第48話 練り練り作戦
受付嬢には座って待てと言われたが……試験は1時間後だし、ちょっとだけ近場に買い物に出かけるくらい良いだろう。
そう思い、俺はギルドの向かいにある雑貨店に寄った。
そして雑貨店に入ると、俺は天井から吊るされている看板の表示をもとに、目当ての物を探し始めた。
「えーと、この近くの棚の……あった!」
目当ての物を見つけた俺はその商品を手に取り、お会計に並んだ。
「これ、お願いします」
そう言いつつ、俺は収納魔法から小銭を取り出し、お会計のカウンターに置いた。
「でんぷん糊に食紅……変な組み合わせだねえ。これ、何に使うんだい?」
お会計のおばちゃんは、お釣りを計算しつつそんなことを聞いてくる。
「これから試験があるんで……ちょっと、役に立つかと思って」
「へえ。こんなもの何の試験に使うのか分からないけど、頑張るんだよ」
おばちゃんは、愛想良くお釣りを渡してくれた。
……さあ、準備開始だ。
雑貨店を出た俺は、ギルド上空にコーカサスたちを待機させてる筋斗雲まで空間転移し、作業を開始することにした。
まずは収納魔法から比較的価値の低い素材を取り出し、それを錬金術師の魔法でホウ砂に変質させる。
そしてそれを、食紅と一緒にでんぷん糊に投入し……それから、ひたすら混ぜていった。
しばらくすると、その物体はぶよぶよとしたゼリーみたいな状態になったので、俺はその形状を平べったく整え、収納魔法にしまった。
これで一応、秘策の準備はできた。
と言っても、この秘策が本当に使えるかどうかは、昇格試験の内容にもよるんだがな。
今までの受付嬢との会話から推測するに、試験は模擬戦の類なのだろうが……もしその予想が外れていれば、今の工作は無駄になってしまう。
まあ、思いつきで短時間で作ったものだしな。
使えたら面白いな、くらいの感覚で、試験に臨むとしよう。
そう考えつつ、俺は試験が始まるのを待つため、ギルドの待合室に戻ることにした。
◇
1時間くらい経つと受付嬢に呼ばれたので、俺は案内されるままに受付嬢についていった。
ついていった先は戦闘訓練場みたいな場所。
普段は一般開放されているが、今日は試験のため貸切状態にしてくれているとのことだった。
「先に試験を受けられる方があちらにいらっしゃいますので、試験官が来るまで一緒にお待ちください」
受付嬢はそう言って、訓練場に佇む2人の冒険者の方を指した。
なるほど、あの人たちが、今日一緒に昇格試験に臨む人たちか。
ちょっと挨拶でも……って、おい。
アイツら、もろに知り合いじゃねーか。
そう、なんと「今日一緒に昇格試験を受ける人」は、アイリアさんとメイシアさんのことだったのだ。
こうなると、あまり派手な勝ち方にこだわる意味はなくなってしまったな。
あの2人なら俺の実力はよく分かっているので、今更見せつけるものなど何も無いからな。
まあ自決島への誘いやすさという意味では、初対面の人よりは誘いやすいので、これはこれでいいのだが。
試験の結果が出たら、ちょろっとその話もしてみるとするか。
そんなことを考えていると……ギルドの制服を着た男が、訓練場に入ってきた。
あの男が、今回の試験官か。
職業適性は英雄だな。
後衛系の職業の人が相手なら、空間転移で一撃だったんだが……まあ用意した作戦が通用しない相手ってわけでもなさそうだし、構わないだろう。
そう分析し終えたくらいのタイミングで、試験官は口を開いた。
「私がBランク昇格試験を担当する、エボルバ=ディーアイだ」
試験官は、そう自己紹介した。
……ディーアイ。
なんか聞いたことのある苗字な気が……あっ。
「今回の受験者は魔法使い、剣士、そして……賢者か。……賢者で、その歳でBランクってことは、精鋭生か?」
「はい。学校楽しいです」
試験官が俺の方を向いて質問してきたので、俺は咄嗟にそう答えた。
試験官の苗字から嫌な予感がしたので、ちょっとでたらめ言ってみたが……余計な一言だっただろうか。
「そうか、精鋭学院が楽しいか。まあその歳でBランクに昇格するなら、そうでなくっちゃな」
試験官は、うんうんと頷きながらそう言った。
どうやら、問題なさそうだな。
「じゃあ、試験について説明する。試験は模擬戦形式で、 私相手に善戦できれば無事昇格だ。合否は私がその場で出す。質問は?」
「「「ありません(ねえっす)」」」
試験官の質問に、俺たち3人はそう返事した。
「じゃあまず、魔法使いの奴から上がれ!」
試験官の合図とともに、アイリアさんが試合スペースに上った。
◇
それから、約5分後。
「剣士のお前、合格だ」
アイリアさんとメイシアさんは無事昇格となり、ついに俺の番がやってきた。
2人とも、2分くらいで試験官に負かされていたが……それでも、試験官が求める基準には達していたということなのだろう。
もちろん、俺は勝つつもりで行くがな。
「次、賢者の奴。上がれ」
「はい」
俺は収納魔法から如意棒を取り出しつつ、試合スペースに向かって歩いた。