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第46話 大根、再び

『じゃあ今日は俺は鍛冶屋行ってくるから、また任せたぞ』


鍛冶屋でルナメタル製の剣を注文してから10日が経った日の朝。

俺はコーカサスとベルゼブブにそう言って、別々の道へ向かいだした。


『分かった』


『楽しんでくるぜ!』


2匹は威勢良く返事をして、今日の依頼現場へと飛び去っていく。




この10日間、俺はコーカサスたちと一緒に、ただ淡々と依頼をこなしていっていた。


別行動が可能なのは確かだが、かと言って別行動でやりたいことは鍛冶屋に行くことくらいしか無かったからな。


精鋭学院の期末試験も近いので、俺は筋斗雲の上で待機しつつ、自作の単語カードをパラパラめくるなどしていたのだ。

もちろん、司令塔として果たすべきことはきっちりこなしつつだ。


それ以外で俺が2匹に貢献したことといえば、2匹が倒した魔物を収納魔法に入れていったことくらいだろうか。

まあそれは、微妙なスピードアップにしかなっていないだろうがな。


討伐はかなり順調に進み、受注した依頼はその日のうちに全て消化しきることができていた。


そのおかげもあって、この10日間で達成した依頼の数は、170以上にもなる。

今日、受注してきた依頼を全て達成できれば……その分で、実績面でのBランク昇格条件を満たせる事になるな。


ルナメタル製の剣も、注文した分は今日完成するしな。

注文する本数を3本にしたのは、大正解だったかもしれない。


そんな事を考えていると……鍛冶屋の建物が見えてきた。


それじゃあ、貰いに行くか。






「すみません」


「おう、来たか。剣ならできているぞ」


俺が鍛冶屋の建物に入ると、鍛冶師はそう言って奥の部屋に剣を取りに行った。


顔を見ただけで、この対応か。

まだ2回しか注文したことがないというのに、常連客並みの扱いだな。


そんなことを感じていると、鍛冶師が3本の剣を携えて戻ってきた。


「これだ。一応、前のと同じ完成度にはできたつもりだが……ルナメタル製の剣の切れ味は、儂では確認のしようがないからな。また、試し斬りでもしていくか?」


鍛冶師は俺に剣を渡しつつ、試し斬りの部屋へと俺を促した。


話が早くてありがたい。

俺は鍛冶師が解錠した扉を開け、試し斬りに部屋へと入っていった。




「今更、巻藁なんぞ斬ってもしょうがあるまい。 あっちに色々用意してあるから、好きに使え」


部屋に入ると、鍛冶師は部屋の隅に積んである金属のインゴットを指してそう言った。

見ると……そこにはミスリルのみならず、アダマンタイトのインゴットまで用意されている。


……マジか、アダマンタイトか。

アダマンタイトの硬度はミスリルの比ではないからな……いくら俺の神通力の練度が上がったとはいえ、それを斬れるレベルにまで達しているかというとちょっと怪しい。


だが、だからこそ試し斬りする価値があるというもの。

そう考えた俺は、真っ先にアダマンタイトのインゴットを手に取った。


すると、部屋の入り口から鍛冶師が声をかけてきた。


「おいおい、本気か? 切れ味が上がったとかいうから、冗談で用意してはみたけどよ……」


気のせいかもしれないが、鍛冶師の声が若干震えているような気もする。


まあ、いいんじゃないだろうか。

仮にアダマンタイトは切れなかったとしたら、その時はミスリルで試し斬りすれば良いのだから。


そうなった場合は、手応えでどれくらい切れ味が上がっているか判断すればいいだろう。


そう考えつつ、俺はルナメタル製の剣を1本握り、神通力を流した。


……神通力の流しやすさは、前の剣と同じくらいか。

そんな風に感触を確かめつつ、俺は左手を猫の手の形にしてアダマンタイトのインゴットに添え、ルナメタル製の剣をインゴットに突き立てた。


すると。

アダマンタイトのインゴットは……大根を切るくらいの感触で、刃を入れていくことができた。



……思えば、前ここでミスリルのインゴットを試し斬りをした時も、大根を切るくらいの感触だったな。


今回もまた、大根か。

つくづく、大根だな。


感動の中、そんな思いが頭をよぎり……気がつくと、アダマンタイトのインゴットは完全に真っ二つになっていた。


「まさかここまでとは……。君は一体、何者なんだ……」


振り向くと、鍛冶師は口をあんぐりと開け、虚ろな表情をしながら呟いていた。


……鍛冶師が想定していた以上の結果は、出せたみたいだな。

そうホッとしつつ、俺は残り2本の剣にも、試しに神通力を通してみた。


その2本の剣も、今まで使っていた剣と同じくらいスムーズに神通力を通せたので、これなら試し斬りの必要はないだろうと判断し、俺は剣を3本とも収納魔法にしまった。


あとは、お会計だな。


俺は収納魔法から300000ゾルを取り出しつつ、鍛冶師とお会計のカウンターのところに戻っていった。


お会計中も鍛冶師は「しかし、あんな切れ味とは……」などとうわ言を口にしていて、若干おぼつかない様子だったが、しばらくしてきっちり支払いを完了することができた。


鍛冶屋を出た俺は、千里眼を用いてコーカサスとベルゼブブの様子を確認する。


……順調そうだな。

これなら、あと2時間もあれば、Bランク昇格に必要な依頼分の討伐が済みそうだ。


昇格を楽しみにしつつ、俺はコーカサスたちと合流することにした。


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