第51話 自決島に着いた
『コーカサス、ベルゼブブ、ビーストチップスの時間だぞ』
ギルドを出た俺は、とりあえず従魔たちの食事の時間にすることにした。
『待っていたぞ!』
『っしゃあ! ミナギルンZ!』
ご飯の時間と分かると、コーカサスもベルゼブブも一気にテンションを上げた。
……にしてもミナギルンZって何なんだろうか。
最近食事時になると、ベルゼブブはいっつもそう言うのだが……そんな言葉、一体どこで覚えてきたのやら。
まあその疑問は一旦置いておくことにし、俺は収納魔法からビーストチップスを取り出した。
『『いただきまーす!』』
俺がビーストチップスを入れている容器の蓋を開けると、2匹とも猛烈な勢いで食べ始めた。
ビーストチップスはみるみるうちに少なくなっていき……ついに、容器は空っぽになった。
『あー、食った食った』
『おかわりとかあるなら、まだまだ入りそうなもんだけどな!』
コーカサスもベルゼブブも、それぞれ思い思いの感想を言った。
……おかわりか。
今日はAランク冒険者に昇格できたおめでたい日でもあるし……こんな特別な日くらい、あげてもいいかもな。
「なるほど、おか──」
俺は「おかわりを出そうか」と言いかけたが……そこで、言葉を切った。
収納魔法を発動したところ、ビーストチップスの在庫を切らしていることが判明したからだ。
このタイミングでなくなったか。
タイミングが良いのか悪いのか、よく分からないな。
まあ何にしても、自決島に行く前にビーストチップスを補填しなければならないのは確かだ。
今から、それをしに行くか。
『じゃあこれから、例の畑に行くぞ。そこでビーストチップスを揚げるから……今日はおかわりありにするぞ』
『なに? それは本当か!』
『おかわりマジ? 最高!』
俺のおかわり宣言に、2匹はさらにテンションを上げた。
……まったく、分かりやすい奴らだ。
そう感じつつ……俺は実家の方角に、筋斗雲を移動させ始めた。
◇
日が落ちてから何時間か経った頃。
俺たちは、実家から少し離れたところにある畑に辿り着いた。
この畑は俺が転生直後にプリンゼルを救ったことで、カルメル様から頂いた土地を耕したものだ。
『んじゃ、収穫始めるぞ。コーカサス、蛍光魔法を頼む』
畑の真上に着いたところで、俺はコーカサスにそう指示を出した。
『分かった』
コーカサスはそう返事して、畑の四隅に向かって魔法を放った。
その魔法は、畑を覆う結界の動力源である4つの魔石に命中し……しばらくして、結界全体が仄かに光りだした。
この結界は普段はビニールハウスの役割しか持たないが、こうして蛍光魔法をかけてやるとしばらくの間発光してくれる。
これで、夜中でも作業できるようになったというわけだ。
俺は結界の内側に入り……畑に生えている植物を、1本抜いた。
「収量よし。……順調だな」
その植物の地下茎に大きな芋が成っているのを確認した俺は、そう呟いた。
この芋は、「麒麟芋」と呼ばれる芋。
ビーストチップスの、ベースとなる食材だ。
麒麟芋の入手方法は簡単で、魔物の素材と旨味調味料の交換が一定量を越すごとに麒麟がプレゼントしてくれるのだが……その量は微々たる物なので、それをそのままビーストチップスに加工していては到底賄いきれない。
だからこうして、貰った麒麟芋をもとに麒麟芋の栽培を行う必要があったのだ。
麒麟芋の栽培条件はとても複雑で、条件を満たす畑を耕やすのにはかなり苦労したが……10歳の頃には、今の畑の状態を完成させられた。
前世でよく見ていた農業系アイドルグループの通信魔法番組の放送内容を参考に、工夫を重ねて再現したのだ。
それ以来俺は、この畑の収穫を元にビーストチップスを調理してきた。
前世ならビーストチップスは大量に市販されていたので、テイマーがこんな仕事をする必要は無かったのだが、そもそも覚醒進化も知られていないような惑星に転生してしまった以上、これは仕方のないことである。
まあコーカサスもベルゼブブも揚げたてのビーストチップスを楽しんでくれるので、これはこれでいいかなって感じだ。
俺は栽培探知魔法を発動し、芋の位置を把握すると……身体強化魔法をフルに発動し、今の俺に出せる最高速で収穫を進めていった。
そして、約2時間後。
「今回は、こんなもんで十分か」
約3トンの麒麟芋を収穫した俺は、今回の収穫はここで中断することにした。
芋になっている部分以外の地下茎は地面に埋まったままなので、放っておけばまた数か月で芋が成ってくれる。
畑でやることは全部済んだので、これから調理に入るとしよう。
畑を出ると、俺たちは筋斗雲でまた少し移動し、調理用の施設までやってきた。
これも、俺が11歳になる頃建てたものだ。
施設に入ると、俺は麒麟芋に浄化魔法をかけ、土を落とした。
そして……
『コーカサス、ベルゼブブ、魔力譲渡を頼む』
俺は2匹から魔力を渡して貰いつつ、詠唱を始めた。
「如是切。如是断。本末究竟等」
すると……山のようにあった麒麟芋は、一気に薄い輪切りになった。
この切断用の僧侶魔法は、切断面の断面積によって消費魔力が変わる。
だから、魔力譲渡を受けるなどして協力してこの魔法を発動すると、輪切りも一気にできて効率的なのだ。
切り終わった芋に旨味調味料を塗しつつ、俺は芋を大釜で揚げていった。
『おお……いつ聞いても食欲が湧くものだな、この音は』
『そうそう、コレコレ! ジュワーってやつ!』
揚げる音が聞こえると、コーカサスとベルゼブブはますます待ちきれないといった様子になった。
「できたぞ」
そう言って揚げ終わったビーストチップスを皿に乗せ、更に旨味調味料をふりかけると……
『『いっただっきまーす!』』
猛烈な勢いで、2匹はビーストチップスにがっつき出した。
◇
コーカサスとベルゼブブが満腹になった後、収納する用のビーストチップスも揚げ終わると……俺たちは自決島の方角を確認した後、筋斗雲をその方向に移動するよう設定して就寝することにした。
そして、朝。
目がさめると……明らかに他とは魔力の様子が違う島が見えてきていた。
間違いない。
あれが千ry──自決島だな。
島の上空まで来ると、俺は収納魔法に筋斗雲をしまいつつ、空間転移で2匹とともに地面に降り立った。
……すると。
「ようこそ、この島へ。ここからは、私が案内しましょう」
振り向くと──そこには、道行く人全員が二度見するであろうレベルの美女が立っていた。
だが……俺はその存在に、強烈な違和感を覚えた。
この人には、見覚えがある。
前世で有名だった国民的アイドルにそっくり……というか、どう見ても本人なのだ。
だが、転生者である俺が、今世で彼女を目にするはずがない。
「黙れ。マイ=アルバシュタインが、この惑星にいるはずがないだろう」
俺はそう言いつつ、収納魔法からルナメタル製の剣を取り出し、構えた。