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第6話 覚醒進化させてみた

テイマー講習会の翌日。

俺は、今日はひたすらコーカサスと念話で喋る日にしようと決めた。


コーカサスは、転生してから初めて手に入れた従魔。

今一番大事なのは、お互いの理解を深め、心を通わせていくことだ。


『なあ、コーカサス……一応聞いときたいんだけどさ、あの千年樹の森に未練があったりはしないか?』


『未練……か。無くはないな』


テイムした魔物を取り巻く環境は、自然にいた頃とはガラリと変わる。

特に、元いた場所への未練についてはしっかりと聞き出し、可能な限り寄り添ってあげる事が重要なのだ。


『その話、詳しく聞かせてもらえるか』


『ああ。 我は……できれば、森を離れる前にヘルクレスの奴と決着をつけておきたかった』


『ヘルクレス、か。コーカサスらしいっちゃらしいな』


ヘルクレスとは、ヘルクレスマナカブトという魔物のこと。

コーカサスと同じく甲虫系の魔物で、甲虫系魔物の中では唯一、コーカサスに匹敵する程の戦闘能力を有している。


ちなみに、確かにあの森にはヘルクレスも生息していた。

ただ、覚醒進化後同士で言えばヘルクレスよりコーカサスの方が一回り強いので、俺はコーカサスの方を連れて帰ったのだ。


『ヘルクレスの奴とは過去に千年樹を巡って争っていてな。結局、その戦いでは実力が伯仲して引き分けになったのだ。それ以降、我とヘルクレスの奴は一月交代で千年樹に棲んでいたってわけよ』


『なるほど』


俺は、コーカサスが棲む時期に千年樹を訪れたってことか。


『まあ、ヘルクレスの奴とは半分和解したような状態だったからな。この先あそこに棲み続けたからと言って、決着をつけたかどうかは分からん。だが……いつか決着をつけたいって想いがあったのは確かだ』


『おお~』


何というか、すごく甲虫らしい身の上話だったな。




……あれ?

待てよ。これってもしかして、覚醒進化を促す好機なのでは?


『コーカサス、1つ聞きたい事がある。……ヘルクレスを大幅に上回る力が手に入るとしたら、お前はその力を手に入れたいか?』


『……フッ、冗談はよせ。我は、変に期待をしてがっかりするのだけは勘弁願いたいんだ。いくらヴァリウスと言えど、そんな力は持っておらんだろう?』


なるほどな。

「がっかりするのは勘弁」か。

つまりこれは……「本当なら、その力が欲しい」という意味でもある。


まあ、言葉だけ並べて「信じてくれ」って言うのも無理があるだろう。

ここは、収納魔法から進化素材を取り出しながら、説得していくとするか。


前世で、俺は有事に対応できるよう、魔物1体分の覚醒進化素材は収納魔法に常備するようにしていた。


それが……まさか、こんな形で役に立つ日が来てしまうとはな。


『……ヴァリウス? 何だそれは? まさか、それが力を授ける道具だなんて言い出すんじゃないだろうな』


『そのまさかだよ』


俺は収納魔法から取り出した進化素材を並べると、コーカサスに改めて向きなおった。


『よく聞いてくれ。俺はこれから、ここに並べた進化素材を使ってお前を覚醒進化させる』


『覚醒……進化?』


『ああ。これを経たら、お前はかつての好敵手(ライバル)・ヘルクレスをものともしないほど強くなれる。でもその為には、俺と心を一つにして、この魔法を信じてもらわなくちゃいけない』


『……うーむ』


『お前、俺に起こされた時だって、あんな美味しいものを貰えるなんて思ってもみなかっただろ? ……もう一度、もう一度だけでいいんだ。奇跡を信じて欲しい』


『……まあ……そこまで言うなら、一度だけだぞ?』


『ありがとう』


……準備は整ったな。


『じゃあ、ここに移動してくれ』


俺はコーカサスを促し、地面に置いた6つの覚醒進化素材の中心部分に来てもらった。


後は……魔法を行使するだけだ。


「麒麟よ……汝に力の祝福を与えん!」


俺はそう唱えた。


すると……6つの覚醒進化素材はまばゆい光を放ち、コーカサスを光で覆った。

その光は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順で7色に変化し……やがて光が収まると、地面にあったはずの覚醒進化素材は消えていた。


──覚醒進化、成功だ!


『どうだコーカサス、新しい力の実感は?』


興奮を抑えつつ、俺はコーカサスに訊いてみる。


『……な、な、な、何だこの溢れ出すような力は! 今ならヘルクレスは元より、どんな強敵が現れようとも負ける気がせんぞおおおぉぉぉぉぉっっ!』


興奮しきってしまったのか、ブンブンと大きな羽音を鳴らして飛び回りつつ、コーカサスはそう伝えてきた。


良かった。満足してくれたみたいだな。

まあ次元が違いすぎる力を手にして、満足しないわけもないのだが。


『ヴァリウス、俺は早速この力を試してきたい。ちょっくら狩りに出かけてくるから、楽しみに待ってろよぉぉぉ!』


……あ。

コーカサスの奴、どっかへ飛んで行っちまった。

今日はじっくり話す日だって決めてたんだけどな。


まあ予定外に早く覚醒進化もさせちゃったんだし、これはこれでいいか。


筋斗雲で追いかけるって手もあるが……うん、それは野暮だな。

楽しみに待ってろって言われたんだし、そうするか。






その日の夕方。

俺は、コーカサスが一体何を狩ってきたのか、問い詰めたい気持ちでいっぱいになっていた。


というのも、俺は昼間、とんでもない力が体に流れ込んでくるのを感じてしまったのだ。


あれは、コーカサスが魔物を討伐したことにより手にした成長値が、主人である俺に流れ込んできたものと見て間違いない。


俺があれほどの成長を感じたということは、コーカサスが大物を狩ってきたという意味なのだ。


しばらくすると、コーカサスが帰ってくるのが見え始めた。

そして……その角に挟まっているものを見た俺は、呆れる事しか出来なかった。




……おいコーカサス。

お前、なに初っ端からワイバーンなんか狩ってきてんだ。


これは、いろいろちょっと話し合わないといけなさそうだな。

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