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第52話 リッキーブルー

この「自称案内人」は、まず間違いなくマイ=アルバシュタイン本人ではない。


奇跡的にマイ=アルバシュタインも収納魔法事故に遭ってこの惑星・この時代に転生している可能性もなくはないが……その可能性は、極めて低い。


というのも、収納魔法事故による転生で別の惑星に行ってしまうなど、聞いたことがないからだ。


おそらく、俺のようなケースはレア中のレア。

この惑星に前世の俺と同じ出身の転生者がいるとは、考えにくいのだ。


それに、もっと決定的な点もある。


もし彼女が転生者だとしたら……前世と全く同じ外見であることの説明がつかないのだ。


俺だって、前世で12歳だった頃と比べても外見は全く違うしな。


それを考慮すれば、この状況、何者かがマイ=アルバシュタインに擬態して俺に悪事を働こうとしていると考える方が自然だ。



もっとも、ただのドッペルゲンガーが本当に俺を案内しようとしている可能性もゼロではないが……そのケースかどうかは、簡単に確かめられる。


「お前が本物だというのなら、それを証明しろ。……そうだな、この質問に答えてもらおうか。『流行性感冒』のサビを歌ってみろ」


流行性感冒。

これは、マイ=アルバシュタインが所属していたアイドルグループの代表曲の1つだ。

これを正しく歌えればマイ=アルバシュタイン本人である可能性が高くなるし、「そんな曲知りません」と言われればドッペルゲンガー説が濃厚になるのだが……


「…………〜〜〜♪」


彼女は「流行性感冒」と全く同じ歌詞の、旋律の全く違う曲を歌いきったのだ。

それも……俺が脳内に適当に思い浮かべた旋律を、そっくりそのまま真似してだ。



これで確定だな。

コイツは転生したマイ=アルバシュタイン本人でもなければ、ドッペルゲンガーでもない。


俺の脳内を読んでマイ=アルバシュタインに擬態し、俺を騙そうとしたに違いない。


この惑星の人間は、高位の冒険者でも滅多にこの島に足を踏み入れないらしいし……コイツは魔物で確定だろう。


「残念だったな。お前のやり方は……転生者には通用しない!」


そう言いつつ、俺は身体強化魔法をフルに発動し……ルナメタル製の剣に目一杯神通力を流し込みながら擬態者に肉迫し、一閃した。


「な……」


擬態者は叫び声を上げる間もなく霧散し……そこには魔石が1つと、水晶のような大きな球体が残った。


「デウス=エクス=メタモルフォーゼか」


魔石と球体をしまいつつ、俺はそう呟いた。


デウス=エクス=メタモルフォーゼは、どんな形状にも変身できる魔物だ。

その主な戦法は、「人間の脳を解析してその人が最も魅力的だと思う人物に擬態し、油断しきったところを不意打ちで殺す」というもの。


戦闘能力そのものは猪八戒の幼体と大差ないながらも、擬態の再現度の高さゆえに多くの人が騙されて命を落とすことから、前世での推定危険度はかなり高めとなっていた魔物だ。


まあ俺からしたら、前世の人間に擬態される分にはどうということはないのだがな。


ちなみにデウス=エクス=メタモルフォーゼの本来の姿は、討伐後の球体の形状だ。


こんな珍しい魔物、ほぼ自決島くらいでしか見かけないしな。

何というか……今の討伐で、「自決島に来た」と実感できたって気分だ。



……そんなことを考えていると。


『ヴァリウス、今の魔物の死体、我が貰ってもいいか?』


コーカサスがそう聞いてきた。


デウス=エクス=メタモルフォーゼの死体が要る? ……ああ、そういう事か。


『そうだな。これはコーカサスが使うのが一番だろう』


コーカサスが何をしたいのか察しがついた俺はそう返し、収納魔法からデウス=エクス=メタモルフォーゼの死体を取り出してコーカサスに渡した。


『悪いな。では遠慮なく使わせてもらうぞ』


コーカサスはそう言って、デウス=エクス=メタモルフォーゼの死体を自身の羽に乗っけた。


『……あっ、ちょ待てよ! 俺も俺も!』


それを見たベルゼブブもまた、デウス=エクス=メタモルフォーゼの死体に身を寄せた。


直後、コーカサスがデウス=エクス=メタモルフォーゼの死体に1つの魔法をかけた。



すると、数秒の間2匹は光に包まれ……その光が収まると、そこにはいつもと違った雰囲気の2匹がいた。


明るい黄色だった羽根は青みがかった濃い黄褐色になり、黒紋の位置や数が若干変化していたのである。


うん、リッキー亜種だな。

普通、この色になるのはヘルクレスだけなのだが……デウス=エクス=メタモルフォーゼの死体をベースとする自由変身魔法なら、こういった芸当も可能ってとこか。


それにしても、コーカサスはまあ甲虫だしコーカサスリッキーブルーで良いとしても……ベルゼブブの場合はベルゼブブリッキーブルー?

蝿型魔物のリッキー亜種って、結構違和感あるな。


まあ本人が気に入ってるなら、それに越したことはないか。


『どうだこの色! ヘルクレスの奴に見せてやりたいわ!』


『やっぱマジカッケェぜこの羽の色!』


コーカサスもベルゼブブも、ご満悦の様子である。


……どうやら、2匹のモチベーションは最高潮に達してるみたいだな。

じゃあこの調子で、本格的に自決島攻略を進めていくとしよう。


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