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第66話 王都に着いた

「素晴らしいぞ、これは! 実に速い!」


ある程度のスピードが出始めた頃……商人ラウスは、そう言って絶賛しだした。



結界道路作戦は順調にいった。

前輪の前方10メートルあたりまで結界を展開し、後輪通過後の場所の結界は順次消して……というのを繰り返すのはコーカサスにとって造作もないことらしく、空中臨時道路は実に安定したものになっていた。


今俺たちは、上空100メートルあたりの高度を維持しつつ、筋斗雲単体の最高速の9割くらいの速さで走っている。

このペースなら、5時間もあれば王都に到着するだろう。


「しかし……速いのは有難いんだが、街道を外れてるっぽいのは大丈夫なのか?」


ラウスは、今度は少し不安そうにそう聞いてきた。


「はい。むしろこの方向が最短です」


ラウスの問いに、俺はそう答えた。


メルケルスの街と王都を繋ぐ街道は、若干弓なりになっている。

つまり、街道に沿うように進むのは、最短ではないのだ。

せっかく空中を移動しているのだから、メルケルスの街と王都を結ぶ直線上を進めばいいという事なのである。


「そうか。……それにしても、こんな速さで進んでいるというのに風を全く感じないというのは、不思議なものだな……」


ラウスは独り言のようにそう呟いた。



まあ、筋斗雲の天候シールドで馬車含め全体を覆ってるからな。

風を感じないのは当然のことだろう。


加えて、今回は馬車を牽引してる分大胆な回避行動をとれないことを考慮し、有事(ワイバーンストライク)に備えた厚めの結界魔法を展開している。


まあ実際にワイバーンが衝突してきたら力積の時点で十分迷惑なので、予めベルゼブブに対処してもらうつもりだが……多少の飛行型魔物の衝突くらいでは、こちらはビクともしないだろう。



「あの……そろそろお昼時ですし、ご飯でもいかがですか?」


俺は収納魔法から精鋭学院の学食を2つ取り出し、ラウスにおすそ分けすることにした。

ちなみにこの学食、期末試験の時に山ほど補充しているので、1個くらいおすそ分けする分には何の問題もない。


「おお、本当か。それは助かる」


ラウスは嬉しそうに学食を受け取り、すぐさま一口目を口に運んだ。

そして……


「……美味い!」


ラウスは幸せそうに、モグモグと口を動かした。


「この飯……一体どこで手に入れたのだ?」


「精鋭学院の食堂です」


「……ということは、ヴァリウス君は精鋭学院生なのだな。この時期は……夏休みか?」


「はい」


「そうか。精鋭学院ともなれば、授業もかなり厳しいだろうからな。王都でよく遊んで、1学期間の疲れを取るといいぞ」


「……」



……などと、他愛もない話をしていると。

突如として……|有事に備えた結界《ワイバーンストライク対策》に、何かがコツンコツンとぶつかる音がした。


不思議に思い、千里眼で地上の様子を観察する。


すると……明らかにこちらを目で追っている3人組がいるのが発見できた。



その中の1人は、頭に髑髏マークの入ったバンダナをしていて、手にはナイフのようなものを持っていた。

そしてその男が、弓を持った残り2人に指示を出していた。


盗賊か。

そう判断した俺は、そいつらを捕獲することにした。


『ベルゼブブ、あいつら捕まえてきてくれ』


千里眼で見た方向を指で差し、俺はベルゼブブを向かわせた。



しばらくすると、ベルゼブブは魔法で3人組を拘束して連れ帰ってきた。


『とりま仮死状態にしてんだけど、どーする?』


ベルゼブブは帰ってくるなりそう聞いてきた。


確かギルドの規則だと、盗賊は殺して引き渡して良かったんだよな。

「殺さないように戦うのは非常に危険だから」とかいう理由だったか。


まあそれでも、生け捕りにするに越したことはないのだろうが……死体にすれば収納できるってメリットがあるんだよな。

いざとなれば死者蘇生もあるんだし、そうするか。


『収納できるようにしてくれ』


『オッケー』


ベルゼブブが3人にかけた魔法毒を変質させたのを確認すると……俺は盗賊の死体を収納した。







5時間後。


旅は順調そのもので、俺たちは予想通りの時間に王都に到着できた。


先にラウスの商会に寄って荷車を返してから、その足でギルドに向かう。

王都のギルドに入ると、俺は依頼達成の手続きを済ませるために受付に並んだ。


「この依頼の達成を報告に来ました」


自分の番が来ると、俺はそう言って受付嬢に依頼受注の書類を渡した。


受付嬢はそれに目を通すと……途端に目を丸くした。


「い……いくらなんでも早すぎないですか、これ!? 受注時刻、今日の昼になってるんですが……」


書類と俺の顔に交互に目をやる受付嬢。

そこに、ラウスが口を挟んだ。


「ああ。奇想天外な方法で運んでもらったものでな、早く着くことができたのだ」


「いやこれ、早く着いたとかそんな次元じゃないと思うんですけど……」


「とにかく、依頼主が達成にしていいって言えば、それで問題無いのだろう?」


「……まあ、それはそうですけど……」


受付嬢は不思議そうな顔をしたまま、達成処理を進めていった。


ラウスが上手く話をまとめてくれて助かったな。

根掘り葉掘り聞かれていたら、かなり面倒なところだったぞ。


そんなことを考えていると、書類の処理を終えた受付嬢が、カウンターに金貨を積み上げた。


「達成報酬の700000ゾルです。お受け取りください」


俺は金貨を収納魔法にしまおうとした。

だが、ラウスはそれを遮り……どういうことか、ラウスはそこに更に金貨を追加した。


「こんなにも快適で早い旅を提供してくれたのだ。追加報酬を、出さないわけにはいかんだろう」


ラウスはニコッと笑うと、「じゃあな」と手を振ってギルドを出て行った。


……いい人だったな。

そう思いつつ、俺は金貨の山を収納魔法にしまった。




……そうだ。

そういえば、途中で盗賊を捕まえたんだったな。

それも報告しておかねば。


「それと……途中で盗賊を討伐したのですが、こちらも処理していただけますか?」


俺は収納魔法から3人の死体を取り出した。


すると……受付嬢は目を見開いて両手で口を覆い、数歩後ずさった。


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