第43話 新たな力の使い勝手
ベルゼブブがワイバーンを狩って帰ってきてから、更に1日が経ち……俺たちは再び、精鋭学院付属迷宮まで来ていた。
と言っても今回は、ハイルナメタルを精製しに来たわけではない。
今回は、精鋭学院付属迷宮を最下層まで攻略し、迷宮主を討伐するために来たのだ。
というのも……迷宮主というのは、代表的な覚醒進化素材の原料の1つだ。
今までは、戦力不足から迷宮主の討伐は断念していたが……コーカサスやベルゼブブが申し分ないほど強化された今、その問題は解消された。
今なら、覚醒進化素材を集めに行けるのだ。
つまり、より合理的な戦力増強に取り組めるようになった以上、それを実行しない手は無いというわけである。
ブルーフェニックスが81層で出たということは……おそらく、精鋭学院付属迷宮は浅い部類のダンジョンのはず。
転生後初めて迷宮主討伐に向かうダンジョンとしては、悪くない選択肢と言えるだろう。
そうと決めたら、まずはダンジョン入り口の隣の建物に行って成績登録の手続きを……しようと思ったが、やはりやめた。
間の悪いことに、例の面倒極まりない2年次首席が、ちょうどその建物に入ろうとしていたからである。
どうせ、最高成績を得るのに十分な量の討伐実績は、既に残してあるのだからな。
奴と鉢合わせになるくらいなら、今回は成績登録はスルーでいいだろう。
ということで……俺たちは、直にダンジョンへと向かうことにした。
◇
『で……どうなんだ、実際? 戦ってみた感想は?』
81層まで降りてきたところで、俺はコーカサスにそう質問した。
『もはや、この程度ではまるで手応えが無いな。こんなのと戦ってばかりでは、もどかしさが募るだけだ』
『それな。ってか、俺出る幕ねーし』
コーカサスの不満げな言い分に、ベルゼブブが賛同した。
……まあ、そうなるよな。
というか、そうでなくては困る。
『じゃあ、もっと奥まで進むぞ。とりあえず……10層、降りてみていいか?』
『ああ』
『そんくらいなら楽勝だろ』
ということで、俺は空間転移を3回発動し……91層まで進んだ。
91層をしばらく歩いていると、曲がり角から、1体の魔物が姿を表した。
するとすぐさま、コーカサスが角から魔法で斬撃を飛ばし……一瞬にして、その魔物を絶命させてしまった。
『……今回はどうだった?』
結果は一目瞭然だったが……一応、聞いてみる。
『さっきと大して変わらん』
そして、思った通りの返事が帰ってきた。
じゃあ……もう10階層、転移だな。
1回転移して、95層。
2回目で、99層。
そして3回目だけは1階層飛ばしにして、101層に……あれ?
101層に転移しようと、千里眼を発動してみたのだが……どういうわけか、どこに転移しても、壁の中に埋まってしまうようになっている。
迷宮の地面の厚さが推測と違うのかと思い、少し視点を上下させてみるも……一向に、状況が変わる様子は無い。
これはおかしい。
そう思っていると……俺は、別の可能性に思い至った。
もしかして……このダンジョン、100層までしか無いのでは?
そう思い、千里眼で100層の様子を確認する。
そうしていると……しばらくして、俺は1つの扉を発見した。
……間違いない。
これ、迷宮主が棲む部屋の前の扉だ。
やっぱりこのダンジョン、100階層までしか無かったんだな。
『コーカサス、ベルゼブブ。次の階層が、迷宮主の階層だ。準備はいいか?』
一応。俺は2匹にそう伝えた。
『もちろんだ』
『いいから早くいこーぜ』
やる気のある返事を聞いたところで……俺は空間転移で100階層に移動した後、迷宮主のいる部屋の扉を開けた。
扉を開けると……そこにいたのは、炎の巨人──スルトだった。
「グオオオオォォォォ!」
スルトは俺たちの存在に気づくなり、咆哮をあげ、身に纏う炎を激しく燃え上がらせる。
『じゃ、まず俺いっきまーす』
それを見て……ベルゼブブは呑気な様子で、スルトに近づいていった。
ベルゼブブが魔法を発動すると、スルトを纏う炎の色が緑色に変化した。
と同時に、スルトは苦しみ踠き始めた。
確かに、強毒の元素で炎色反応を起こさせる攻撃は、炎を纏うタイプの魔物には効果
それを息するようにやってのけるとは……流石は、毒を得意分野とするベルゼブブだな。
そう感心していると、今度はコーカサスが動いた。
コーカサスは魔法を発動すると……スルトの纏う炎が、更に深緑に、激しく燃え上がった。
通常であれば、炎を纏う敵には氷結魔法を使うのがセオリーだ。
だが、適切な強毒による炎色反応が起こっている時は、話が変わってくる。
毒のダメージを増幅させるため、炎を活性化させた方が、効果的な場合もあるのだ。
それを見越して、臨機応変に攻撃手段を選択したコーカサス。
これは、見事な連携と言わざるを得ないな。
あとは、待っているだけでスルトは力尽きるだろう。
そう思い、座り込んでいると……やがて炎が収まり、スルトはドスンと音を立てて倒れ伏した。
討伐、完了だな。
……そうだ。
こいつ、この場で覚醒進化素材にしてしまうか。
そう思い、俺は例の魔法を唱えた。
「麒麟よ、我の前に姿を表し……互いに益となる取引を為さん」
……こっちの目的で麒麟を呼び出すのは、実に久しぶりだな。