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第61話 帰路につくには

コーカサスとベルゼブブがビーストチップスを食べ終えたところで……俺は、金角と銀角の死体を覚醒進化素材と交換することにした。


金角と銀角の死体を一箇所に集め、例の魔法を唱える。


「麒麟よ、我の前に姿を現し……互いに益となる取引を為さん」


すると、いつも通り麒麟が姿を現したので……俺は取引を開始することにした。


『汝が欲するは、覚醒進化素材か旨味調味料、どちらなのじゃ?』


『覚醒進化素材だ。素材なら、既にそこに置いてあるぞ』


『左様か』


俺の指示に、麒麟はそう応え……金角と銀角の死体に息吹をかけ始めた。

数十秒ののち、2体の死体は覚醒進化素材へと置き換わっていた。


今回得たのは、【潤滑】と【制御】の覚醒進化素材。

やっと半分揃ったな、と思いつつ、俺は2つの覚醒進化素材を収納した。



その直後。


「い……今一体、何が起こったんだ……」


麒麟召喚の様子を見ていたリーダーが、目を丸くしてそう呟いた。


「今のが麒麟召喚ですよ。さっきお話したじゃないですか」


「いや、その説明は頭では分かっていたんだがな……。実際に見ると、開いた口が塞がらなくなるものでな……」


リーダーは、未だに事態が飲み込めないといった表情で、覚醒進化素材を見つめていた。




そんな中……俺は、リーダーの後ろに控えていたパーティーメンバーの一人に、声をかけることにした。


「ティリオンさん、ちょっとこっち来てください」


俺が声をかけたのは、パーティーの中で唯一の金髪──賢者である、ティリオンだ。


「今から詠唱文句を書くので、実際にそれを唱えて麒麟を呼んでみてください」


そう言いつつ、俺は収納魔法から筆記具を出し、詠唱文句を書き始めた。


「麒麟を呼ぶって……今の魔法だよな? あんな魔法、そう簡単に発動できるとは思えないのだが……」


「詠唱魔法なので、簡単も難しいもありませんよ。ただ唱えるだけです」


「それもそうか……」


そんな会話を交わしつつ、俺は書き上げた詠唱文句をティリオンに渡した。


「どれどれ……。麒麟よ、我の前に姿を現し……互いに益となる取引を為さん」


ティリオンが詠みあげると……再び、麒麟が姿を現した。


「……わわっ! 急に脳内に声が……どうしたらいい?」


麒麟の質問を受けたであろうティリオンは、俺に助けを求めてきた。


「『旨味調味料だ』と頭の中で念じてください」


「分かった……」


そう教えた数秒後。

空間の一点に、魔物の死体を入れるための歪みが生じた。


……どうやら成功のようだな。

俺は収納魔法からコーカサスたちが狩ってきた魔物の死体を一部取り出してその場に置き、こう言った。


「ティリオンさん、これをあの歪みに投げ入れてみてください」


そう言うと、ティリオンは言われた通り、歪みに魔物の死体を放り込んでいった。

そしてしばらくすると……麒麟は、旨味調味料の入った瓶を残して去っていった。



「今のが麒麟召喚、そしてそれによる旨味調味料の取引のやり方です。できれば……これをテイマーに広めるのを、ティリオンさんに手伝っていただきたいのですが」


呆然とするティリオンに、俺は声をかけた。


覚醒進化魔法以外のテイマーの職業魔法は、賢者にも使う事は可能だからな。

俺が朱雀関連で忙しくしているうちにも、少しでもこの魔法の普及を手伝ってもらえれば。

そう思い、俺はティリオンにこの魔法を教えたのだ。


「……ああ。ヴァリウスさんの頼みなら、もちろん協力するよ」


ティリオンは未だに自分が何をやったか信じられないといった表情のまま、そう返事をした。





交換したての旨味調味料を収納していると……その様子を見ていたリーダーが、相談を持ちかけてきた。


「あの……ヴァリウス殿、ちょっと頼みがあるのだが」


「何でしょう?」


「その……ヴァリウス殿としては、まだまだ討伐を続けたいところとは思うのだが……できれば、我々をこの島から帰れるようにはしてもらえないだろうか?」


どうやら4人は、これ以上自決島に滞在したくないということのようだった。


「いいですよ。というか、一緒に帰りましょうよ」


俺は4人の頼みに、二つ返事でそう答えた。



俺だって、一度に長期滞在することは考えていないからな。

いつ朱雀が動き出すかも分からない以上、定期的にメルケルスまで戻る事は考えに入れていたのだ。


それに今の俺には、期末試験だって近づいている。

来たばっかりではあるが、一旦帰る理由が無くもないタイミングでもあるのだ。


「ほ……本当か? なんだか申し訳ないが……ヴァリウス殿が一緒に帰ってくれるなら、心強い事この上ないしな。是非、こちらとしてもお願いしたい」


俺の返事を聞き、4人の顔はこれ以上ないくらいに明るくなった。

この人たち……よっぽど自決島に嫌気が差してたんだな。


そう感じつつも、俺は一つ、考えなければならないことがあることに気づいた。


それは、4人を帰らせる手段だ。


「クヌースの矢印希望」のパーティーメンバーは、俺の筋斗雲には乗れない。

かと言って、4人が徒歩で自決島の海岸まで着くのを待っていては、期末試験に間に合わなくなってしまう。

それに、彼らが来るときに使った船はもう無いだろうから、海を渡る手段も無い。


つまり今のままでは、帰りたくても帰りようが無いのである。



さて、どうするか。

頭の中で考えていてもキリがないと思った俺は、とりあえず筋斗雲に乗って自決島を上空から眺めることにした。


現地調達できるもので、移動手段を製作できないかと思ったからだ。


360度全方位を、注意深く観察する。

すると……俺は、移動手段を作るのにちょうど良いものが手に入りそうな場所の、目星をつけることができた。


徒歩ぐらいのスピードで、移動する林があったのだ。


明日の行き先は、そこにしよう。

そう考え、俺は寝る準備に入ることにした。


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