第70話 予兆
感想欄見返してみると結構質問が多かったので、「ベルゼブブはテイムしないのか問題」についてここで記しておこうと思います。
その理由ですが、単純に「『コーカサスのパートナー』という位置付けを尊重するため」というものになります。
またベルゼブブ由来の経験値ですが、コーカサスを通して2ティア制のような形でヴァリウスも恩恵を受ける形となっております。
以上です。
『コーカサス、ベルゼブブ。何か、この階層の魔物を一発で一網打尽にする方法持ってないか?』
俺がそう問いかけると……2匹は作戦会議を始めた。
もし、この階層の魔物を一発で全滅させる事ができたら。
この階層はワンタイムリスポーンフィールドなので、全滅させたのと同じ数の魔物が討伐した瞬間に沸いてくることとなる。
そしてそれを繰り返せば……他の場所では絶対に不可能な、圧倒的な討伐効率を叩き出すことが可能となる。
それを集中的に続ければ、俺は魔力も神通力も、飛躍的に伸ばすことができる。
つまり、階層の特性を逆手にとって、みんなで急成長を遂げられるということになるのである。
とはいえ297階層ともなると、魔物の強さも相当なものになってくるので……全滅とは簡単に言っても、それを実行する難易度はかなりのものとなる。
問題は、2匹にそれを遂行する手立てがあるかどうかだが……こればっかりは、いい作戦を立ててくれるのを願うより他ないな。
などと考えつつ、俺は2匹の作戦会議が終わるのを待つことにした。
しばらくすると……2匹揃って、『できたぞ』と念話を入れてきた。
『どんな方法なんだ?』
『”爆発し難い爆発ガス”を使うのさ』
俺の質問に、ベルゼブブがそう答えた。
『爆発し難い爆発ガス?』
『そう。俺、爆発し辛さと引き換えに爆発力を上げられるガスを生成できるんだよね。それをこの階層に充満させて、コーカサスに起爆してもらえれば、バーンってなってよっしゃって感じなんじゃねーかなーってさ』
『な、なるほど……』
そんなガスを作れるのか。
爆発難易度と引き換えに爆発力が上昇するガスを使うってことは……ベルゼブブがめちゃくちゃ爆発しにくいガスを生成して、コーカサスがそれを無理やり起爆させるんだろうな。
『コーカサス、そんなガス、起爆できるのか?』
『我の限界くらい、ベルゼブブはよく知っておる。ギリギリ起爆可能なガスを生成してくれるはずだ。問題は、それでちゃんとこの階層の魔物を殲滅できるかだがな』
2匹の連携も、バッチリってとこか。
じゃあ、一旦試してもらうか。
『じゃあ、やってみてくれ』
俺はそう言って……階段を登り、296階層に退避した。
そして探知魔法を常時発動して、297階層の魔物の数の変化を感知できるようにした。
しばらくすると……つんざくような轟音と共に、地面から激しい振動が伝わってきた。
一応、千里眼で297階層の様子は観察していたが……その視界は真っ赤に染まり、何も見えなくなってしまっている。
だが俺の探知魔法には、297階層のサソリ型魔物が一旦全滅し……爆発の影響が収まると共に元の個体数に戻るのが、明確に感じられた。
どうやら、作戦成功のようだな。
俺は2匹に会いに、297階層へと通じる階段を降りた。
階段を降りると……そこには、床でへばっている2匹の姿があった。
『お疲れ様。一応、成功したみたいだな』
『あ……ああ。だが……たった1発の魔法で、こうも疲れるとな……』
『ほんとそれな。思った以上にクタクタだぜ』
どうやら今の魔法で、2匹とも完全に疲れ果ててしまったようだった。
『これ……できるにはできるけどさぁ、魔力効率悪すぎね?』
『ベルゼブブの言う通りだ。こんな威力のために全てを犠牲にしたような起爆魔法、他の場所ではまず役に立たんしのう……』
そんな感想を漏らすコーカサスとベルゼブブ。
戦果とは裏腹に、2匹ともあまり満足いってはいない様子だった。
……確かに……この方法は、魔力効率を捨てすぎてしまっているな。
時間効率だけ見れば圧倒的だが、1発でヘトヘトになるのではコストに見合っているとは言い難い。
だが俺は、その解決策はすでに考えついていた。
魔力効率の悪い討伐方法が使えないというのは、あくまで一般論だ。
特殊な状況……例えば「魔力を全回復させる薬がいつでも手に入る」といったような状況においては、それはデメリットにはなり得ない。
そして今、俺たちは296階層の素材で、いくらでもエリクサーを錬成することができる。
これは、魔力効率を捨て、今の作戦を続行するのが最善であるということに他ならないのだ。
『まあ、とりあえずこれ飲もう』
俺はエリクサーに旨味調味料を混ぜて飲みやすくして、コーカサスとベルゼブブに渡した。
そして、それを飲んでもらってる間に、今後の動き方を2匹に伝えることにした。
『お前たちが今の作戦をやっている間、俺は上の階層で可能な限りメンキブフラワーを集める。そしてそれをここに持ってきて、エリクサーを切らさないようにする。そうすれば、今の戦い方でも永遠に続けられるだろう?』
『確かにな』
『あ〜、その手が』
俺の行動計画に、2匹ともあっさりと賛成してくれた。
こうして俺たちの、エリクサー大量消費型大量討伐計画が始まることとなった。
◇
そして……この計画を淡々と続けるまま2か月が経った。
覚醒進化素材を集めきれる状況ではあったが……新しい従魔は、たっぷり時間がある時に慎重に決めたいって気持ちがあったからな。
この計画で朱雀に対抗できる実力をつけられる確信があった以上、朱雀が動き出すまではこの作戦を続けると決めていたのだ。
国王への謁見が決まるのも、あともう少し先って話らしいしな。
これ以外にしたことと言えば、定期的に地上に出て、朱雀に動きがないか確認しにいったくらいだ。
エリクサーの残数が少なくなっていたので、ベルゼブブにメンキブフラワーの種子を渡し、新たなエリクサーを作ってもらう。
それがもうすぐ完成するかというタイミングで……珍しく、アルテミスから通信があった。
『ヴァリウス、ちょっといいか?』
『ああ。どうした?』
『地上を観察していたんだが……ちょっと変なものを見つけてな。ヴァリウスに確認してもらいたいと思ったのだ』