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第50話 理事長権限

「理事長権限?」


思わず、俺はそう聞き返した。

そんな制度、初めて知ったのだが。


「はい。精鋭学院の生徒は、精鋭学院理事長の要請があれば、当該生徒のギルドランクを1つまで上げることができるのです」


……なんじゃそりゃ。


「もちろん、この権限は行使される条件が非常に厳しく、これでランクが上がる生徒は年に1人いるかいないかってレベルなのですが……ヴァリウスさんの実力と『自決島に行きたい』という確固たる理由がある以上、まず間違いなく要請は通ると思います」


……へえ、そんなもんなのか。


条件が厳しいってことは……例えば、俺がヘルクレス討伐依頼を受ける前にこの制度を知っていたとしても、権限行使には至らなかったってことなんだろうな。


そして、この制度をこのタイミングで知れたのは結構でかい。

上げられるランクが1つまでなら、CからBに上げる時よりBからAに上げる時に権限を行使した方が、お得だろうからな。


にしても……受付嬢の言うことには、少々引っかかることがある。


「それって……理事長『が』ギルド『に』対して要請するものなんですよね?」


俺は受付嬢にそう質問した。

受付嬢の言い分だと、俺は学校側に申請を出さなければならないような気がするのだが……どうなのだろうか。


「通常はそうですね。生徒の申請を請けて精鋭学院が試験と面接を行い、その結果その生徒が理事長権限での昇格に相応しいと判断された場合、理事長が動きます」


……面倒そうだな。

日数もかかりそうだし。


だが……今受付嬢は「通常なら」と言った。

もしかして、今回のケースでは手順を簡略化してもらえたりするのだろうか。


「……俺の場合は、通常じゃないケースだったりするのでしょうか?」


「そうですね。これはかなり異例なことなのですが……今回は、私たちギルド側から、理事長に権限を行使してもらうよう催促しようと思います」


俺が質問すると、受付嬢はそう答えた。


……なるほど。

もはや、精鋭学院を経由する理由が無いようにも思えるが……ギルドの規則は、一冒険者のために例外処理ができるほど融通の利くものではないってことなのだろう。


はっきり言って、ランクを上げてもらえるってだけでも棚からぼたもちどころの話ではないのだ。

ありがたく、好意にあやかるとしよう。


……あ、でも……


「俺、正直あんまり精鋭学院通ってないんですが……便宜、図ってもらえるでしょうかね?」


「まあ、大丈夫だと思いますよ。私たちからは、『生徒が自決島を踏破した、という実績が手に入る』という部分を強く推しておきますから。それで理事長の心も揺らぐでしょう」


……ギルドが説得してくれるってことか。

益々、頭が上がらないな。



……そうだ。

そういえば……精鋭学院入試の前日、救出した馬車に乗っていた男が、1単位免除の封筒をくれたんだったな。


役に立つかは不明だが、一応彼のことも受付嬢に話しておくか。


そう思い、俺はその一部始終を受付嬢に説明した。


すると……


「きょ、教育委員会副委員長に、そんな伝手があったんですか!?」


受付嬢は口をあんぐりと開け、一歩後ずさりつつそう叫んだ。


「……そんなに驚くことなんですか? 毎年視察に来てるみたいな言い方してましたが……」


「確かにあの方は毎年視察に来てますが、あの方が実際に授業免除権を渡したなんて話、聞いたこともありませんよ? それ、相当レアです!」


……そんなにか。


「分かりました。もしあの方が動いてくださるとなれば……話は相当スムーズに進むはずです。協力を仰ぐ方針でいきたいと思います!」




こうして俺は、数日のうちにAランク冒険者に昇格できるかもしれないという流れになった。


あとは……結果を待つのみだな。







Bランク昇格から3日後の夕方。

俺は理事長権限の結果を聞きに、冒険者ギルドに入った。


まあ、今日結果が出ているかどうかは分からないがな。

できるだけ早く結果を聞きたいので、日課として夕方にギルドに訪れることにしているのだ。


今日は、精鋭学院の食堂で大量に食事も仕入れてきたしな。

これで一応、期末試験さえ終えたら長期間旅に出られるようにはなったのだが……


「あ、ヴァリウスさん! こっち来てください!」


そんなことを考えていると、受付嬢に威勢良く声をかけられた。


ということは……


「理事長権限、出ました!」


……やったぜ。

これで、晴れて俺も堂々と自決島を探索できるAランク冒険者になったってわけだな。


「こちらがAランクのギルドカードになります!」


受付嬢はそう言って、見るからに豪華な色のギルドカードをこちらに差し出した。

俺はそれを受け取るとともに、もう不要となったBランクのギルドカードを受付嬢に手渡した。


「教育委員会副委員長が動いてくれたおかげで、何もかもあっという間でしたよ! 本当ならどう見積もっても1週間はかかるところを、たったの3日で済ませてしまえたんですからね……」


……あの男、そこまで偉い人だったのか。

今度また、お礼しなきゃな。




ギルドカードを受け取った俺は早速、受付嬢から自決島の場所を教えてもらった。


「……と、こう行ったらこんな形の湾が見えてくるので、その湾から海に出て沖に進んでいってください。そうすると、かなり大きな島が見えてくるんですが……それが自決島です」


受付嬢は説明を終えると、説明に使った地図を引き出しにしまった。




……なるほど。


決してここメルケルスの街の近くというわけではなかったが……それでも、筋斗雲を全速力で飛ばし続ければ寝ているうちに着くような距離ではあったな。


もしこれが筋斗雲でも片道1週間かかるような場所だったら、実際に行くのは期末試験が終わってからにしようかとも考えていたが……どうやら、今すぐ行ってみても大丈夫そうだ。


今夜、出発するとするか。


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