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第77話 その頃、彼らは……

1日で月まで往復できるよう進化した如意棒に、いつも土台扱いしていた湖。

まるで「久しぶりに月に行け」とでも言われているかのような状況の揃い具合だが……正直、それも何だかって感じだな。


というのも、今俺は、納品できる精錬済みのハイルナメタルを一切持っていない。

今月に行ったところで、何しに行くんだって話になってしまうのだ。


今回被害皆無で朱雀を討伐できたのにはアルテミスのお陰である部分も大きいし、できれば近いうちにお礼参りしたいところではあるが……肝心の納品する品が無いんじゃあ仕方がないしな。

また今度、収納魔法に持っているルナメタル鉱石を精錬し次第、行くことにしよう。




「コーカサス、ベルゼブブ、帰るぞ」


俺は2匹に筋斗雲の上に乗ってもらい、移動を開始した。


行き先は、精鋭学院付属迷宮……にしようかと思ったが、思い直し、別のところに寄ることにした。



お礼参りしたいとは言っても、そこまでタイトなスケジュールにする理由も無いしな。

今までエリクサーでごり押して昼夜関係ない過密スケジュールで動いてきたわけだし、今日からはまた、夜はオフモードで過ごす人間らしい生活スタイルに戻したいところ。


精錬作業は、やるとしても明日の朝からにしよう。


久しく会っていないのは、何もアルテミスだけではないしな。

今晩は、久しぶりにアイツらに会って、楽しく夜を明かすとするか。







「……ここだな」


メルケルスの街の郊外にて。

「ヘアサロン オリハルコン」という看板を掲げた建物の近くに降り立った俺は、その建物のドアをノックした。


するとしばらくしてガチャリとドアが開き、1人の女の子が顔を出した。


「あの、お客様……本日は休業日なのですが」


その女の子は困ったような表情でそう伝えてくる。

が……別に俺は、客としてこの建物に寄ろうとしているわけではない。

そもそも俺は、ヘアサロンなどに来ずとも自分でスタイリングできるし。


「いや、客じゃありません。店長に『ヴァリウスが来た』と伝えてください」


「……店長と知り合いの方なんですか? 分かりました、ちょっと伝えてみます……」


そう言って、女の子は引っ込んでいった。

しばらく待っていると、再び建物のドアが開いて……「クヌースの矢印希望」のリーダーが、俺を出迎えてくれた。


「ヴァリウスじゃないか! 久しぶりだな!」


「そうですね、お久しぶりです」


「さ、中入って」


そう、この人がここ「ヘアサロン オリハルコン」の店長。

俺が「バニシングリンクル」の魔法を教えた際、「どうせなら他にも美容系魔法教えて」と頼まれ……染髪系の魔法を教えたところ、美容院を開くとか言い出したのだ。


俺としても、こういう美容室が存在してくれると、テイマーが賢者のフリして活動してたこととか説明しやすくなる利点がある。

そんな事情もあり、俺も開業資金を少しばかり融資して、事業を展開してもらうことにしたのだ。


「ちょうどいいタイミングで来てくれたな。今日はみんな揃ってるよ」


みんな揃っている?

リーダーの言葉に首を傾げつつ、案内された部屋に入ると……なんとそこには、「クヌースの矢印希望」のメンバーが全員揃っていた。


「……これは?」


今「クヌースの矢印希望」は各々が別々にやりたいことをやってるって聞いてたし、パーティーとして冒険者活動はやってないと思ってたのだが……

そう疑問に思っていると、リーダーがこう説明してくれた。


「私たち、冒険者としてバリバリ現役で活動する感じではなくなったけど……有事には冒険者として対応できるよう、実力を落とさないためにたまに皆で集まって冒険することにしてるの。今日はたまたま、その日だったんだよ」


……それで休業日か。

などと考えつつ、俺は椅子に腰かけた。


「なんて言っときながら、今日出たとかいうドラゴンの退治は結局、ヴァリウス1人に任せてしまったけどな。すまないな」


そう発言したのはプレックス。

すまないなどと言う割には、朗らかな口調だった。


「いえいえ。結構ギリギリな戦いでしたけど、勝てたので万事オーライですよ」


「……あー、そりゃどっちみち私たちの出る幕では無かったようだな……」


プレックスは、何かを察したような表情で飲みかけのコーヒーに口をつけた。



「ところで、ティリオンさんの方は、調子どうですか?」


「それがな、良い知らせがあるんだ。俺が麒麟の呼び方を教えたテイマーの1人が……ビーストチップスを使って、キリングジャブをテイムするのに成功したんだ」


キリングジャブ……それ、可もなく不可もなくって感じじゃないか?

と思いかけたが、よく考えたら講師がドンキーエイプをテイムするような時代だったことを思い出し、俺は考えを改めた。


ドンキーエイプとキリングジャブでは強さに天と地ほどの差がある。

確かに、良い知らせと言えなくもないだろう。


「そのテイマー、もう巷じゃ英雄扱いだぜ」


「……それは流石にやりすぎでは? まだ最初の一歩を踏み出したって段階なのに……」


「いや、ものは考えようだ。ヴァリウスだと次元が違いすぎて、『俺もこうなりたい!』とはなりにくいからな。身近なちょっとカッコイイ兄ちゃん的存在がいた方が、却ってモチベーションも上がりやすいもんよ」


……なんか納得しかねる理論に思えるが、まあ順調ならそれに越したことはないか。




そんな調子で俺は「クヌースの矢印希望」のメンバーたちと楽しく談笑し、久々に思いっきりくつろいだのだった。


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