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第47話 ちょうどラッキーみたいだった

昼過ぎになり、依頼分の魔物の討伐が済んだ俺たちは、冒険者ギルドに達成報告をしに行くことにした。


「達成を報告しに来ました」


俺は受付嬢にそう告げた。


「あれ、ヴァリウスさんじゃないですか。今日は早かったんですね」


受付嬢は、笑顔でそう返した。


「まあ、今日は受注した依頼が少なかったですからね」


俺はそう言いつつ、収納魔法から討伐証明部位を取り出し、カウンターに並べていった。


今日は、Bランク昇格に必要な達成数を逆算して、受注する数を調整したからな。

いつもより早く帰ってこられたのは、そのためだ。


「少ないと言っても、十分訳の分からない達成数なんですけどね。昨日までのペースが異常だっただけですよ!」


受付嬢はそう返し、手際よく依頼達成状況の処理を進めていく。


「ほんと、10日前はびっくりしたんですよ? こちらはヴァリウスさんが達成期限を守れるか心配してたところだったのに、達成期限どころかその日のうちに全部の依頼を達成しちゃうんですから。何事かと思いましたよ」


受付嬢は、懐かしそうな表情を浮かべた。


10日前……確かに、あの時の受付嬢の慌てようは大したもんだったな。

あの時はすぐに奥からギルドの偉い人が出てきたりしたもんだが……いつからか偉い人は出てこなくなり、淡々と処理されるようになっていったんだよな。


まあ毎回大騒ぎになっても面倒なだけなので、ありがたい事ではあるがな。


「ギルドカードの処理、完了しました。……って、あっ! ヴァリウスさん、おめでとうございます。今日の分で、Bランク昇格に必要な依頼達成数の条件、満たしましたよ!」


受付嬢は満面の笑みを浮かべ、ギルドカードを差し出してきた。


そりゃそうだ。

そうなるように、数を合わせて受注してきたのだからな。


「それで……確かBランクに昇格するには、ギルドの試験を受けなければならないんですよね?」


受付嬢からギルドカードを受け取りつつ、俺はそう質問した。


精鋭学院の生徒手帳に、そんな説明が書いてあるページがあったからな。

あと昇格に必要なのは、試験を受けることだけのはずだ。


「あ、その事ご存知だったんですね! その通りです、たとえヴァリウスさんであっても、試験は受けていただかなければならないんです……」


言いながら、受付嬢の表情は、悲しそうなものになっていった。


……気になる言い回しだな。

そう不思議に思っていると、受付嬢は今度はとんでもないことを口走った。


「ヴァリウスさんの相手をするなんて試験官がかわいそうですから、ヴァリウスさんの試験免除にできないかって頼んでみたんですよ。それなのに試験官と来たら! 『試験免除に相当する奴なんて、楽しみだ』とかほざきだしちゃって……もうあいつ、どうなっても知りません」


……「試験官がかわいそう」って何だよ。

俺を何だと思っているんだ。


っていうか、ギルド規則は受付嬢の一存で変えられるようなものではないだろう。


とまあ、色々言いたいことはあるのだが……俺にとって今最重要なのはその試験をいつ受けられるかなので、それを聞いてみることにした。


「その試験、日程はどうなってますかね?」


「それは……ちょっと確認してきます!」


受付嬢はそう言って、奥の部屋に入っていった。



ギルドの規則上、実績面での昇格条件を満たすまでは試験官のアポが取れないことになっている。

つまり、「◯日後に昇格条件満たせそうなので、その日に試験お願いします」といった頼み方は原則不可能なのだ。


だから、このタイミングになるまで試験について問い合わせることはできなかった。


まあこれに関しては、こんな風に計画通りに実績を積むケースの方が稀だろうから、仕方ない事ではあるのだろうが。


あとは、できるだけ早く試験官のスケジュールが合うことを願うしかできないのだが……

そんなことを考えていると、受付嬢が笑顔で戻ってきた。


「ヴァリウスさん、良かったですね! 試験なんですが……今日、ちょうど別の方の昇格試験があるということで、ヴァリウスさんの試験も併せて取り行ってもらえるそうです!」


……マジか。

これは相当な豪運だな。


「じゃあ、それでお願いします」


「分かりました。……あ、ヴァリウスさんには聞く必要も無いことかもしれませんが、本当に依頼帰りで即試験で大丈夫なんですよね? コンディション調整とかはしなくても……」


「大丈夫です」


受付嬢の質問に、俺はそう即答した。

なんせ、討伐はコーカサスとベルゼブブに任せっきりだったからな。

コンディション調整もへったくれもない。


「では、試験は約1時間後からとなりますので、そこに掛けてお待ちください」


受付嬢はそう言って、ギルドの待合所の椅子を指差した。



……今日、他にも受験者がいるってことだったな。

となると……この試験、できるだけ圧倒的な合格を勝ち取らなければならないな。


この世界では、自決島はAランク冒険者でさえ積極的に行きたがる人はほぼいないと言う。

ましてや、Bランクのうちから自決島に足を踏み入れようと思う人など、皆無に近いだろう。


つまりそれは、臨時パーティーの結成難易度が前とは段違いになるであろうことを意味する。


だが、この試験で俺が結果を出しさえすれば……もしかしたら、それを見た今日の受験者が「ヴァリウスと一緒になら自決島付いていってもいいぜ」とか言ってくれるかもしれない。


そうなれば、難航が予想される臨時パーティーメンバー探しも、かなり楽になる。


そこに、賭けるしかないな。


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