第83話 様々な可能性
収納魔法から先ほどの魔物を取り出し、再び例の魔法をかける。
すると、前回と同じようにまた光の玉が出現。
俺はその玉を、作りたての計算液晶の画面に触れさせた。
光の玉が完全に消えた時……計算液晶の画面には、縦横共に10以上の項目がある巨大な表が表示されていた。
表題は『魔物の特徴とその要因の対応表』だった。
「……一旦、全体を見てみるか」
表の拡大率を下げ、表の全体が画面に映るようにする。
が……そうすると文字が小さくなりすぎて見えづらかったので、再び拡大し、スクロールで全体を追っていくことにした。
「どれどれ……」
表の内容を確認すると……縦軸は『体力』『知力』『魔力』『得意属性』などという項目が続いていて、最後の項目は『特異事項』というものだった。
そして横軸には、『値/事項名』『該当内部要因(染色体番号)』『該当内部要因(塩基配列)』『環境要因』などという項目が並んであった。
「……すげえ。ここまで分かるんだ」
あまりの表の詳しさに、俺は思わずそう呟いてしまった。
前世で存在した情報抽出系の魔法にも、魔物の情報を分析するものはなくはなかったが……ここまで詳しく分かるものは、何一つとして無かった。
特に、魔物の特徴と遺伝情報の関係がダイレクトに分かるってのがヤバい。
それ、前世でも未解決問題の一つだったんだぞ。
もしこれを前世の魔物生物学者が知ろうもんなら、気を失ってしまうかもしれないレベルだ。
これだけの情報があれば……裏技的な魔物の討伐方法とか、新魔法薬、新魔道具の発明が一気に進むはずだ。
もっと情報を集めて、分析しない手はない。
朱雀も倒して、今はこれといって急ぎの用が無い時期だしな。
しばらくはいろんな魔物から情報を抽出していって、その情報を統計的に分析する作業に徹してみるか。
◇
そして……計算液晶を手にしてから3週間が経ち。
ついに俺は、最初の成果を手にすることができた。
この3週間で、俺は330種類近くの魔物の情報を抽出した。
王都の近くの迷宮と精鋭学院付属迷宮の魔物から全階層の魔物を集めたら、被りを除いてそれくらいの種数になったからだ。
集計と分析は、主に精鋭学院付属迷宮42層を拠点に行った。
理由は、ハイルナメタルの精製を並行して行うためだ。
ハイルナメタルの精製の方はほぼ完全にただの作業だし、その大部分の工程がコーカサスとベルゼブブに任せ切れる。
だから、主に頭を使う集計・分析とは同時並行で行えたのだ。
ちなみに2学期ならとうに始まっているのだが、まあそこは問題ない。
国王から貰った単位は、今学期から適応可能になっていたからな。
ちゃんと履修登録時に確認したのだが、欠格条件があったり平常点がないと最高評価がつかない科目にその権限を適応したら、やはり今学期も自主全休にできると分かったのだ。
そんなわけで、俺はこの3週間、集計と分析に専念できた。
流石に膨大なサンプルを分析しただけあって、発見できたことはたくさんあったのだが……その中でも、俺が特に注目すべきだと思ったのは次の2点だった。
まず1点目は、「覚醒進化素材となる魔物の場合、特異事項に『覚醒進化素材【設計図】』等と表示される」という点。
そして2点目は、「覚醒進化素材に魔法をかけても、交換前の魔物の情報を抽出することができる」という点だ。
覚醒進化素材であることが特異事項として表示されるということは、覚醒進化素材が覚醒進化素材たり得る遺伝的な要因が分かるということだ。
俺はこのことから、「特定の遺伝形質を検知する魔道具を作れば、覚醒進化素材となる魔物を簡単に探せるのではないか」という仮説を立てた。
そして……その仮説は、完全に当たっていた。
俺は分析した情報を元に、「覚醒進化素材レーダー」という、覚醒進化素材となる魔物の位置を探知する魔道具の開発に成功したのだ。
この魔道具を作るにあたって、覚醒進化素材そのものからでも情報を抽出できるというのは大いに幸いした。
なんせ覚醒進化素材、サンプル数を確保するのが何より大変だからな。
集めてあったものが役に立ったのは、正直かなりラッキーだった。
せっかくだし……俺は今からこの魔道具を使って、自決島に覚醒進化素材を集めに行こうと思っている。
上がった成果は早速試してみたいし、なんだかんだで【動力】の覚醒進化素材はまだ手に入れてなかったからな。
今までは行き当たりばったりでしか覚醒進化素材を集められなかったが……この魔道具があれば、一瞬で探し出せてしまうだろうな。
サクッと最後の素材を手に入れて、覚醒進化素材集めをコンプリートさせてしまうとしよう。