第58話 吸い込むもの
しばらくすると……コーカサスとベルゼブブが、大量の戦利品を抱えて戻ってきた。
すると、それを見た4人が一斉に身構え始めた。
「気をつけろ! ……あのコーカサスとベルゼブブ、只者じゃねえぞ」
「甲虫系魔物最強とは聞いてたけど……自決島の奴てなると、あんなにも貫禄出るもんなのか? 」
「ってかさあ、あれ俺たちが勝てる相手じゃないだろ! いつも通り逃げようよ」
「……いや、あの方がいらっしゃる今は、ここの方が安全かもしれない……」
どうやら4人は、コーカサスとベルゼブブをこの島の魔物と思っているらしかった。
まあ、そうなるのも仕方ないか。
一応彼ら、臨戦態勢にはなってるみたいだが……実際にコーカサスたちを攻撃する素振りは無さそうだし、慌てて説得しなくてもよさそうだな。
そう判断した俺は、とりあえず2匹の戦利品を収納魔法にしまうことにした。
『短い間に、随分とたくさん倒してきたんだな』
『そこかしこに何かしらの魔物がいたからな。手当たり次第、戦っておったのだ』
『ギューンてやって、ダーンてなって、ドカーンて感じ?』
俺が念話で話しかけると、2匹ともかなり上機嫌な様子でそう返した。
そして2匹は、それぞれが持っていた戦利品をドサリと俺の前に置いた。
『そういえば……そこにおる人間どもが、ヴァリウスが蘇生した奴らなのか?』
収納魔法を発動していると、コーカサスがそんなことを聞いてきた。
『ああ。最初に蘇生したゾンビに仲間がいたらしかったんで、その仲間も探して蘇生したんだ』
『なるほど』
『でなんだけどさ。蘇生した人間たち、お前たちを警戒してるみたいだから……ちょっと念話で警戒を解いてきてくれないか?』
話題的にちょうどいいタイミングだと思ったので、俺はコーカサスにそう頼んだ。
コーカサス(今となってはベルゼブブもだろうが)、特に従魔契約とか結んでなくても人間と念話で対話できるからな。
俺がプレックスたちを説得するよりは、従魔が直接説明した方が説得力があるだろう。
『そこの者たち』
「は……はひっ」
コーカサスが話しかけると……若干怯えつつも、リーダーが返事をした。
『我はコーカサス。我はヴァリウスの従魔だ』
そう言いつつ、コーカサスは変身魔法で1/10スケールになり……俺の肩に乗った。
それに
『我等──我とベルゼブブは、お主らに危害を加えるつもりはない。主人が蘇生した者達を殺す道理は無いからな』
コーカサスはそう続けた。
それに対し、返事をしたのはプレックスだった。
「従魔……? なぜ、従魔など従えていらっしゃるので? 賢者であるヴァリウス殿には可能でしょうが……その意義が見当たらないのですが」
……いつのまにか敬語に切り替わっているのだが。
まあ、それは置いておくか。
ちょうどいい機会だと思ったので、俺は4人に自分の真の職業について説明することにした。
「俺、本当はテイマーなんですよ。今は魔法で髪色変えて賢者のふりしてますけどね」
いつまでも賢者のふりをし続けていても、埒があかないからな。
アイリアさんたちの時もそうだったが、信頼できる相手を中心に少しづつ本性を明かしていくのも重要だと思うのだ。
そう考え、そのように説明したところ……リーダーが、こう返してきた。
「髪の色を……変える? さっきから常識離れしたものばかり見せられておいて今更ここを疑うのも何だが、そんなこと本当に可能なのか?」
そう言われたので、4人の表情を見渡してみると……皆、納得がいったようないっていないような表情をしていた。
……やはり、この惑星で知られていない染髪や脱色の魔法のこととなると、無条件に信じてもらうのは厳しいか。
4人のうち誰かの髪を染めて、実演するのも不可能ではないが……初対面の人の髪色を勝手に変えるのもそれはそれで抵抗あるしな。
そんな風にしばらく悩んだが、その末、俺は1つの名案を思いついた。
「ほら、ここを見てください。金髪の下から、黒髪が生えてきているでしょう? これが俺の地毛です」
そう。
生え際を見せることにしたのだ。
地毛の色が目立つのを防ぐため、俺は定期的に生え際を染め直すようにはしているんだが……前回染めたのは、一週間ほど前だ。
だから今は、生え際に2〜3mmほど染めていない部分があるのだ。
「こ、これは……こんなの見たことがないな」
「生え際とそれ以外で髪色が違うなんて聞いたことねえし……そんなことが可能な魔法があるとすれば、確かに染髪用の魔法くれえか」
生え際を見せると、リーダー含め2人がそう呟き、もう二人も納得したような表情を見せてくれた。
どうやら、信用してもらえたみたいだな。
せっかくなら……このタイミングで、覚醒進化とかテイマーに関することも一通り喋っておくとするか。
◇
「……な、なるほどな」
「従魔を大幅に強化して、経験値の分け前を貰って自身も大幅に強くなる、か。夢のような方法だな」
「魔力量任せにあらゆる魔法を放つ実質賢者……。身体強化だけやたらレベルがかけ離れていたのも納得できる、か」
数分かけて、俺は4人に対して、テイマーの真価やその原理などについて話し尽くした。
もちろん、話した理由が「テイマーに関する一般論を広める手助けをしてほしい」である以上、重覚醒進化や神通力については語ってはいないが。
4人とも熱心に聞いてくれたことだし、のちに良い広告塔となってくれることだろう。
そう思っていると、コーカサスが念話で話しかけてきた。
『そういえばヴァリウス。我が狩りをしていた時……不思議な光景を見かけたぞ』
『どんな?』
『我が倒そうと思った魔物が……一度、何かに吸い込まれていってしまうのを見たのだ』
コーカサスは、不思議そうなトーンでそう言った。
……魔物が吸い込まれた、か。
まあ原因は何個か考えられるが……自決島となると、
もし俺の予想が当たっているとしたら、別々の覚醒進化素材が一気に2種類手に入ることになる。
これは、行くしかないな。