第1章最終話 大団円
日が落ちかける頃。
俺たちは無事、メルケルスの街に帰還でき──アイリアさんの家の前までやってきていた。
「じゃあ、妹を呼んできますね!」
そう言って、アイリアさんは家の中へ駆け込んでいく。
しばらくして……アイリアさんは黒髪の少女を連れて、家から出てきた。
「お兄さん、ヘルクレスちょー……お初にお目にかかります」
少女は、ワクワクした様子で喋りだし……そして、アイリアさんに頭を下げさせられていた。
「そんな硬くならなくていいよ」
俺はそう言いつつ、ヘルクレスに少女の元へ向かうよう促した。
「わあっ、カッコいい!」
ヘルクレスが近づくと、少女は大はしゃぎしだした。
「……あ、従魔契約ね。りょーかい!」
ヘルクレスに促されたのか、少女は急に我に返り、従魔契約魔法を発動した。
すると、俺がコーカサスをテイムした時と同じく、従魔契約魔法は瞬時に成功となった。
ふと1つ、気がかりになったことができたので、俺はコーカサスに質問した。
『コーカサス、1つ聞きたいんだが……ヘルクレスを説得するときに、飯が美味いとか言ったか?』
この惑星の人間は、麒麟のことを知らない。
当然、旨味調味料やビーストゼリーについても同様だ。
もしコーカサスがその話をしていたとしたら、アイリアさんの妹に麒麟召喚魔法を教えなければならなくなるのだが……
『ああ、言ったな』
……言っちゃったんだね。
なら、仕方がない。
どうせ、いつかは世に広めるつもりだった魔法だしな。
ちょっと早めに、教え子第1号ができたと思うことにしよう。
そう決めると、俺は収納魔法からブルーフェニックスの死体を取り出した。
そして……
「如是切。如是断。本末究竟等」
前世にいた僧侶の一派、
「んだよ、今の魔法!」
俺の魔法を見て、メイシアさんが目を丸くした。
「僧侶の魔法です」
「ヴァリウス……お前テイマーなのか賢者なのか、はっきりしろよ……」
呆れるメイシアさんを横目に、俺は半分に分けたブルーフェニックスの死体の片方を収納魔法に収納しつつ、少女に近づいた。
「ヘルクレスを飼うにあたって、1つ君に覚えて欲しい魔法があるんだ」
「なーに?」
「ちょっと待ってね」
俺はそう言って収納魔法から紙と筆記具を取り出し、麒麟召喚の詠唱文句を書いた。
そして、その紙を少女に渡した。
「これ読んで」
「麒麟よ……我の前に姿を表し……互いに益となる……取引を為さん」
ちょっとおぼつかないながらも、少女は詠唱文句を詠みきった。
すると……いつも通り、麒麟が姿を表した。
「……わっ! なんか声が頭に響いたよ? どうすればいいの?」
「落ち着いて。頭の中で、『旨味調味料』と念じるんだ」
慌てる少女にそう伝えて、しばらくすると……空間に1箇所、歪みができた。
「よく出来たね。じゃあ次は、あれをあの歪みに投げ入れるんだ」
俺は地面に放置したブルーフェニックスの死体を指差し、そう指示した。
「分かった!」
少女は元気よく返事し、言われた通りに動いた。
すると……しばらくして、2本の瓶が出現した。
どうやら成功のようだな。
貢ぎ物の魔物の量が少ないので、瓶の中身は少量だが。
安心していると……ふと、麒麟と目が合った。
『なんじゃ、汝もいたのか』
『朱雀なら、まだ倒せてないぞ。ザクエルは消滅させたがな』
『そうか! 引き続き頼んだぞ』
麒麟はそう言い残し、姿を消した。
俺は、少女への説明を再開した。
「これは旨味調味料と言ってね、ヘルクレスの食事にこれを混ぜると、ヘルクレスがとっても美味しそうに食べてくれるんだよ」
「そーなんだ!」
「ああ。足りなくなったら、またさっきの魔法を使って、魔物を貢いで調味料を貰うんだ。そのための魔物は、ヘルクレスが一生懸命狩ってきてくれるはずだよ」
「はーい!」
こうして、無事麒麟召喚のレクチャーを終えることができた。
「……あれ? 今なんか、ものすごくナチュラルにブルーフェニックスが消費されたような……」
「……そういえば! 魔法に気を取られてアタシも気づかなかった……」
アイリアさんとメイシアさんがなんか言い始めたが……そろそろギルドに向かわないと、ギルドが閉じてしまう。
「とにかく行きますよ」
俺は話題を無理やり流した。
◇
「報酬はこちら、80000ゾルになります」
受付嬢にお金を渡され……無事、依頼達成報告が完了した。
やれやれ、これで一件落着だな。
そう思っていると……受付嬢が、こう付け加えた。
「他に何か、道中でついでに討伐した魔物とかあったりしませんか? そちらも合わせて、買い取り致しますよ」
……そうだ。
一件落着というには、まだ早かったんだったな。
本来今回の討伐で入るはずだった、ヘルクレスの素材分の代金。
その埋め合わせがまだだった。
とりあえず、アイリアさんに渡していたアレのことを思い出してもらおう。
「アイリアさん、行きがけに討伐したキリングジャブがありますよね? あれの換金もしてもらいましょう」
「……あ、そうですね!」
アイリアさんはそう返事すると、収納魔法からキリングジャブ2体分の死体を取り出した。
それを見て……俺はそこに便乗する形で、先ほど真っ二つにしたブルーフェニックスの死体の片側を収納魔法から取り出し、カウンターに追加した。
「あ、あとこれも」
自然な風を装い、俺は流れで買い取って貰おうと試みた。
だが……
「「「いやいやいや!」」」
受付嬢、アイリアさん、メイシアさんの3人に、同時につっこまれてしまった。
「ブルーフェニックスが道中に出てたまるかよ!」
「というかそれ、さっき真っ二つにしていた奴では?」
「そもそも、ブルーフェニックスは地上に生息する魔物じゃありません!」
3人は一丸となって、俺の腕にブルーフェニックスを戻そうとしてきた。
「確かに……道中で倒したってのは嘘です。ですが……本来なら、このパーティーにはヘルクレスの素材代も入るはずだったじゃないですか? だから、せめてその分の補填をと思ったんです……」
仕方なく、俺はそう正直に言った。
だが……
「いやだからって、ブルーフェニックスは受け取れねえよ! どう考えてもそれはもらい過ぎだって!」
「妹がヘルクレスを頂けた訳ですし……私としては、それで十分すぎるくらいです!」
2人は、断固としてブルーフェニックスは受け取らないといった様子だった。
「てかさ、何でよりにもよってブルーフェニックスなんだ? もうちょっとリーズナブルな魔物の候補はなかったのかよ」
メイシアさんは着眼点を変え、尚もツッコんできた。
そうは言ってもな……マジで無いんだよな。
他は全部、旨味調味料に変えちゃったし。
とはいえ、俺の勘違いで、低位の魔物が収納魔法に残ってる可能性は0ではないか。
一応、「収納検索」の魔法で中身を整理してみよう。
そう思い、俺は「収納検索」を発動した。
すると……
「ありました!」
なんと、「ブルーフェニックス以外の魔物の死体」の条件で検索すると、前世の収納の方に、1体だけ反応があったのだ。
みんなあんな反応だし、こっちにするか。
俺はその魔物を、収納魔法から取り出した。
……
……
……あれ?
これ、明らかにブルーフェニックスの下位互換ではないような……
というかこれ、今世の俺たちの実力では、まだ倒せない奴な気がする。
「すみません、他に持ってる魔物、アザトースしかありませんでした」
3人はズッコケた。
これにて一章完結です!
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