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第53話 スタンピード──弱

自決島での最も効率的な狩りの方法は、当然「旨味調味料を空中散布して魔物を誘い、一網打尽にする」というやり方だ。


だが……その前にいくつか、やっておかなければならないことがある。


それは、植物系魔物を伐採しておくことだ。

特に、蔓を鞭のようにしならせて広範囲の魔物を捕食する「ホイップツリー」と、踏んづけられると爆発する茸型魔物「マインマッシュ」だけは絶対に処理しておかなければならない。


旨味調味料を目指してやってくる魔物は、気が早まって注意力が散漫になってしまうからな。

普段なら絶対植物系魔物になど引っかからない高位の魔物も、簡単にやられてしまいかねないのだ。


ただ素材を集めるだけなら、それでも構わないのだが……ここに来た目的には覚醒進化素材集め以外に、俺の神通力の鍛錬もある。


最終的に朱雀にとどめを刺せるのは、神通力を持つ俺だけだからな。

できるだけたくさんの魔物をコーカサスたちに倒してもらって、経験値の分け前で神通力を鍛えたいところだ。


だから、植物系魔物の処理が必要になるのだ。



『コーカサス、ベルゼブブ、この周辺のああいう奴を、片っ端から爆破してくれないか?』


探知魔法で見つけた近くのマインマッシュを指し、俺は2匹にそう頼んだ。


マインマッシュ、結構な大爆発を起こすからな。

爆破は空を飛べる仲間に任せ、安全圏から処理してもらった方が得策というわけだ。


もちろん、俺が筋斗雲に乗って同じことをするのもできなくはないのだが……そうすると今度は、誰がホイップツリーを伐採するんだって話になってしまう。


どうしても接近戦になるホイップツリーの伐採は俺がやり、マインマッシュは2匹に任せる。

それが、一番効率のいい分担だと言えるだろう。


『あれと同じ種類の茸だな。分かった』

『それくらい楽勝だぜ!』


そう意気込む2匹の返事を聞き……俺は、自分の作業に取り掛かることにした。




まずは探知魔法でホイップツリーの位置を調べ、そして千里眼で地形を確認する。

そして、幹の近くに空間転移して……


「えいっ!」


蔓を動かす間を与えず、俺はルナメタル製の剣で幹を真っ二つにした。

すると、それまでうねうねと動いていた無数の蔓が動かなくなっていき、その全てが力が抜けたかのように地面に垂れた。


これで討伐完了。

そう思い、俺はホイップツリーの死体を収納魔法にしまおうとした。


だが、その時。


「……む」


近くに生えていた別のホイップツリーが俺めがけて蔓をしならせていたので、俺は「如是切。如是断。本末究竟等」を無詠唱で用い、蔓を切り落とした。


この魔法、無詠唱だと途端に魔力効率が落ちるので、あまり戦闘の最中に使うものではないんだがな。

蔓くらいなら切断面の半径もたかが知れているし、咄嗟の時に使うくらいならいいだろう。


そう考えつつ、俺は今度こそホイップツリーの死体を収納し……先ほど俺を攻撃してきたホイップツリーの伐採に向かうことにした。




そうして、攻撃にはルナメタル製の剣、防御には無詠唱の「如是切。如是断。本末究竟等」を使いつつ、伐採を進めていくこと約30分。


結構な範囲のホイップツリーとマインマッシュを処理できたのを確認した俺たちは、ついに旨味調味料を空中散布することに決めた。


魔物が旨味調味料に反応する範囲は俺たちが植物を処理した範囲より遥かに広いが、別にそれは問題無い。


散布の中心地点から遠ければ遠いほど、旨味調味料の香りの濃度は低くなるからな。

遠くにいる魔物は、まだ理性を失うレベルの興奮には至らないのだ。

だからある程度の範囲処理しておけば、十分に効果が上がるのである。


俺は収納魔法から旨味調味料の瓶を何本か取り出し……その中身を全て、空中にブチまけた。


『これをバラまくとは……また食欲が……』

『ううっ、たまらねえぜ!』


すかさずコーカサスとベルゼブブが、その香りに反応した。

確かに、この空中散布の影響を最も強く受けるのはこの2匹ではあるが……


『今日はビーストチップスのおかわりありにするからな、今はこっちに向かってくる魔物の撃退に専念してくれ』


……普段からビーストチップスやビーストゼリーを食べている従魔の場合は、この香りでも理性を失うことはない。


俺がこう言えば、2匹ともちゃんと戦闘に集中してくれるのだ。


興奮しきって注意力散漫になっている敵と、完全に戦闘態勢の味方。

もはや、負ける要素が無い。


現に魔物が寄って来ると、コーカサスもベルゼブブもそれぞれの魔法を駆使し、次々にそれらを退治していった。

その様子を見つつ、俺も自分で退治できそうな魔物はルナメタル製の剣で斬り伏せていくことにした。


そして、しばらくして。


「ふう〜」

『……やっと来なくなったか』

『ま、食前の運動としちゃあ丁度良かったんじゃねーの?』


俺たちは、寄ってきた魔物を全滅させることに成功した。


……魔物の強さは、精鋭学院付属迷宮でいう所の80階層程度のが多かった印象だ。

前世の千両島の平均レベルを、僅かに下回るって感じか。


俺としては、このくらいの相手と戦い続けていても十分なのだが……


『コーカサス、ベルゼブブ、今の戦闘はどうだった? 敵の強さとしては……』


『うむ……悪くは無いが、少し物足りなかったな』

『それな。良くも悪くも、そこそこ強えってだけな感じ?』


俺が2匹に戦闘の感想を聞くと、2匹はそう答えた。


……やはり、少し物足りないか。

ベルゼブブは覚醒コーカサスと4年間共闘して相当な戦闘経験を積んだ後に覚醒進化しているし、コーカサスに至っては重覚醒進化しているからな。


まあそりゃあ、そんな感想にもなってくるよな。




……何か、もうちょっと強い敵を用意する方法はないか。


そう思い、千里眼を用いて様々な場所を観測すると……ある植物型魔物が、俺の目に留まった。


ヴェノムポラン。

毒の花粉をばら撒いて、周囲の魔物を昏睡させ、捕食する魔物だ。


こいつの毒は自決島の中ではかなり弱い部類の魔物にしか効かないので、伐採対象にはしていなかったのだが……それが吉と出たみたいだな。


ヴェノムポランを使えば、より強力な魔物を誘き寄せることが可能になるからな。




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