院、対戦相手は全国の騎士団からランダムに選ばれるそうだ。



寝てる間に筋斗雲でかなり帰ってこれていたため、起きてしばらくすると、精鋭学院の敷地が肉眼で見えるようになってきた。


学院周辺の雰囲気は、いつもとは全く違い……異様な盛り上がりを見せていた。


遠目にも分かるくらい大量の人が全方向から押しかけているばかりでなく、あたりにはそこかしこに屋台が乱立している。

戦技大会はかなり人気のイベントであり、観戦に来た人でお祭りのような状態になるとは聞いていたが……まさか、ここまでとはな。


そんなことを思いながら、人混みの上を通過する中……俺は千里眼で「精鋭学院代表選手・関係者控え室」と書かれた看板を発見したので、筋斗雲を収納しつつ、2匹と共にそこに空間転移した。



しかしよく見ると……その看板の下には、小さな文字で「ここから30m→」と書いてあった。


紛らわしいな、と思いつつその方向に歩く。

すると……廊下で立ち話している生徒たちから、こんな話し声が聞こえてきた。


「なあ見たか? 1年の代表の対戦相手さ……」

「見た見た。O2騎士団だってな」

「やべえよな。なんであの騎士団が出場するんだよ……絶対無傷じゃ済まねえじゃん」


1年代表の対戦相手……要は、俺の対戦相手か。

それがどうしたって?


控え室のドアの前まで来ると、そのドアには対戦表が貼ってあったので……見てみると、確かに対戦相手はこのようになってあった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「戦技大会第1ラウンド 対戦表」

1年代表 ヴァリウス vs O2騎士団 チヴァ

2年代表 ケイディ vs カルメル騎士団 プリンゼル

3年代表 サイ vs 国王直属騎士団 アヴニール

―――――――――――――――――――――――――――――――――


戦技大会の勝敗は、第1ラウンドと第2ラウンドの2つの勝負で決まるのだが……そのうち第1ラウンドでは、3組が1対1で戦うルールになっている。

この表は、その組み合わせを示したものだ。


出場選手の選び方だが、まず出場選手の人数は、敵味方合わせて6人。

精鋭学院からは原則各学年主席が、騎士団側からは「国王直属騎士団」から確定で1名、残り2名の出場者は全国各地の騎士団からランダムに2名選出されることになっている。


「国王直属騎士団」は精鋭学院OBだけで構成されるエリート部隊で、ここだけが他の騎士団とは一線を画す実力を持っている。

そしてその「国王直属騎士団」と第1ラウンドで戦うのは、決まって3年主席だ。


というところまでは、俺が国王との謁見の時すでに手に入れていた情報だ。

そして今回も、特に例外は無さそうな様子である。



だが……さっきのヒソヒソ話の雰囲気は、どうも俺の対戦相手「O2騎士団」の選手が一番ヤバい奴かのようだった。


あれは一体、何だったのだろうか。


まああれこれ考えてもしょうがないので、試合でしっかり気を引き締めておこうとだけ考え、俺は控え室で時間をつぶすことにした。







控え室に入り、しばらくすると……1人の男が、俺に話しかけてきた。


「ヴァリウス、久しぶりだな!」


振り返ると……そこにいたのは、Bランク試験昇格時に試験官だったエボルバ=ディーアイだった。


なぜこの人が控え室に?

……ああ、2年代表の関係者か。


「あっち行かなくていいんですか?」


「その髪、いい感じじゃん。」


俺はケイディの方を指し、そう言ってみたのだが……俺の質問は、はぐらかされてしまった。


ああ、髪ね。

今の俺は、黒髪と金髪のメッシュを入れたような感じになっている。

最初は完全に黒髪にするつもりでいたのだが、この方が物珍しさから人々の印象に残りやすいのではと思い、結局こうしてみたのだ。

それがバッチリ決まってると思ってもらえたなら、何よりである。


「そう言っていただけるとありがたいです」


と、そこで……俺はエボルバの額に、ちょっとした痣ができているのに気がついた。


「その怪我、どうしたんですか?」


「ああ、これはね……。ほら、君さ、謁見の時縁談に話しが出たろ? あれ、勧めたのが俺なんだけど、その事があの子にバレちゃった時にさ、ちょっと色々あってね……」


聞いてみると……衝撃の事実が発覚してしまった。


ディーアイ家、アイツの他に姉か妹でもいるのかと思ってたら……まさかの本人の同意なしだったオチかよ。

それは……ヤバいだろ。


で、しかも事の発端はエボルバだと。

もしかして、さっき俺の質問をはぐらかしたのも……そのことが関係しているのか?



ちょっとこれは……聞き捨てならないな。


「それは大変でしたね。あの……これ飲めば治りますよ」


俺は収納魔法から、1本の瓶を取り出してエボルバに渡した。


「……薬、か? どんな薬なんだ、これ?」


「エリクサーです」


「エリ……エ? いや、こんな怪我にエリクサーって、もったいないとかいう次元じゃねえぞ!?」


「量産出来るんで、薬効の劣るものをわざわざ揃えるのも面倒なんですよ」


「なんか何というか、ヴァリウスらしいっちゃらしいような……まあ、ありがとな。……ブッ!!」


……あ、ちなみにそのエリクサー、限界まで食塩溶かしてあるぞ。

意趣返しにと思って、バレないように一瞬で細工したのだ。

まあ塩分の摂りすぎの悪影響もエリクサーの効果で完全に消えるので、安心して飲んで欲しい。



「うえ、しょっぱ」


などと言いつつも、エボルバは何とかエリクサーを飲み干したようだった。


と、ここで……俺は、せっかくなので情報収集でもしてみるかと思い、この質問をしてみた。


「ところでエボルバさん。俺の対戦相手、O2騎士団とかいうとこ出身らしいんですけど……どういう人たちなのかとか、ご存知です?」


すると……一瞬にして、エボルバの表情は暗くなってしまった。


<< 前へ次へ >>目次  更新