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第43話 新たな力の使い勝手

ベルゼブブがワイバーンを狩って帰ってきてから、更に1日が経ち……俺たちは再び、精鋭学院付属迷宮まで来ていた。


と言っても今回は、ハイルナメタルを精製しに来たわけではない。

今回は、精鋭学院付属迷宮を最下層まで攻略し、迷宮主を討伐するために来たのだ。



というのも……迷宮主というのは、代表的な覚醒進化素材の原料の1つだ。


今までは、戦力不足から迷宮主の討伐は断念していたが……コーカサスやベルゼブブが申し分ないほど強化された今、その問題は解消された。

今なら、覚醒進化素材を集めに行けるのだ。


つまり、より合理的な戦力増強に取り組めるようになった以上、それを実行しない手は無いというわけである。


ブルーフェニックスが81層で出たということは……おそらく、精鋭学院付属迷宮は浅い部類のダンジョンのはず。

転生後初めて迷宮主討伐に向かうダンジョンとしては、悪くない選択肢と言えるだろう。


そうと決めたら、まずはダンジョン入り口の隣の建物に行って成績登録の手続きを……しようと思ったが、やはりやめた。


間の悪いことに、例の面倒極まりない2年次首席が、ちょうどその建物に入ろうとしていたからである。


どうせ、最高成績を得るのに十分な量の討伐実績は、既に残してあるのだからな。

奴と鉢合わせになるくらいなら、今回は成績登録はスルーでいいだろう。


ということで……俺たちは、直にダンジョンへと向かうことにした。







『で……どうなんだ、実際? 戦ってみた感想は?』


81層まで降りてきたところで、俺はコーカサスにそう質問した。


『もはや、この程度ではまるで手応えが無いな。こんなのと戦ってばかりでは、もどかしさが募るだけだ』


『それな。ってか、俺出る幕ねーし』


コーカサスの不満げな言い分に、ベルゼブブが賛同した。


……まあ、そうなるよな。

というか、そうでなくては困る。


『じゃあ、もっと奥まで進むぞ。とりあえず……10層、降りてみていいか?』


『ああ』


『そんくらいなら楽勝だろ』


ということで、俺は空間転移を3回発動し……91層まで進んだ。


91層をしばらく歩いていると、曲がり角から、1体の魔物が姿を表した。

するとすぐさま、コーカサスが角から魔法で斬撃を飛ばし……一瞬にして、その魔物を絶命させてしまった。


『……今回はどうだった?』


結果は一目瞭然だったが……一応、聞いてみる。


『さっきと大して変わらん』


そして、思った通りの返事が帰ってきた。


じゃあ……もう10階層、転移だな。


1回転移して、95層。

2回目で、99層。

そして3回目だけは1階層飛ばしにして、101層に……あれ?


101層に転移しようと、千里眼を発動してみたのだが……どういうわけか、どこに転移しても、壁の中に埋まってしまうようになっている。


迷宮の地面の厚さが推測と違うのかと思い、少し視点を上下させてみるも……一向に、状況が変わる様子は無い。


これはおかしい。

そう思っていると……俺は、別の可能性に思い至った。


もしかして……このダンジョン、100層までしか無いのでは?


そう思い、千里眼で100層の様子を確認する。

そうしていると……しばらくして、俺は1つの扉を発見した。


……間違いない。

これ、迷宮主が棲む部屋の前の扉だ。


やっぱりこのダンジョン、100階層までしか無かったんだな。


『コーカサス、ベルゼブブ。次の階層が、迷宮主の階層だ。準備はいいか?』


一応。俺は2匹にそう伝えた。


『もちろんだ』


『いいから早くいこーぜ』


やる気のある返事を聞いたところで……俺は空間転移で100階層に移動した後、迷宮主のいる部屋の扉を開けた。




扉を開けると……そこにいたのは、炎の巨人──スルトだった。


「グオオオオォォォォ!」


スルトは俺たちの存在に気づくなり、咆哮をあげ、身に纏う炎を激しく燃え上がらせる。


『じゃ、まず俺いっきまーす』


それを見て……ベルゼブブは呑気な様子で、スルトに近づいていった。


ベルゼブブが魔法を発動すると、スルトを纏う炎の色が緑色に変化した。

と同時に、スルトは苦しみ踠き始めた。


確かに、強毒の元素で炎色反応を起こさせる攻撃は、炎を纏うタイプの魔物には効果覿面(てきめん)なのだが……適切な毒の選択が極めて難しい、高難易度の攻撃方法でもあるはずだ。

それを息するようにやってのけるとは……流石は、毒を得意分野とするベルゼブブだな。


そう感心していると、今度はコーカサスが動いた。


コーカサスは魔法を発動すると……スルトの纏う炎が、更に深緑に、激しく燃え上がった。


通常であれば、炎を纏う敵には氷結魔法を使うのがセオリーだ。

だが、適切な強毒による炎色反応が起こっている時は、話が変わってくる。

毒のダメージを増幅させるため、炎を活性化させた方が、効果的な場合もあるのだ。


それを見越して、臨機応変に攻撃手段を選択したコーカサス。

これは、見事な連携と言わざるを得ないな。


あとは、待っているだけでスルトは力尽きるだろう。


そう思い、座り込んでいると……やがて炎が収まり、スルトはドスンと音を立てて倒れ伏した。


討伐、完了だな。



……そうだ。

こいつ、この場で覚醒進化素材にしてしまうか。


そう思い、俺は例の魔法を唱えた。


「麒麟よ、我の前に姿を表し……互いに益となる取引を為さん」


……こっちの目的で麒麟を呼び出すのは、実に久しぶりだな。


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