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閑話 期末試験

それから数日が経ち……ついに、精鋭学院期末試験の最初の日がやってきた。



自決島から帰ってからは、俺は朱雀が動きを見せていないことを確認しつつ、試験対策にも力を入れていた。


どの教科の教科書も、章末問題の答えを宙で完答できるくらいには周回した。

試験範囲の掲示板も千里眼で確認して、勉強し忘れている範囲が無いことは確認済みだし、対策は万全と言えるだろう。


あとは、試験に集中してベストパフォーマンスを発揮するだけだな。


そんなことを考えつつ、俺が教室に向かっていたのだが……あろうことか、廊下で出待ちしていた()()に遭遇してしまった。


「アンタねえ! いっつもどっか消えてないで、たまには正々堂々と勝負しなさいよ! 今回は期末試験の成績で勝負よ!」


……しまった。

この学園にはコイツがいることを完全に忘れていた。


試験に集中しようってタイミングだってのに、迷惑極まりない話だ。

首席がこんなんでいいのか、精鋭学院2年次は。模範生の「も」の字も無いぞ。


てかこいつ、学年も試験内容も違うのに、何を基準に勝負するつもりなのだろうか。

まさかGPA(成績評価指標)が同率だったら、「2年の方が内容が難しいから……」とか言いがかりをつけてくるんじゃないだろうか。



まあ、いいか。

俺には関係の無い話だしな。


そう思い、俺は千里眼を発動し、自分の教室の中で転移先に適した場所を探した。


逃げるのをバカにされた場合、一番の悪手はソイツの挑発に乗ることだ。

そんなことをしては、ただ相手を喜ばせるだけだからだ。

一番ダメージがでかいのは完膚なきまでに負かすことではなく、とにかく相手にしないこと。

だからこそ、やる事は一つだ。


俺は空間転移して、この学院で初の着席を果たした。







ほとんどの試験科目において、試験内容は特に語ることも無いようなものだった。


教科書にはなく授業でしか解説されないポイントがいくつかあったのか、初見に近いような問題もポツポツとは存在したが……そのどれもが、前世の学校で習ったこととかも組み合わせて考えていけば答えの出せるものだった。


ケアレスミスが無いかどうかも、最低2周、科目によっては5周くらい確認したし……ほぼ全ての教科で、満点近い点が取れていることだろう。


そんな風に、俺は順調に試験をこなせていけて……やっと、試験最終日の最後の科目・魔術理論基礎の試験の時間となった。


「それでは……始め!」


試験監督者の合図と共に、俺含めクラスの全員が問題用紙を捲る。

そして、正誤問題や論述問題を次々と解いていくと……最後の問いに、こんなものがあった。



「魔法を一つ選び、原理・発動方法・消費魔力・使い道等について自由に記述せよ。どの魔法について書いても構わない」



確か、この教科の掲示板には「自由論述問題を1つ出します」とか書いてあったのだが……おそらく、これがそうなのだろうな。


何か、ここに書くのにいい魔法は無いだろうか。

これ以外の問題を全て爆速で解き終え、十分な時間を余らせてある俺は、どの魔法を選ぶかちょっとじっくり考えてみることにした。


そんな時。


「先生」


後ろの席から、試験監督者に声をかけるクラスメイトの声が聞こえた。

すぐさま、試験監督者がこちらに近づいてきて……俺の目の前を素通りした。



試験監督者、結構なオバハンだな。

皺も増え出していて、ちょうど苦しい時期なんだろう。


魔法で手入れしてさえいれば、あの肌ももうちょっと綺麗で……ちょっと待てよ? それだ!



試験監督者の肌状態をきっかけに、俺は名案を思いついてしまった。


既にある皺を消去し、新たな皺の発生も予防してツルツルな肌を保つ魔法「バニシングリンクル」について、記述すればいいのだ。


バニシングリンクルは詠唱魔法。

つまり俺が詠唱文句を答案に書けば、この試験監督者は自分でバニシングリンクルを発動できるということになる。

そんな魔法を記述しておけば……あわよくば、感謝の追加点とかもらえたりしてな。



俺は答案用紙に、詠唱文句や消費魔力、最適な使用頻度などについて記述した。

そしてついでに、「この魔法は『クヌースの矢印希望』のリーダーが開発した美容魔法である」とも記しておいた。


もちろん、その部分は嘘である。

バニシングリンクルは前世から存在してたし、リーダーはこんな魔法知る由も無いだろう。


だが、そういうことにするのは簡単だ。

なぜなら、この魔法は今世ではまだ知られていないと断言できるからだ。


バニシングリンクルは、正しく使えば死ぬまで20代の肌年齢でいられる魔法。

一旦詠唱文句が発見されれば、瞬く間に国中に広まるレベルで女性に大人気な魔法だし……この魔法が発見されているとしたら、街に老人と分かる外見の人間が存在するはずがないのだ。


リーダー含め、自決島でゾンビ化してた4人は、ゾンビとして過ごしている間全く歳を取っていないからな。

今でも彼らの外見は、20年前の生ける伝説だった時そのものだ。

そんな彼らがこの魔法を開発したってことにすれば、人々も納得しやすいだろう。


彼らの復活が正式に国中に発表される前に、もう一度彼らに会って……この魔法を教えておけば、彼らも辻褄合わせが多少楽になるし、いいことづくめだな。


清々しい気分で答案を埋めると、俺は確実に高得点を取るために、見直しを繰り返すことにした。







3日後。

期末試験の成績と、単位取得状況が発表される日がやってきた。


昨日は、無事「クヌースの矢印希望」のメンバーたちに会って、バニシングリンクルを伝授できた。

親族とかにことの顛末を説明するのに疲れていたのか、「これで少しは楽になる」と感謝してもらえたし……そっちの心配は、もう要らないだろうな。


だから今日は、心置きなく成績を楽しみにしていいってわけだ。



「見かけねー顔だな」


しばらく待っていると、担任がそう言って通知書を渡してきた。

見ると……俺の成績は、どの教科も4段階評価で最高評価の4、そしてGPAも最高値の4.00だった。


よし、と心の中で呟き、俺はホームルームが終わるのを待った。


そして教室を出て、廊下を歩いていると。

俺の目にふと、1つの掲示板が目に留まった。



「成績上位者一覧」


その掲示板には、大きな文字でそう書いてあり……その下には、生徒の名前と試験の得点が、全科目平均点順に10人分並んであった。


全教科評価4だし、もしかしたら俺の名前もあるかもな。

そう思い、一覧を眺めていると……なんと俺の名は、表の一番上にあった。


「1位 ヴァリウス 101.25点」


……試験、確か満点100点だったよな。

一体どうやったらこんな点数になるのだろうか。


嬉しくも不思議に思いつつ、掲示板を離れる。

その時……俺の目の前を、魔術理論基礎の試験監督者だった人が素通りしていった。


見ると……バニシングリンクルが効き始めたのか。その人の顔のシワは減り、若干若々しい見た目になっていた。


ルンルンといった様子で、歩き去っていく彼女。

その様子を見て、俺は確信した。



あの人……嬉しさのあまり、追加点出したな。

この学院では通常、試験監督者=採点官なので……その可能性が、最も高いと言えるだろう。


満点以上が出せた理由に察しがつき、俺は満足した気分になった。



試験時間中自由にさせていたコーカサスたちもそろそろ帰ってきて、学院上空で待機してくれてるみたいだし……そろそろ、空間転移で学院を離れるか。

そう思った矢先、背後から劈くような叫び声が聞こえてきた。


「何なのよ、平均101.25点って! アタシ全教科満点取ったのに、何で負けないといけないのよぉ!」


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