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第62話 のっそのっそをバッサバサ

次の日の朝。


コーカサスとベルゼブブにはビーストチップスをあげ、「クヌースの矢印希望」のメンバーには学食をおすそ分けしながら、俺は今日の行き先について説明することにした。


「今日はこれから、トレントを討伐しに行きますね」


そう言って、俺は昨日見た「動く林」のあった方角を指差した。


しかし、それに対し。

メンバーたちは一瞬静まり……今口にしているものをゴクリと飲み込んでから、おそるおそるこう聞いてきた。


「と……トレント……」

「ほ……本気でアレを討伐しに?」

「昨日は自決島から帰るって話になってたじゃないですか!」

「俺たち……今度こそ命はないかもしれねえ……」


どうやら4人は、トレント討伐に向かうのに抵抗がある様子だった。

けど……行かないわけにはいかないんだよな。


「確かに昨日、帰るとは言いましたが……あなたたちの船、もうこの近くには無いと思いますよ? 船を作るなり何なりして、海を渡る手段を用意しなければ話にならないと思うのですが」


「し、しかし……」


「それに、トレントは昨日の金角や銀角ほどには強く無いですよ。だから、安全に戦えます」


「な、なんか安全の基準がおかしいような……まあ今更か」


説得を重ねると……どうにかこうにか、4人には納得してもらうことができた。


恐らくこの4人はトレントに対し、「見たことのない強敵に対する過剰な恐怖」のようなものを感じているのだろう。

そう思い、金角銀角と比較して安全を保証しようと考えたのだが……どうやら、それが上手くいったようだな。


4人がいくらか安堵の表情を見せたので、俺は移動を開始することにした。



……実は千里眼で調べた結果、今から行こうとしている場所には、トレントに混じって「リグナムバイダゴーレム」という今までにない強さの魔物がいることが分かったのだが……。

リグナムバイダゴーレムはまだ持っていない覚醒進化素材になるし、是非倒したい相手なのでこのことは4人には黙っておこう。







数時間が経って……俺たちは、トレントの群れが肉眼で見えるくらいのところまでやってきた。


『コーカサス、頼んだぞ。死体を建材として使うから、魔法無しで倒してくれ』


俺はそう指示し、コーカサスを群れの中へと促した。


コーカサスは群れの中のトレントを一体大顎で挟むと……自慢の怪力で、そのままトレントをへし折った。


『これでいいのか?』


コーカサスは、倒したばかりのトレントを俺に向かって放り投げて来る。


『ああ。これからも、その調子で頼む』


俺はコーカサスが投げてきたトレントの死体を身体強化を使いながらキャッチしつつ、そう返事した。



……さて、俺は俺で、この材木を使って船を建設していかなきゃな。


俺はまず「如是切。如是断。本末究竟等」で、トレントの死体を直方体の形状に切り出していった。


コーカサスが討伐したトレントを受け取っては、直方体に加工。

その作業を数十回繰り返すと……船を建造するのに十分な量の木材が手に入ったので、俺は次の作業に入ることにした。


更に幾度となく、「如是切。如是断。本末究竟等」を唱えていく。

今度はこの魔法で、直方体の木材の先端を加工していくのだ。


「ヴァリウス殿……何をやっていらっしゃるので?」


俺が作業を続けていると、プレックスが不思議そうに聞いてきた。


「木材を組み合わせるだけで船ができるように、突起を作っているのですよ」


「木材を組み合わせて船を……はて?」


俺がプレックスの問いに答えると、プレックスはますます分からないといったような表情をした。




そう。

今回俺は、木組みで船を完成させようと思っているのだ。


この方法なら、船を建造するのに木材以外の材料を必要としない。

そのため、他のどの工法に比べても格段に早く船を完成させることができるのだ。


もっとも、木の連結部分を鋸とかで加工しようと思ったら、相当洗練された技術が必要になるのだが……「如是切。如是断。本末究竟等」は、断面の形を想像しながら発動すれば理想の切り口を再現してくれる魔法だからな。

この魔法のお陰で、素人でも完璧な木組みを完成させられるというものである。


木材の加工が終わると、俺は身体強化を発動し、巨大な木材を次々とつなぎ合わせていった。

その作業は一番簡単で、ものの5分もしないうちに船の全体像が見えるまでになってきた。


「な……もう船が完成するのですか? さっき作業を始めたばかりだというのに……」


「木組み、便利でしょう?」


「いやもうここまで来ると、便利とかいう次元ではないような……」


プレックスとそんな会話をしながらも、俺は組み上げを進めていった。

そしてそれが完成したところで……俺は最後の仕上げに取り掛かることにした。


俺は船に対し、死者蘇生を中途半端に発動し……しかし自ら神通力の操作を乱して、発動を強制終了させた。

すると、材木であるトレントの細胞が僅かの間だけ活性化し……船の表面から、僅かに樹液が滲み出た。


この樹液は、乾けば完全に水を通さなくなる。

これで、水漏れ対策もバッチリというものである。


まあ、理想の切断面を持つ木組みの場合、水漏れを許さない構造になってはいるはずなのだがな。

念のためを思い、対策をしてみたのだ。


これで、全工程終了。

船、完成というわけである。




……と、その時。


突如、地面が大きく揺れだした。


「……ついに来たか」


その振動の元凶が何か予想がついた俺は、つい笑みを浮かべてしまった。

そして、振動で船が壊れないよう、一旦船を収納魔法にしまうことにした。


リグナムバイダゴーレム、探しにいくまでもなく自らやって来てくれるのか。

これは手間が省けるな。

これを、今回の自決島訪問の最後の戦闘にするとしよう。


そう思いつつ、俺は探知魔法でリグナムバイダゴーレムが来る方向を探知し、戦闘態勢を整えた。


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