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第44話 設計図を手に入れた

『汝が欲するは、覚醒進化素材か旨味調味料、どちらなのじゃ?』



『覚醒進化素材だ』


麒麟の問いに、俺はそう答えた。


『そうなのじゃな。ならば……そこに、素材にしたいものを置くのじゃ』


麒麟は地面を指した。


そこに、スルトの死体を置く。


『……これでいいのじゃな?』


『ああ』


そう返事すると……麒麟は、スルトに息吹をかけ始めた。

数秒して、スルトは光り輝き始め……みるみるうちに、形を変えていく。


それが終わると──そこには、覚醒進化に必要な素材だけが残っていた。


『……他は、持っておらんのじゃな?』


『ああ、今はこれだけだ』


『そうか。なら……さらばじゃ』


麒麟はそう言い残し、光とともにその場から姿を消した。



残された覚醒進化素材に近づき、俺は隅々までそれを眺めた。


「……【設計図】か」


覚醒進化素材の一点に施された紋様を確認し、俺はそう呟いた。



覚醒進化素材には、【設計図】【組立】【潤滑】【動力】【機構】【制御】の6属性があり、覚醒進化にはこの6属性が1つずつ必要となる。


つまり俺は、これから【設計図】以外の5属性の覚醒進化素材を、獲得しなければならないのだ。


そのためには、スルトのリスポーンを待ち、あと5体倒して麒麟に素材交換してもらえば良さそうにも思えるが……実は、話はそう単純ではない。


というのも、同一種類の魔物からは、1属性の素材にしか、交換することができないのだ。

つまり、スルトを何体倒したところで、【設計図】の素材しか手に入らないということになる。


精鋭学院付属迷宮だと、迷宮主以外で覚醒進化素材に交換できるクラスの魔物はいなかったので……必然的に、他のダンジョンとかに探しに行かなくてはならない。


だが……そのために世界中のダンジョンを片っ端から攻略していくというのは、いくら何でも効率が悪い。


そこで重要になるのが、ダンジョン以外の覚醒進化素材の集め方である。


そもそも前世では、迷宮主を討伐して覚醒進化素材にするというやり方はメジャーではなかった。


ではどうしていたかというと、強力な魔物が密集する大陸や島に赴き、そこで覚醒進化素材になり得る魔物を獲得していたのだ。


大陸や島の魔物は、ダンジョンと違って同じ魔物だけが湧き続けるわけではないので、1か所から6属性を集めることも可能だったからだ。


前世では、そうした場所はよく稼げることから「千両大陸」や「千両島」などと呼ばれていたな。


今回は1属性目かつ浅めのダンジョンってこともあって、精鋭学院付属迷宮で集めたが……残り5属性は、ぜひともそうした島とかで集めたいものというわけだ。


となると……次に行く場所は、冒険者ギルドだな。

この惑星で言う「千両大陸」や「千両島」に該当する場所を、教えてもらう必要があるからな。


『コーカサス、ベルゼブブ、そろそろ出発しよう』


冒険者ギルドへ向かうため……俺たちは、空間転移で迷宮を登りはじめた。








「すみません」


「あら、ヴァリウスさんじゃないですか! 本日はどうされるんですか? またBランクの依頼でも受けますか?」


ギルドに相談しに行くと……受付嬢が、そう言って明るく聞いてきた。


『諸手続き』の方に並んだからか、また臨時パーティーを結成しようとしているとでも思われたみたいだな。


「いえ、今日は依頼を受けるために来たんじゃありません。ある場所について、お尋ねしたいことがあるのです」


「ある場所、ですか?」


「はい。例えば……強力な魔物が密集している島とかって、どこにありますか?」


具体的な魔物の名前とかを挙げつつ、俺は「千両島」の特徴を受付嬢に細かく説明した。


すると……なぜだろう。

受付嬢の表情は、どんどん険しくなっていってしまったのだ。


そんな様子の受付嬢は、俺にこう質問した。


「まさかとは思いますが……ヴァリウスさん、その島に行こうなんて思ってないですよね?」


「……いや、もちろん行きますよ? そこで探したい物があるので」


すると……受付嬢は、素っ頓狂な声でこう言い出した。


「……何言ってるんですか! よりにもよって、あの『自決島』に行こうとするなんて!」


……おいおい、逆に何の冗談だよ。

あのお宝みたいな場所に、「自決島」なんて名前をつけるのは流石に物騒すぎないか。


一周回って、「千両島」が不憫に思えてきたぞ。



……まあ、そんなことを言ってもしょうがないか。

郷に入れば郷に従え。

そう呼ばれている以上、その「自決島」の場所を教えてもらわないとな。


「あの……『自決島』の場所、教えていただけませんか?」


そう聞くと……受付嬢は深呼吸を繰り返してから、口を開いた。


「まあよく考えたら、ヴァリウスさんは何食わぬ様子でブルーフェニックスを持ち出すような方ですし……もしかしたら、あの『自決島』からでも、生還できるかもしれませんね。ですが……ギルドの規則上、今のヴァリウスさんには教えられないんですよね」


……今の俺には教えられない?

どういうことだろうか。


「どうして、今の俺だとダメなのでしょう?」


「ギルドの方針では、自決島への行き方を教えていいのはAランク冒険者からとなっているんです。まあそのAランク冒険者でも、生還率は1割を切るんですがね」




……なるほど、ただのランク不足か。


Aランクからということは、また臨時パーティーを組むことを想定しても、最低Bランクは必要ということ。

あと1つ、上げないといけないのか。


なら、ランク上げるか。


もっとも、筋斗雲や千里眼もあるわけだし、ギルドに頼らず人海戦術で探すって手もあるが……それはそれで、早く見つけられるかどうかがかなり運頼りになってしまう。


それくらいなら、ササっと実績を出した方が、まだマシだろう。


「分かりました。一旦失礼します」


俺はそう言い残し……依頼掲示板へと向かった。


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