第73話 怒涛の機転ラッシュ
「わぶっ!」
空間転移でドラゴンに近づこうとした俺たちは……しかし、ドラゴンの目の前に転移することはできなかった。
何者かに転移を阻まれるかのような感触とともに、俺たちは元いた場所とドラゴンの中間地点に移動してしまったのだ。
『いってえ〜』
『な、何が起こったのだ』
突然の出来事に、ベルゼブブもコーカサスの困惑してしまっている。
『分からんが……とりあえず、攻撃だ!』
コーカサスは体勢を立て直すと、角の付近に魔力を集め、ドラゴンめがけて魔力弾を飛ばした。
だが……魔力弾は数メートルも進まないうちに、何かにぶつかったかのように爆発してしまった。
「……なるほど」
そして俺はその様子を見て、ようやく何が起きているかを把握することができた。
おそらくこのドラゴンは、障壁を展開している。
それも、コーカサスの一撃をも防いでしまうような、強烈な障壁をだ。
攻撃魔法だけでなく空間転移までも阻んだことから察するに……この障壁は、神通力でできている。
空間転移は時空に干渉する技術であり、物理的に阻むことは不可能だからな。
そうでなければ、説明がつかないのだ。
使い手の正体が朱雀であることこそが、この仮説の何よりの裏付けであると言えるだろう。
とすれば……いくら魔法をぶつけたところで、あまり有効とは言えないだろうな。
コーカサスとベルゼブブが攻撃し続ければ、いつかは壊せるかもしれないが……ドラゴンがいつまた2発目のブレスを放つかもわからないし、あまり悠長には構えていられない。
ここは、俺がこの障壁を破るしか、道は無さそうだ。
俺はルナメタル製の剣に最大限に神通力を流しつつ、身体強化魔法を全開にして障壁に斬りかかった。
ピキッと音がして、障壁の剣先がぶつかった部分にヒビが入る。
そして剣を伝って障壁のヒビに流れ込んでいく俺の神通力は、そのヒビを更に拡大させだした。
このまま行けば、障壁を破壊できそうだ。
そう思い、剣を更に押し込もうとした瞬間……俺は、妙な感覚に襲われることとなった。
「う……何だこれ」
なんと……今度は障壁の方が、ルナメタル製の剣を媒介して俺の神通力を吸収し始めたのだ。
それに気づいた俺は、剣を引き抜こうとしたが……どういうわけか、剣はビクとも動かない。
その上、俺はルナメタル製の剣の柄から手を話す事すら叶わなくなっていた。
『神通力を扱う人間……貴様で間違いないな、ザクエルを殺ったのは』
朱雀のものと思われる念話が、脳内に鳴り響く。
だが……神通力を吸収し尽くされた俺は、それに答える気力さえも失ってしまっていた。
そして、いよいよ俺の神通力が底を尽き、俺の魔力までもが吸収されそうになった時。
『貴様だけは、絶対に生かしては返さん。このまま死……うぐぉっ!』
どういうわけか、今まで流暢に念話で語りかけて来ていた朱雀が急に悶えだしたのだ。
俺はルナメタル製の剣もろとも障壁から突き飛ばされ、ようやく吸収から解放された。
……ははーん、そういうことか。
俺は一連の流れから朱雀の弱点を見抜き、勝ち筋を見出すことに成功した。
とりあえず失った神通力を回復させなければと、収納魔法から取り出したエリクサー一回分の用量を飲み干す。
体内に神通力が漲るのを感じた俺は、再びルナメタル製の剣に神通力を流し、障壁に斬りかかった。
先ほどと同じように障壁にヒビが入り、神通力吸収が始まろうとする。
その瞬間……俺は片手を剣から放して障壁に直接触れ、障壁に最大出力の魔力譲渡をかけた。
すると……
「グオオオオオオァァァァァァ!」
ドラゴンは劈くような咆哮をあげつつ、その場で激しくのたうち回り始めた。
そしてそれと共に、障壁は完全に消滅した。
……やっぱりな。
朱雀の障壁を用いた神通力吸収、神通力以外の不純物が混じるとマズいタイプの技だったのだ。
これは1回目の攻撃の時に、魔力が流出しだしたタイミングと朱雀が俺を離したタイミングが一致したことから導いた結論だ。
いわば、神通力吸収が輸血のようなものだとすれば……そこに魔力が混じるというのは、A型の人間にB型の血を輸血するようなもの。
魔力譲渡により膨大な魔力を逆流させられた朱雀は、ひとたまりも無かったというわけだ。
『コーカサス、ベルゼブブ、今だ』
俺が号令をかけると、2匹は今も悶え続けるドラゴンに怒涛の波状攻撃をぶつけ出した。
あとは、虫の息になったところを俺がトドメを刺せば……朱雀はドラゴンもろとも、ザクエル同様に消滅してしまうことだろう。
……と、思ったのだが。
「そこまですんなりとはいかないか」
悶絶している間は、ただの的と化していたドラゴンだったが……苦しみがある程度収まってきたのか、ドラゴンは反撃に出だしたのだ。
「……危ない!」
ドラゴンの攻撃がコーカサスに直撃しそうだったので、俺は空間転移でコーカサスの位置を変更した。
障壁が解除されているからか、それは問題なく行えた。
そこからは、乱戦となっていった。
俺が司令塔となり、空間転移を駆使してコーカサスやベルゼブブを適切な位置に動かす。
その作戦が功を奏し、2匹は一方的にドラゴンを攻撃し続けられたが……与えられるダメージもさして多いわけではなく、戦況は完全に膠着してしまった。
このままだと、スタミナ勝負になってしまいそうだな。
エリクサーがある分、一応こちらに分があるが……問題は、どのタイミングで2匹にエリクサーを渡すかだ。
何か、一気にカタをつける方法があればいいのだが。
……などと考えていると。
『攻撃を避けてばかりだと、大切なものを失うのではないのかなぁ?』
ドラゴンは街の方を向き……大きく口を開いた。
……ここでブレスを打ちに来たか。
もう一度、反射結界でブレスを逸らすか、それとも……。
そんな時。
俺は、この状況を打開するのにピッタリなアイテムの存在を思い出した。
奴は、口を開けている。
それはつまり……
『残念だったな。大きく出たのが、お前の運の尽きだ』
空間転移でドラゴンの口の目の前に移動しつつ、念話でそう返すと……俺は収納魔法からフルオロレンゲドウ酸を出し、その口の中に流し込んだ。
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