第45話 受注と発注
「……これと……これで最後にするか」
俺はザッと依頼掲示板を見渡した後……十数枚の依頼を手に、再び受付に並ぶことにした。
比較的生息域の似ている魔物の討伐依頼を、今日中にギリギリ達成出来そうな量まとめて受注する。
これが、最速でランクを上げるために俺が考えたやり方だ。
今はもうすぐ昼どきなので、これから依頼を受注しようという冒険者はあまりいないだろう。
だからこそ、これくらい大胆なことをしても迷惑にはならない。
「では、これでお願いします」
俺は『受注/達成報告・素材買取』のカウンターに、依頼書の束を置いた。
「……え、こんなにですか?」
受付嬢は、目を丸くしてそう聞いてきた。
「はい」
「確かに、ヴァリウスさんなら何とかできてもおかしくない気がしますが……もし期限内に達成できないものが出てきたら、違約金を払ってもらうことになりますよ?」
「大丈夫です」
心配そうな表情の受付嬢に、俺は真剣なトーンで答えた。
元より、1日での達成を想定して手に取った依頼だ。
まかり間違っても、期限内に達成できないなんてことはないはずだ。
仮に何らかの不幸が重なり、違約金を払うことになってしまったとしても、俺にはルナメタル鉱石の売却益が潤沢に残っている。
不測の事態を恐れるあまりランク上げの効率を落とすなど、愚の骨頂だ。
「そこまで言うなら……」
真剣さが伝わったのか、受付嬢は渋々といった表情ながらも受注の処理を進めだした。
「一番期限が迫っている依頼は、残り日数が3日となっております。気をつけてくださいね」
受付嬢は1枚の依頼書を指し、そう言った。
……3日か。
どう転ぼうが、失敗は無さそうだな。
そう考えていると処理が済んだので、依頼場所の説明を聞いた後、俺はギルドを後にした。
◇
『じゃ、頼んだぞ』
受けた依頼についてコーカサスとベルゼブブに説明した後、俺はそう言って2匹とは別方向に向かい始めた。
今回の魔物討伐は、実際の戦闘は全面的にコーカサスたちに任せるつもりだ。
なぜなら、それが一番効率が良いからだ。
倒すべき敵の種類や数が多くなってくると、効率的な討伐を行うには司令塔に徹する人が必要になる。
そして誰が司令塔に適任かというと、言うまでもなく千里眼を持つ俺だ。
俺が千里眼で討伐対象を発見し、コーカサスやベルゼブブを念話でそこに誘導する。
それこそが、最速ルートというわけなのだ。
となると、だ。
もはや俺は、依頼現場にいる必要すらなくなってくる。
千里眼もテイマーの念話魔法も、この程度の活動範囲なら距離制限などあってないようなものだからな。
コーカサスとベルゼブブに討伐の現場に向かわせ、俺は指示だけ出しつつ全く関係ない活動をする。
そんなことが可能になるのだ。
もちろん、別行動でやる内容が集中力を要するとなると、司令塔としての役目に支障が出かねないが……それならば、別行動でするタスクは集中力のいらないものにすれば良いだけの話だ。
というわけで今日は、また件の鍛冶屋に行こうと思っている。
ルナメタル製の剣を、もう何本か用意しておきたいと思ったからだ。
ルナメタル製の剣は、四神を完全に消滅させるためのキーアイテムだからな。
予備は、過剰なくらいに用意してて然るべきだろう。
もっとも、今収納魔法に入っているルナメタル鉱石は、ハイルナメタルの原料として持ち帰ったものだが……アルテミスと麒麟、仲よさそうだしな。
多少別の用途で消費したとて、大目に見てもらえるだろう。
そう考えつつ、俺は鍛冶屋に向かっていった。
◇
「すみません」
「おう、何の用──って、君は! ルナメタル製の剣の方ではないか!」
俺が鍛冶屋に入ると、鍛冶師はぶっきらぼうな口調を驚いた口調に変え、そう口にした。
「ルナメタル製の剣の調子はどうだね?」
「調子良いですよ。あれから、ますます切れ味も上がってきてます」
「……は?」
俺の返事に、鍛冶師はキョトンとした。
……まあ、そうなるか。
切れ味の上昇は、厳密には俺の神通力の練度が上がったってだけの話だからな。
簡単に説明できることでもないし、こういう反応になるのも仕方ないだろう。
そう考えていると、再び鍛冶師が口を開いた。
「使っている間に剣の切れ味が上がっていくなど、聞いたこともねえが……それより、今日はどういう用件で来たんだ? その言い分だと、剣の整備に来たってわけじゃなさそうだが」
「今回は、ルナメタル製の剣の予備を作っていただきたく、ここへ来ました」
そう答えた後、俺は収納魔法から剣3本分に相当するであろうルナメタル鉱石を取り出した。
予備が余るほど欲しいとは言っても、流石に自決島に出発するまでには完成品を受け取りたいからな。
それを考慮すると、これくらいの本数が妥当だと思うのだが……
「3本お願いしたいんですけど、何日くらいかかりますかね?」
「そうだな……ノウハウも開発済みだしな、今回は3本合わせて10日くらいでできるはずだ。それでいいか?」
「じゃあ、お願いします」
やはり、目論見通りなようだ。
そう思った俺は、すぐに快諾した。
試し斬りは……受け取る日にでも、させてもらえばいいか。