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第67話 いざダンジョンへ

「指定賞金首A-147Xが捕らえられたってのは本当か!」


受付嬢がギルドの奥に走り去っていってから、しばらくすると……1人の男が大きな足音を立てて出てきて、息切れ気味にそう聞いてきた。


ええと、あの紋章は……確か、ギルド副本部長だっけな。

などと観察しつつ、俺は聞きなれない単語について質問することにした。


「指定……何ですか、それ?」


言いながら、俺はギルド内の壁を千里眼でくまなく観察してみた。


「クヌースの矢印希望」のときみたいに、壁紙にされるほどの有名人を俺が知らないだけというパターンかもしれないからな。

こうして探ってみる価値は、無くはないだろう。


……あ、でもよく考えたら、賞金首の肖像画なんて作られるはずもないか。


そう思い、探すのをやめようとした時……1枚の張り紙が、俺の(千里眼)に飛び込んできた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

WANTED

指定賞金首A-147X

凶悪犯罪者。賞金額20万ゾル

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


肖像画ではなかったが、指名手配の張り紙はあったのだ。


だが……俺はその内容に、ひどく違和感を覚えた。


指定賞金首という割には、賞金の額が低過ぎる気がするのだ。

20万ゾルなんて、節約して2か月分の生活費になるかどうかって額に過ぎない。

その程度のために、命の危険を犯してまで犯罪者を捕まえようとする人などまずいないはずなのだが。


もしかしたら、「指定賞金首」なんて肩書きの割に大したことのない奴なのか。


不思議に思っていると……副本部長が、説明を始めた。


「まさか……あの『誰も捕らえられない凶悪犯罪者』指定賞金首A-147Xを知らないのか?」


「初めて聞きました」


「そうか……。そうだな……まず、指定賞金首A-147Xは、金品強奪のためになら大量殺人も貴族暗殺も辞さない極悪人だ。だが……ここまでなら、犯罪の規模がえげつないだけのただの盗賊だ」


大量殺人に貴族暗殺、それを「ただの盗賊」と言ってしまうか。

その犯行履歴さえも霞んで見えるほどの何かがある、ということなのだろうか……。

とにかく、続きを聞いてみようか。


「それ以外に、恐ろしい一面がある、と?」


「いかにも。指定賞金首A-147Xは……差し向けた暗殺者を皆返り討ちにし、『クヌースの矢印希望』すらも捕縛を諦めた、文字通り『誰も捕らえられない凶悪犯罪者』だったのだ」


言い終わると、副本部長はふうとため息をついた。


……なるほど。


貴族の暗殺なんてしておいて、俺が捕まえるまで野放しにされていたのはそのためか。

思い返してみれば、コイツら矢の軌道的にあり得ない位置にいたし……千里眼なしだと、捜査が難航するのも無理なかったのかもしれないな。


「というか……これ、どうやって捕らえたんだ? 見たところ全く傷がないんだが」


副本部長の話から、いろいろと推察していると。

副本部長は話題を変え、そんなことを聞いてきた。


「毒殺ですね」


「あ……暗殺したのか……」


俺の返事に、副本部長はたじろいだ。



……いや、暗殺なんてしてないだろうな。

ベルゼブブのことだ、正面切って正々堂々と毒殺したに違いない。


まあ、そんなことはどうでもいい。

それより、コイツらをどうするかを話し合わないとな。


「それで……コイツら、尋問しますか? 一応仮死状態なので、復活させることは可能なのですが」


一応、俺はコイツらを仮死状態にしているということにして、話を切り出してみた。

実際、尋問するとなったら死者蘇生で蘇らせることになるのだが……その話をすると、また面倒なことになりそうだからな。


「いや……残念だが、それはできない。指定賞金首A-147Xは皆にとっての恐怖の象徴、それは尋問官にとっても変わらないことだ。コイツらの尋問なんて、誰もやりたがらないだろう」


だが……副本部長の答えは、意外にも「尋問しない」というものだった。


まあ確かに、知られている罪状だけでも処刑まったなしだしな。

わざわざ尋問する意味も、あまりないのだろう。


「そうですか……」


俺は副本部長に頼んで3人の死体に布を被せてもらい、「如是切。如是断。本末究竟等」で首を落とした。


副本部長は布に包んだ3人を奥に運ぶと、今度は金貨の山を持ってきてカウンターに置いた。


「これが賞金の1000万ゾルだ」


「……20万ゾルではないのですか?」


想定の50倍の金額を渡され、俺は戸惑いつつそう聞いてみた。


「表向きは、な。賞金目当てで下手に手をだして無駄死にする者が出ぬよう、敢えて額を低めに発表しているのだ」


「なるほど」


分からない理屈でもないな、と思いつつ、俺は金貨を収納した。


「それと、今回の捕獲を功績として記録するから、ギルドカードを出してくれ」


副本部長が差し出してきた手に、俺は自分のギルドカードを置いた。


副本部長はそれに目を通すと……目をまん丸にして、こう呟いた。


「なるほ……ど……。君が()()ヴァリウスだったのか。確かに、『クヌースの矢印希望』を自決島から生還させた者なら、指定賞金首A-147Xの捕獲など造作もなかったのだろうな」



……さて、これで護衛依頼関連のことは全て済んだ。

今日はもう遅いから……明日から、本格的にダンジョンを探索していくとするか。


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