第2章最終話 ドアインザフェイス
「今すぐお見せすることはできますが……この部屋、武器の持ち込み禁止なのに従魔は入れて大丈夫なんですか?」
念のため、そう質問してみる。
「構わん。そもそも、武器を預からせてもらっているのだって、形式的なものだしな。そなたほど規格外な者を呼んでいる以上、もともとどんな警護も無意味というものよ」
すると国王は、朗らかな表情でそう返してきた。
……そんなことでいいのか。
まあ、この国で一番偉い人がそう言うのだから、何も問題は無いのだろうが。
じゃあ、呼ぶか。
『コーカサス、ベルゼブブ。国王がお前らに会いたいって言ってるから、ちょっと空間転移で呼び寄せさせてもらうぞ』
『分かった』
『りょーかーい』
2匹の承諾を得たところで……俺は神通力を用い、2匹を謁見の間の中に転移させた。
「紹介します。こちらがコーカさ……」
そしてそう言いかけたところで……急に国王は、玉座からガタリと立ち上がった。
「い……今、どこから現れた!?」
国王は口をあんぐりと開けたまま、俺とコーカサスやベルゼブブを交互に見た。
「あー、これにはちょっと特殊な呼び方がありまして……。ちょっと説明は難しいのですが」
「……そ、そうか。いや、急に取り乱してすまんかったな。どうせその方法は聞いて分かるものではなさそうだしな、続けてくれ」
空間転移を使ったのはまずかったかとも思ったが……どうやら、その説明は求められずに済みそうだった。
良かった、セーフだ。
じゃあ気を取り直して、もう一度紹介しよう。
「こちらがコーカサス、俺の従魔です。そしてこちらはベルゼブブ、俺の直属の従魔ではありませんが、コーカサスのパートナーなのでほぼずっと一緒に行動してます」
すると……国王の表情が、急に興味津々といった感じに変わった。
「コーカサスにベルゼブブ……。そんな強力な魔物をテイムしたテイマーなど、聞いたことがないな……」
国王は感心している様子だが……そこ、まだ核心とは程遠いんだよな。
「2匹とも特殊な方法で更に強化されているので、通常の個体とは比べ物にならないくらいの力を持ってますよ」
「ほう、どのくらいだ?」
「そうですね……。2匹いれば、この近くのダンジョンの迷宮主くらい瞬殺できる力を持ってます」
……正直、この説明では2匹の強さを言い表せているとは言えないのだが……他に分かりやすそうな指標もない以上、仕方ないな。
「な……迷宮主を討伐だと? しかし確かに、それならそなたが『クヌースの矢印希望』を救出した側だと言うのも、納得がいくものだな……」
だが……どうやら国王にとっては、十分なインパクトだったようだ。
とりあえず、この国で一番影響力のある人にテイマーの素晴らしさを伝えられた以上、今回の謁見は御の字と言えるだろう。
などと満足した気分に浸っていると……国王は急に、話題を変えてきた。
「ちなみに話は変わるが……そなたはこれまでの功績から、史上初のSランク冒険者への認定の他、そなたが望む報酬を褒美として与えることになっておるのだ。それでだが……何か、欲しいものはあるか?」
……欲しいもの、か。
俺はそう問われ、ここは真剣に考えねばと思った。
土地とか貴族の位とか渡されても、正直困るからな。
俺は権力といったような、自由が減るしがらみになり得るものは欲しくないのだ。
確かにテイマーの地位向上のためには、政治力が重要になる場面もあるだろうが……今の俺にはカルメル様に「クヌースの矢印希望」と、過剰なまでの後ろ盾が存在する。
その上、今日の会話で国王もテイマーの真価に理解を示してくれた。
ここで更に貴族の位を受け取ったりしたところで、却って面倒ごとが増すだけとなりかねないだろう。
だが……国王が渡してくれる報酬として真っ先に挙げられるのは、間違いなく土地や貴族位といった類のものになってくる。
それ以外のもので済ませてもらおうとするなら、少々ぶっ飛んだものを要求してみる必要があるだろうな。
というわけで……そうだな。
心理テクニックの一つに、「ドアインザフェイス」というものがある。
これは最初に難度の高い要求を出して相手に一旦拒否させておき、それから徐々に要求水準を下げていくことで、先立つ要求を目くらましにしてこちらの最も望ましい要求を承諾させる交渉術だ。
これを狙って、まずはどう考えても通らない要求をしてみよう。
「そうですね……では、治外法権をください」
治外法権。
これがあれば、俺はこの国のどんな法も完全に無効化することができるようになる。
当然、こんなものが認められるはずな──
「それがそなたの望みか。良かろう」
──え?
今この人、「良かろう」って言った?
……マジかよ。
治外法権、通ってしまうのか。
「欲しいものはそれだけか?」
「え、ええ。試しに言ってみたものの、まさか本当に治外法権が手に入るとは思ってもみませんでしたから。これ以上何かを望もうものなら、それこそ罰当たりもいいとこです」
しかし逆に言えば、これだけ大きな望みが通ってしまった以上は、「これ以上貰うなんて畏れ多い」という方向性で話を進めれば土地や貴族位の下賜を固辞しやすくなる。
そう思い、俺はこれ以上は何もいらないという意思を伝えてみた。
「そうか。そなたは前代未聞の功績を残しているのだし、遠慮はいらんのだがな……。あ、それとそういえば、だ。そなたにはディーアイ家から『ぜひうちの娘を』と縁談が来ておるのだが……」
「あ、それは遠慮しておきます。それ貰うくらいなら精鋭学院の単位もらえる方が嬉しいです」
ワァオ。
貰ったところで使う事などないだろうと思っていた治外法権、早速出番だった。
ディーアイ家といえば、知り合いには昇格試験の試験官と……あと、うん。
まあ流石にあの人は拒否するだろうから、その姉か妹をって話なんだろうが……アイツが親族になるって時点で、もう色々あり得ん。
あの試験官だけなら、まだ気が合いそうなもんだが。
というか俺、前世含めりゃ確かにいい歳かもしれんが、まだ12才だぞ。
「まあ、そうなるだろうな。余にもそなたのような圧倒的な力があれば、あの時……っ」
……いや、急にそんな深刻なこと言われましても……
少し困惑していると、国王はハッとしたように表情を変え、こう続けた。
「いや、変なことを聞かせてしまったな。すまない。えーと、精鋭学院の単位だな? 分かった、何単位か免除になるよう交渉しておこう」
単位、本当に貰えるのか……。
いや、2学期は一個だけ出席による欠格条件が定められている科目があったので、それを免除にしてもらえるならラッキーなことこの上ないのだが。
なんだか至れり尽くせりしてもらい過ぎな気がするが……まあ最初に治外法権貰ってる以上、今更か。
などと考えていると、国王は更にこうつけ加えた。
「ただ……学校休むのは構わんが、来月の戦技大会には精鋭学院代表として出てくれよ。その場を借りて、『クヌースの矢印希望』の復活とそなたの功績の発表を同時に行うからな」
……マジかよ。
戦技大会って、確か精鋭学院と王国騎士団の武術を競う大会的なやつのことだよな。
あんまり面白くなさそうだから不参加を決め込んでいたのだが……こんな形で無理やり引っ張り出されるとは。
……仕方がないから、それまでに黒髪に戻して、テイマーの力をアピールするチャンスとでもポジティブに捉えておくとするか。
これにて二章完結です!
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