第57話 クヌースの矢印希望
現状、この惑星でのテイマーの扱いは「役立たず」だ。
覚醒進化を広めていけば、徐々に人々もテイマーの真価に気づいてゆくだろうが……人々の認識が変わるまでには、どうしても長い時間を要してしまうだろう。
そこで重要になってくるのが、「人気者、あるいは権威的存在」を味方につけることだ。
啓蒙活動において、そういった人々の影響力には計り知れない効果があるからな。
そして、ここで俺がAランク冒険者パーティー「クヌースの矢印希望」を蘇生させられれば……彼らは、俺にとっての「権威的な協力者」第1号になってくれるはずだ。
だからこそ、是非とも今回の作戦で、「クヌースの矢印希望」のメンバーを全員蘇生させたい。
もちろん、蘇生の動機には、純粋に「プレックスの仲間を取り戻してあげたい」ってのもあるけどな。
そんな事を考えつつ……俺は聖騎士の専用魔法の一つである、「ホーリーアテンション」を発動した。
これは、聖なる力を発してアンデッドを挑発する魔法。
しばらく待っていれば、近くのアンデッドが挑発に反応し、ぞろぞろと俺の近くに寄ってくるだろう。
……そう思っていると、プレックスが叫び声をあげた。
「おい君! 正気か! そんな魔法を使ったら……」
振り向くと……プレックスは目を丸くし、口をパクパクさせながらこちらを指差していた。
「何か問題でも?」
「むしろ問題しか無いだろう! こんな所でホーリーアテンションを使ったら、ここがアンデッドだらけになってしまうぞ!」
……そりゃそうだ。
そのために発動したんだからな。
「アンデッドを集める必要があるから、そうしたんですよ。まあ落ち着いてください」
俺はそう返事しつつ、プレックスの髪に目をやった。
銀髪……聖騎士か。
俺が何も言ってないのに今の魔法がホーリーアテンションだと分かったのはそのためか。
そんなことを確認しつつ、俺は探知魔法を発動した。
……うん、順調にアンデッドは集まって来てるな。
一番近くにいるやつは、あと10秒もすると姿を見せるだろう。
収納魔法からルナメタル製の剣を取り出し、最初のアンデッドがやって来る方を向く。
数秒後……茂みから、1体のリッチが姿を現した。
リッチか……懐かしいな。
俺はふと、前世で仲間だった覚醒リッチを脳裏に浮かべた。
あいつ、同族嫌悪激しくって、ダンジョンとかでリッチに出会うと真っ先に滅殺してたんだよな。
だから……こいつもサクッと殺そう。
俺は身体強化魔法を発動しつつ、ルナメタル製の剣に神通力を流し……リッチに一気に近づいて袈裟斬りにした。
リッチは切られた事にさえ気づいていない様子のまま、その場に倒れ伏した。
人間がアンデッド化する場合は、ゾンビかその上位種であるゾンビロードにしかならないからな。
関係ないアンデッドは、倒してしまって構わないのだ。
「……あ……あれ……? 今、リッチが一瞬で……?」
振り向くと……プレックスは、目をグリグリとこすってはリッチの死体を凝視する、というのを何度も繰り返していた。
俺はそれに構わず、次に姿を見せたアンデッドを斬りかかりにいった。
そうして、4体ほどのアンデッドを討伐した頃。
ついに、
回復魔法の要領で、神通力を操作して……神通力操作に自動制御が入りだすと、ゾンビは人間へと戻っていった。
蘇生成功だな。
仕上げに回復魔法をかけてやると……その人は、プレックスの元へと駆け寄っていった。
「プレックス、無事だったのか!」
その人は、泣きそうな声を張り上げてそう言った。
……当たりだな。次。
そうして計30体くらいのアンデッドを処理したところで……ホーリーアテンションの影響を受けた最後のアンデッドが姿を現した。
ゾンビロードか。
ゾンビ系のアンデッドは、これで4体目だな。
「クヌースの矢印希望」が4人パーティーなら、こいつを蘇生させればパーティー全員を揃えたことになるのだが、どうだろうか。
そう考えつつ……俺は本日4回目の死者蘇生を発動した。
程なくして、ゾンビロードの外見も人間のものになったので、俺は仕上げに回復魔法をかけた。
すると。
「「「リーダー!」」」
プレックス含め、先に蘇生した3人が元ゾンビロードの元へと駆け寄っていった。
なるほど、この人がこのパーティーのリーダーか。
どのアンデッドになるかは、元の人間の強さにもよるからな。
妥当といったとこだろう。
「プレックス、ラグハム、ティリオン……みんな無事だったか!」
リーダーと呼ばれた女性は、顔を綻ばせながらそう言った。
「無事……じゃなかったよ! 俺たち、一旦死んでアンデッドになってたんだ。そこをあの方が救ってくださってさ……」
「私も最初は、アンデッドから蘇生されたなんて信じられなかったんだが……現に彼がそれをやってのけたのを見ると、もう何とも言えなくてな」
「あの方は、きっと神様だ」
3人はリーダーに向かって、口々にそう話した。
……神か。
神通力使ったから、ある意味そうだな。
「っていうか、あの方べらぼうに強えんだよ! 一撃でワイトロード吹き飛ばしたりするしさ……あり得ねえだろ?」
「特に身体強化がやべえんだ。他の魔法はまあトップクラスの賢者ってくらいなんだが……身体強化だけはそっから更に次元が違うんだ。何だってんだあれは」
「しかも彼、精鋭学院の現役生だぞ? 今でもあの強さだというのに、今後どうなってしまうのやら……」
3人の興奮は醒めやらず、話はますますヒートアップしていった。
身体強化に関しては……まああれだな。
テイマーは他の職業の魔法を使う際、膨大な魔力で魔力効率の悪さを補い、無理矢理魔法を発動させてるわけだが……身体強化は職業魔法ではないからな。
膨大な魔力が良い効率で使えるので、そりゃあ他の魔法とはキレが違っても来るだろう。
感動の再会を邪魔するのも悪いとは思いつつも……これだけは聞いておきたいと思い、俺はリーダーに声をかけた。
「『クヌースの矢印希望』のメンバーは、これで全員ですか?」
「あ……ああ。アタシたちは、4人組のパーティーだからな」
俺の質問に、リーダーはそう答えた。
無事、全員蘇生させられたか。
全てが順調に行って何よりだな。
となると……もうこれ以上、ここに留まる理由もないな。
そう思い、俺は自由に狩りに行かせていたコーカサスたちを呼び戻すことにした。