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第41話 ご褒美

「はあ~、長かった」


俺はルナゴーレムの死体を回収し、大きくため息をついた。


臨時パーティーでのヘルクレス討伐依頼達成(結局あの時は、俺がヘルクレスの死体の想定売却益を現金補填するって話で落とし前をつけた)から、約2ヶ月が過ぎた今日。


俺はついに、月から新たに持ち帰ったルナメタルを、全てハイルナメタルに変換し終えることができた。




この2か月、俺はほとんどの時間をハイルナメタルの精錬に費やしていた。


別にこれは、俺が朱雀を放ったらかしていたというわけではない。

そもそも朱雀は、確固たる配下を揃えるまでは、徹底的に人知れず行動する邪神。

ザクエルから居場所を聞き出せなかった時点で、こちらから探し出すのは原理的に不可能となっていたのだ。


そんな朱雀を退治する方法はただ一つ。

それは、「朱雀が強力な配下を従えて動き出した際に、それを正面から叩きのめす」という、至極単純な方法だ。


そのためには、可能な限り効率よくこちら側の戦力を高めなくてはならないのだが……その方法は、大きく分けて3つしかない。


1つ目は、「従魔の数を増やして覚醒進化させ、数的な面で戦力を強化する」という方法。

2つ目は、「他のテイマーを育成して、覚醒従魔持ちのテイマー複数人のパーティーを組めるようになっておく」という方法。

そして3つ目は、「コーカサスや俺自身が、より強くなる」という方法だ。


こうしてみると、確かに1つ目や2つ目の選択肢が、一見効率的に見えるだろう。

アイリアさんの妹に、ヘルクレスをあげたのもあったしな。

タイミングだけの話をするならば、後継者育成に取り掛かるにはちょうど良かったと言えたかもしれない。


だが実は、そこには罠があった。

今の俺やコーカサスたちの戦力では、覚醒進化素材を揃えることが不可能なのだ。


今のコーカサスで戦力不足ということは、すなわちこの惑星の人間は等しく戦力不足ということ。

つまり、誰一人として、覚醒進化素材の素となる魔物を討伐できないということになる。


そして、俺が前世から持ち越した覚醒進化素材は、コーカサスに使った分で最後。


要は、1つ目と2つ目の選択肢は、最初から無かったことになるのだ。


従って、消去法で、俺たちの目標は「コーカサスや俺自身が、より強くなること」に定まるわけだ。


そして、そこで鍵になったのが、アルテミスの「ご褒美」だ。


俺が初めてアルテミスを助けた時、俺は「神通力」という、人間がまず手に入れることのない特殊な力を授かることができた。


もしかしたら次の「ご褒美」も、そう言った強化系統の報酬かもしれない。

俺はそこに賭けることにしたのだ。


いつ朱雀が動き出すか分からない以上、のんびりはしていられない。

そういうわけで、俺は朱雀に動きがないことをチェックしに地上に出る時以外は、精鋭学院付属迷宮43階層に入り浸っていたのだ。


『それにしても……随分沢山ルナメタルを持って帰ってきた割には、精錬は早く済んだものだな』


『ああ。ベースゴーレムが、変異後も沢山食べてくれて助かったぜ』


コーカサスが漏らした感想に、俺はそう返した。


……そう。

実はベースゴーレム……ルナゴーレムに変異した後も、変異に必要な量の約20倍くらいまでは、ルナメタル鉱石を食べ続けてくれたのだ。


ルナメタル精製においては、ベースゴーレムのリスポーンが律速段階となっていた。

つまり、1体あたりのルナメタル摂取量が20倍になるということは、そのまま作業効率が約20倍になることを意味したのだ。


そのおかげで、2か月という長くはない期間で、5日で消費した量の約200倍という膨大な量を変換しきることができたというわけだ。


『じゃ、地上に戻るか』


俺は、この2か月で日進月歩ながらも成長させた神通力を用い、3階層飛ばしで地上まで戻っていった。


地上に出ると、不幸にもまたあのクソ首席に出くわしてしまったので、追加でもう1回転移した。


そして収納魔法から筋斗雲を出し……月に向かうため、例の赤い湖を目指し始めた。







『やあ、ヴァリウス。久しぶりだな』


『ああ』


精鋭学院付属迷宮を離脱して、およそ1週間が経った日のこと。

俺たちは、月に到着した。


『これが、約束のハイルナメタルだ』


俺はそう言って、収納魔法からハイルナメタルを全て取り出した。


『これで足りそうか?』


『ああ。これだけのハイルナメタルがあれば……とりあえずは十分だ』


アルテミスの返事に、俺は若干ホッとした。

俺には、ルナメタルとハイルナメタルの違いなんて判別できないからな。

もし、変異後のルナゴーレムに食べさせていた分のルナメタルが、ちゃんとハイルナメタルに変換されてなかったら……という懸念が、無い訳ではなかったのだ。


杞憂だったようで何よりだ。



アルテミスは現在、弓の姿に戻り、俺が積んだハイルナメタルの山の上で静かにしている。


おそらく今、「神通力の質」とやらが、変化しているのだろう。


アルテミスの「ご褒美」がどんな内容か。

俄然、楽しみになってきたな。

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