第81話 新たな魔法
というわけで……今回の謁見は、「治外法権と精鋭学院の単位を貰う」という結果に終わった。
余計な足かせになるようなものは貰ってしまわず欲しいものだけ手に入れ(もらい過ぎではあるが)、テイマーの真価についても理解を示して貰うことができた。
まさに、完璧な立ち回りだったと言っていいだろう。
とはいえ……この歳で縁談が来たのは、流石に驚きだったが。
全くもって、貴族の親族になどなるくらいなら、上手く条件設定した死者蘇生とかで好みの子を蘇らせたりした方がマシというものである。
「あ、そういえば……」
と、ここで、死者蘇生について思い出したところで……俺は1つ、素朴な疑問を頭に浮かべた。
「死者蘇生の神通力の流れ、魔力で再現したらどうなるんだろ?」
俺は死者蘇生を習得する際、まずは回復魔法の魔力操作を模して神通力を操作する練習をした。
その時何が起こったかというと、神通力の流れに補正がかかり、自動的と言ってもいいような形で死者蘇生が発動したのだ。
じゃあ、逆にだ。
その補正がかかった神通力の動きを、今度は魔力操作で完璧に再現したら──どうなるのか。
新たな魔法が発見できたりでもするのか。
その辺がふと気になったのだ。
回復魔法に近い魔力操作をすることになるのだし……今回試す魔法は、負傷、もしくは死亡した魔物に対して働きかける魔法である可能性が高いだろう。
である以上、今回の実験のためにはまず、魔物のいるところに行かなくてはな。
というわけで、俺は空間転移でコーカサスとベルゼブブが待つ筋斗雲の上に移り、王都の郊外に向けて出発した。
『ヴァリウス、どこに向かうのだ?』
『どこってか……ちょっと実験をしに、ね』
『ほへー。またなんか薬品使う系?』
『いや、今回はそういうわけじゃあないな』
そんな会話をしつつ、しばらく進んでいると。
遠目に一体の魔物が見えたので……俺はそいつに如意棒でヘッドスナイプを決めた後、近くに降り立った。
「……よし、大丈夫だな」
魔物がちゃんと死んでいるのを確認する。
それを終えると……早速俺は、死者蘇生の神通力の流れを模して魔力を操作してみた。
すると……表面に紫の幾何学模様が浮かんだ青白い光の玉がその魔物から出てきて、俺の手元までやってきた。
「……なるほど。情報抽出系の魔法か」
俺はその光の玉を眺めつつ、そう呟いた。
情報抽出系魔法。
その名の通り、これは魔法をかけた対象から何らかの情報を得るための魔法だ。
前世でも、この手の幾何学模様を持つ光の玉が出現する魔法はいくつか存在した。
そしてそれらに共通していたことが、情報抽出系の魔法だということなのだ。
だからこの魔法も、同じ系統と見て間違いないだろう。
もっとも、今回使った魔法そのものは前世では存在しなかった物なので、具体的にどんな情報が抽出できているかは見てのお楽しみということになるのだが。
というわけで、さっそく試してみようか。
地面の砂利に含まれる石英に錬金術師の魔法をかけ、即席の水晶玉を作成する。
そして俺はその水晶玉に、光の玉を触れさせてみた。
これが一番オーソドックスな、抽出した情報の見方だ。
さっきの魔法が俺の思った通りのものなら、これで閲覧できるはず。
そう思い、しばらく待っていると……水晶玉は、光の玉に触れた部分から徐々に様子が変わり始めた。
一応、成功である。
やはり思った通り、死者蘇生を模した魔力操作で発動した魔法は、情報抽出系の魔法だったのだ。
『な……何が起こったのだ?』
『え、やば! きれーい』
水晶玉が変わった輝き方をしているからか、コーカサスもベルゼブブも興味津々といった様子で覗き込んでくる。
『俺、新しい魔法の実験してたんだけど……どうやらそれが、情報抽出系の魔法だったみたいなんだ。この水晶には今、情報が映ってる』
『なるほど。それはどんな情報なのだ?』
『それがだな……』
だが……コーカサスの質問を受けて、俺は言葉を詰まらせることとなった。
というのも……今使った魔法、情報抽出系魔法であることは間違いないのだが、どんな情報が抽出できたかがさっぱり分からないのである。
前例のない魔法で抽出した情報というだけあって、その解読の仕方が分からないのだ。
思えば前世では、情報抽出系魔法に関する教科書には、魔法の発動の仕方と解読の仕方がセットで書かれてあった。
だから、「抽出した情報の解読の仕方を編み出さなければならない」という状況に遭遇することなど、一度も考えたことがなかったのだ。
水晶玉の読み取り方が分からなければ、この手の魔法は使う意味がない。
もしかしたら、せっかく開発したこの魔法、お蔵入りになってしまうかもしれないな。
だが……まだちょっと、諦めたくはないな。
どうせなら、他の情報抽出系魔法の解読方法とかを参考に、今回の魔法をちょっとでも解読出来ないか粘ってみるか。
そう思い、俺は何かしら手がかりを見つけるために、水晶玉をじっくりと観察していった。
……すると。
「……なるほど、なるほど。mxmlか」
今回の魔法は俺が知っている情報抽出系魔法とは違いすぎて、その殆どの部分からは何も読み取れなかった。
だが一箇所だけ、この水晶玉に見覚えのあるパターンを発見できた。
それは、今回抽出した魔法が「mxml」というフォーマットになっているということだ。
mxml。
魔導拡張可能マークアップ言語。
このフォーマットで構成されている情報なら……とある魔道具に読み込むことで、簡単に人間に理解できる形で情報を表示することができるのだ。
そしてその魔道具の作り方なら、前世の大学の教養課程でバッチリ習っている。
『どんな情報かは、ちょっと専用の魔道具を作って見てみないと分かりそうにないんだ。だから……何が分かったかは、その魔道具を完成させてから教えるよ』
2匹にそう伝え、俺たちはまた筋斗雲に乗った。
そして……俺たちは、その魔道具の材料が手に入るところに向けて出発した。