第84話 最後の素材
筋斗雲で自決島に向けて移動しつつ、眠りに着き……目がさめると、俺たちは自決島の真上に到着していた。
早速、収納魔法から「覚醒進化素材レーダー」を取り出し……それから、探知魔法を発動する。
そしてすかさず、俺はレーダーの受信機構を起動した。
この覚醒進化素材レーダーは、探知魔法の反射魔力を利用して特定の魔物の位置を割り出す仕組みになっている。
そもそも探知魔法とは、周囲に魔力波を飛ばし、その反射の具合からどこに魔物がいるかを探し出す魔法なのだが……魔力波には一つ、重要な性質がある。
魔力波は、魔力を持つ物体に触れると……波長が探知魔法の使用者のものからその物体の魔力の波長へと、変化して反射するようになっているのだ。
そしてその、波長が変化した魔力波には……波形などに、その魔物の特徴を示す情報が含まれている。
魔力波の波形の特徴などというものは、細かすぎて人間の感覚では識別できないが……魔道具でなら、魔力波の波形が「特定の特徴と合致するか否か」くらいは識別することができるのだ。
そこで役に立つのが、俺が今まで収集してきた、魔物から抽出した情報だ。
魔物から抽出した情報の一つには、「魔力波関数」という項目があったのだが……その「魔力波関数」と探知魔法の反射魔力を比較し、似ているかどうか判別する魔道具を作れば、その魔道具は特定の魔物を探し出すレーダーとして使える。
そのことに気づき、俺は今回、こんなものを用意してみたのだ。
今、この「覚醒進化素材レーダー」は、「『動力』の覚醒進化素材となり得る魔物に共通する魔力波」のみを識別するように設定してある。
つまり、このレーダーで反応のあった場所にいる魔物は、確実に『動力』の覚醒進化素材に変換できる魔物だということになるのである。
レーダーは反射魔力を受信すると……しばらくして、該当する魔物の位置を画面に出力してきた。
「東に4.75km……地上付近か」
俺は覚醒進化素材をゲットすべく、レーダーが反応を示した地点へと移動した。
◇
レーダーが反応を示した地点には、しかし……魔物は1匹たりとも存在しなかった。
その代わりそこは、ダンジョンの入り口のような場所になっていた。
『おい、何もいねーぞ』
『ヴァリウスが言っていた魔物は、あの中にいるのか?』
ベルゼブブやコーカサスは、口々にそう言った。
「いや、そんなはずは無いんだけどな……」
だが俺には、目当ての魔物がダンジョンの中にいるとはどうしても思えなかった。
レーダーは確かに、「地上付近」に反応を示していた。
だが……いくら千里眼でダンジョンの1階層を探っても、そこには1匹たりとも魔物が見つからなかった。
更におかしいことには……このダンジョン、どう頑張っても2階層以降を千里眼で見れないようになっているのだ。
「……これは」
と、ここで……俺は一つ、とある可能性を思いついた。
このダンジョン……いや、
実際に見たことはないが……前世では、そんな魔物に関する噂は何度か聞いたことがある。
確か、この魔物の名前はアイホート。
ダンジョンに擬態して人間を中に誘い込み……亜空間となっている2階層以降に人間を幽閉し、食糧尽きて弱ったところを消化する魔物だったはずだ。
千里眼で2階層以降を見れなかったのも、アイホートの亜空間だったからだと言えば説明がつく。
もし俺たちがこのことに気づかず、この”ダンジョン”の中に入ってしまっていたら……まあ空間転移で脱出は可能だったろうが、意味のない魔物探しにいらぬ時間をかけてしまっていたことだろう。
『コーカサス、あのダンジョンの入り口だが……地面からひっぺがしてくれないか?』
俺はコーカサスに、そんな指示を出した。
アイホートにとっての地上のダンジョンの入り口は、人間にとっての爪のようなものだと聞いたことがある。
だとすれば……爪剥がしならぬ「ダンジョンの入り口剥がし」は、最もオーソドックスな拷問手段だと言えるだろう。
痛めつければ、敵は擬態をやめ、真の姿を現わすだろう。
そしたら、そこを全力攻撃してやればいいというわけだ。
コーカサスは角をダンジョンの入り口の下に滑り込ませると……そのまま一気に、入り口を持ち上げた。
すると、次の瞬間。
「ギイエエェェェェ!!!」
どこからともなく叫び声が聞こえたかと思うと……ダンジョンは消え去り、そこにはたくさんの目を持つ不定形の魔物が姿を現していた。
『よし、ベルゼブブも行ってこい!』
やはり、ダンジョンは擬態していたアイホートで間違いなかったな。
そう思っている間にも、2匹はアイホートに波状攻撃を加え、みるみるうちに敵の体力を削いでいく。
程なくして、アイホートはピクリとも動かなくなったので……俺はその死体を、収納魔法で回収した。
……これで、覚醒進化素材、6種類とも集まったな。
『コーカサス、ベルゼブブ。これから近いうちに、お前たちにも後輩ができるぞ』
『おお、ついにか。楽しみだな』
『イヤッホーウ!』
まあ、あとまだ「覚醒進化で飛躍的に力が伸びる種類の魔物」を探す過程が残ってはいるのだが。
情報抽出魔法には、まだまだ可能性があると思うし……それも何か、いい方法が見つかるかもしれないな。
俺は2匹にビーストチップスをあげつつ、どうすればそんな魔物を比較的簡単に見つけられるかについて、仮説を立て始めた。