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第55話 蘇った者

ところで……死者蘇生って、どうやってやるんだ?


空間転移の時もそうだったけど、神通力でできる技ってやり方聞かないと分からないんだよな。


というわけで、アルテミスに質問しよう。


『アルテミス、今いいか?』


俺は神通力での通信を起動し、そう問いかけた。


『ヴァリウスか。ああ、何でも聞いてくれ』


『ありがとう。それじゃ早速なんだが……死者蘇生のやり方、教えてくれないか?』


『……は?』


俺が本題に入ると……アルテミスは、何か変なことを聞いたかのような反応をしてきた。


『死者蘇生って……あれは、神通力を手に入れて4か月やそこらの人間にできる技ではないぞ?』


アルテミスの言い方は、まるで俺が無理難題を言っているかのようだった。

だが次の瞬間、アルテミスは悩み始めた。


『……しかし人間とは言っても、神通力を手に入れて一週間も経たないうちに空間転移を覚えたヴァリウスのことだしな……。もしかしたら、今のヴァリウスには可能なのか? いやしかし、前月に来た時のヴァリウスの様子だとまだ……』


どうやらアルテミスの反応から察するに、俺の神通力の熟練度は死者蘇生が可能かどうかの瀬戸際にあるようだった。


『できるかどうか分からないなら、とりあえず教えてはもらえないか? できなかったらできなかったで、その時考えるから』


俺はアルテミスをそう説得した。

どうせ今自決島にいるんだしな。

もし今の神通力で死者蘇生ができないようなら、その時は鍛え直せばいいだけの話だ。


『分かった。ヴァリウスがそこまで言うならそうしよう』


アルテミスは、意を決したようにそう言った。




こうして、死者蘇生の方法を教えてもらえる方向で話がまとまり……すぐにアルテミスによるレクチャーが始まった。


『死者蘇生のやり方は……そうだな。人間に教える場合は、この教え方が一番分かりやすいだろうな。ヴァリウス、治癒魔法の類で、何か使える魔法はあるか?』


『ああ。一通り使えるぞ』


治癒魔法……治癒師の職業魔法か。

テイマーが使う分には魔力消費がでかいというだけで、使うこと自体には何の問題も無いな。


『そうか、よかった。なら……まずは、治癒魔法の魔力操作と同じ要領で、神通力を操作してみてくれ』


アルテミスにそう指示されたので……とりあえず俺は、回復魔法の魔力の流れを神通力で再現してみた。

回復魔法は、治癒魔法の中でも最も単純かつ基本的なものだからな。

神通力による再現において、一番適しているのはこれだろう。


……と、思ったのだが。

神通力を操作している最中……俺は、ちょっとした違和感を感じた。


何というか、神通力の操作が勝手に修正されているかのような感覚があったのだ。


『アルテミス、なんか神通力の流れが勝手に制御されてるみたいな感じがあるんだが……これ、合ってるのか?』


不思議に思ったので、俺はすかさずアルテミスに質問した。


すると……こんな答えが返ってきた。


『な……もうそこまで行ったのか? ヴァリウスの言う通り、死者蘇生の技に近い神通力操作を行うと、自動的に補正が入るのだが……一発目からそれを成功させるなんて、天才どころの話じゃないぞ?』


どうやらアルテミスが言うには、俺は正しいことをしているようだった。


天才、か。

俺にそんな才能があるのかは知らないが……心当たりはなくはないな。


テイマーである俺は普段から、職業適性外の魔法もばんばん使っている。

今となっては当然のようにやっていることだが、本来は、そのような膨大な魔力で不得手なことをするのはかなり難易度の高いことなのだ。

そんな経験から、感性が磨かれていたのかもしれない。


『ってことは……今から実際に死者を蘇生させても問題ないか?』


『ああ、構わない。だが……神通力の操作練習と違って、実際に死者蘇生を行使するとなるとヴァリウスの神通力の出力の問題もあるからな。成功するとは限らんぞ?』


俺の質問に、アルテミスはそう答えた。


そういえば最初に、俺の神通力の熟練度がどうとかみたいな話になってたな。

あれ、操作の正確さだけでなく、単純に出力の過不足の話でもあったのか。


まあ、やるだけやってみよう。


そう思って、俺は先ほどと同じ要領で神通力を操作し……目の前のゾンビに死者蘇生をかけた。



すると。

朽ちかけた腕といったような、ゾンビを特徴づける外見的要素がみるみるうちに消えていき……ゾンビだったものは、何の変哲も無い1人の青年へと変わり果てた。


おそらく、蘇生成功だな。

そう思い、俺はその青年に声をかけようとした。


だが。


「おうぇっ」


青年は、酷く気分が悪そうだった。

なので俺は、追加で青年に回復魔法もかけた。


回復魔法をかけると体調も回復したのか、青年はゆっくりと起き上がった。


「これは……どういう状況だ?」


青年はぼそりとそう呟いた。


ゾンビがこんなに流暢に人間の言葉を話すことはない。

これで、蘇生成功は確実と見ていいだろう。



……とりあえず、アルテミスにお礼しなくちゃな。


『アルテミス、死者蘇生、無事成功したよ。ありがとう』


『よかったな。全く、ヴァリウスの神通力の成長速度は恐ろしいな……』


アルテミスにお礼できたところで、俺は神通力での通信を切った。



……さて。

ゾンビを蘇生させてみたら人間だったわけだが……彼は一体、何者なのだろうか。

まあ、自決島に来る人間など、選択肢は1つしかないようなもんだが。


俺は青年に1つ質問をしてみた。


「混乱してるところすみませんが、1つ聞かせてください。あなたはAランク冒険者ですか?」


「……ああ。私はAランクパーティー『クヌースの矢印希望』のメンバーだ」


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