第63話 久々の街
「こ……この地響きは一体?」
「なんかとんでもない奴がやってきてるような……」
「これぜってぇ、今までとは格が違え奴来るだろ!」
次第に強くなる地響きを前に、4人は肩を寄せ合いだした。
「大丈夫ですよ。彼らに任せておけば」
対照的に、強敵との戦闘に心を踊らせているコーカサスとベルゼブブを指し……俺は4人にそう言ってみた。
本当にいざとなった時には、フルオロレンゲドウ酸という奥の手もあることだしな。
まかり間違っても、この4人に危害が加わることはないだろう。
そんなことを考えつつしばらく待っていると、リグナムバイタゴーレムは肉眼で見えるところまで近づいてきた。
『あ、今回の奴は魔法バンバン使って倒して大丈夫だぞー』
『分かった』
『なら俺も戦うぜ!』
念のためと思い、魔法解禁を2匹に伝えると……コーカサスもベルゼブブも元気よく返事して、リグナムバイダゴーレムの元へと飛んでいった。
そして、いつもの鮮やかな連携攻撃が幕を開けた。
まずはベルゼブブが、リグナムバイダゴーレムの樹液を変質させる魔法を放った。
すると、リグナムバイダゴーレムの動きは急激に鈍くなった。
……おそらく今の魔法は、樹液の摩擦係数を大幅に上げるものだったのだろう。
リグナムバイダゴーレムは、潤滑剤として働く樹脂を分泌する事で、ゴーレムの身でありながら俊敏に動くことを可能としている。
だが肝心の樹脂の質が変化してしまえば、そのアドバンテージを無かったことにしてしまえるというわけだ。
化学変化の天才たるベルゼブブだからこそ、成し得た芸当ってわけだな。
ベルゼブブの魔法で動きを阻害されたリグナムバイダゴーレムに対し、今度はコーカサスが攻撃しにかかった。
コーカサスはリグナムバイダゴーレムの真上あたりまで飛び上がり……そこから真下に向け、巨大な闇球を放ったのだ。
闇球は敵に当たると、そびえ立つような闇柱を上げ……ゴウゴウと音を立てながら、ダメージを与えていった。
待つこと約3分。
ようやく闇球魔法の効果が消えたので、近づいてみると……そこには無残にも四肢がバラバラになったリグナムバイダゴーレムの死体があった。
「い……今のがコーカサスさんの本気……」
「エグすぎる……。見なきゃ良かった……」
その様子を見ていたクヌースの矢印希望のメンバーたちは、口々にそんな感想を述べていった。
……本気かどうかはさておき、この死体の様相は決して見ていて気持ちのいいものではないな。
そう思った俺は、早速死体を覚醒進化素材に変換することにした。
麒麟を召喚し、念話で取引する。
一連のルーティーンを終えると……死体は【組立】の覚醒進化素材に置き換わっていた。
「じゃあ、帰りましょうか」
俺は4人に声をかけつつ……収納魔法を発動し、覚醒進化素材をしまうと同時に船を取り出した。
「これに乗ってください」
「え……ここで船に乗るのか?」
「はい。海岸まではコーカサスに運んで貰いますので」
リーダーとそんな会話を交わしながら、俺は4人に船に乗るように促した。
ここからメルケルスの街まで全部コーカサスに運んでもらうとすると、コーカサスの負担がでかくなりすぎてしまうがな。
ここから海岸までと、メルケルスの街近くの海岸からギルドまでの間くらいなら……まあ何とかなるだろう。
『帰ったらビーストチップスおかわりするからさ。頼むぞ?』
『分かった。それなら、全力で運ぼう』
というわけで、コーカサスもその案に快諾し、船を大顎で掴んで飛び上がりだしたので……俺も筋斗雲に乗り、後を追い始めた。
そのまま30分くらい飛び続けると、自決島の海岸が見えてきた。
海岸上空まで来るとコーカサスは高度を落とし……4人が乗った船を丁寧に着水させた。
「じゃ、ここからは牽引しますね」
俺は収納魔法からロープを取り出し……片方の端を筋斗雲に縛り付け、もう片方の端は船のさがりに結びつけた。
ちなみにこのロープは、アウトドア用品の一つとして前世から携行してるものだ。
筋斗雲と船の連結が完成すると、俺はメルケルスの街の方角に筋斗雲を移動させ始めた。
流石に重量のあるものを牽引してるからか、加速はいつもより鈍かったが……しばらくすると、それなりに速度が出てきた。
「なんだこの移動方法は……!」
「速い、速いぞ!」
速度が出てくると……船から、プレックスとティリオンがはしゃぎ気味になっているのが聞こえてきた。
まあ速いとは言っても……普段の筋斗雲の全速力から比べると、6割強くらいのスピードしか出ていないんだがな。
とはいえ今回は昼下がりの出発なので、明日の朝には、無事メルケルスの街最寄りの港あたりに到着できていることだろう。
というわけで、これからは帰るまですることも無いし……飯を食べたあとは、ボーッとしてから寝るとでもしようか。
俺はそう決め、収納魔法から学食を取り出した。
◇
次の日の早朝。
俺は、船に乗っているメンバーたちの「港が見えたぞ!」という声で目が覚めた。
起きてみると、確かに肉眼で港が見えるところまで帰ってきていたので、俺は筋斗雲と船を減速させた。
そして、ロープでの連結を解いて……再び、コーカサスが船を運んで俺たちがそれについていく体制に戻ることにした。
もちろん、行く先はメルケルスの街の冒険者ギルド。
また半時間くらい飛んでいると、ギルドの上空あたりに到着したので、俺は近くの広場に船を着陸させることにした。
4人に船を降りてもらうと、俺は船を収納し……コーカサスとベルゼブブに筋斗雲に乗ってギルド上空で待機しておくように伝えてから、4人と共にギルドに向かった。
ギルドまで歩くと、ちょうど営業開始時間だったらしく、入り口が開いたので……俺たちはギルドに入り、受付のカウンターに並んだ。
「ヴァリウスです。自決島から、無事帰ってきました」
俺はそう言って、受付嬢にギルドカードを見せる。
だが……どういうわけか、受付嬢は俺と目を合わせようとしなかった。
というか受付嬢は、俺と共に来た4人に目が釘付けになっていた。
「え……うそ……。ヴァ、ヴァリウスさん、このパーティーは一体……?」
受付嬢はそう言ったきり……その場で崩れ落ちてしまった。