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第4話 餌食わせた方が早いっすよ〜

新しい身体に前世の記憶が戻ってから、約1週間が経った。

今日、俺は隣街で行われるテイマーの講習会に参加する予定だ。


なぜそういう話になったかと言うと、領主カルメル様が3日前ウチにお礼に来てくれた際、講習会の存在を教えてくれたからだ。


正直、俺には前世の記憶がある以上、その講習会で学べる物事はほぼないだろう。

それでも俺は今回、講習に参加しようと決めた。

異常としか言いようのない人々のテイマーの扱いの原因の、解明の糸口を掴めるかもしれないからだ。


ヒントがテイマーの教育現場に隠れているとの予測は、妥当と言えるだろう。


「じゃあ行ってくるね、母さん」


「気をつけてね」


俺は弁当を収納魔法にしまい、代わりに筋斗雲を出して飛び乗った。






「1……2……3………………14……15。今回は、15人が参加してくれるんだね。それじゃあみんな、行くよー!」


ここは、テイマー講習会の集合場所。

今回講師を務める中年の男が、小学校教諭みたいなテンションで声を張り上げていた。

受講者は俺含めだいたいが10歳前後なので、年齢層を考えてのことだろう。


彼は黒髪──つまり、テイマーだ。

他人の職業は、初対面でも髪色を見れば一発で分かる。

黒髪はテイマー、銀髪は聖騎士、ピンク色の髪は治癒師……といった具合に生まれつき決まっているからだ。


まあ染髪魔法もあるので一概には言えないが、戦闘や教育に従事する者は立場を分かりやすくするため染めないのが一般的だったしな。

ここでは、テイマーと断定していいだろう。


今回、集合場所だったのは森の手前。

これから森に入り、魔物を見つけて実践形式で学んでいくんだそうだ。


午前中は講師によるお手本を見るとのことなので、お手並み拝見と行くとしよう。




森を歩き始めて10分くらい経つと、俺たち一行の目の前に1匹の魔物が姿を表した。

ホーンラビットだ。


「せんせー、まさかこんなのテイムしないよねー?」

「もっと強そうなのテイムして見せてよー」


ホーンラビットを見て、俺以外の受講者たちは好き勝手なことを言い出した。


……いやまあ確かにホーンラビットは、覚醒進化をさせても覚醒前のリッチと同程度の戦闘力にしかならないので、テイムする意味はあんま無いけども。

あくまで「先生による実演」に過ぎないんだから、それくらい良くないか?


そんなことを考えている間に、講師は一撃でホーンラビットを瞬殺した。

……まあ子どもたちのモチベーションも大事だし、これはこれでいいか。


「じゃあ、ここでしばらく待ちましょうねー!」


そう言って、講師はホーンラビットの肉片をそこら中に放り投げ始めた。


餌で別の魔物をおびき寄せる作戦か。

ビーストチップスを砕いて撒いた方が効果的な気もするが……まあ予算削減とか、大人の事情があるんだろうな。


そうして、待つこと約30分。


また、別の魔物が姿を表した。

ドンキーエイプという、猿型の魔物だ。


「じゃあこれから私がこのドンキーエイプをテイムしますので、よく見ておいてくださいねー!」


そう言って、講師の男は剣を抜いた。


……うん? 剣なんて何に使うんだ?


不思議に思っていると……どういうわけか、男は剣でドンキーエイプを攻撃しだしたのだ。


本当に何をやっているんだこいつは?

2体目の魔物を撒き餌にするってわけでもなさそうだし……何より、さっきこの男、「自分がドンキーエイプをテイムする」って宣言したよな。


あと俺は、講師の攻撃にも違和感を持った。

剣筋を見る限り、この男は4~5回の攻撃でドンキーエイプを殺せるくらいの実力はある。

にもかかわらず、講師とドンキーエイプの戦いは、一向に終わる気配を見せないのだ。


……この戦いのどこに、苦戦する要素があるんだ?


そう思っていると……ドンキーエイプの動きがある程度鈍くなってきたところで、男は1つの魔法を発動した。


従魔契約の魔法だ。


ドンキーエイプはそれを受けるが──数秒ののち、ドンキーエイプはその魔法をはねのけた。


まあ、そうなるわな。

自分を攻撃してきた男に、魔物が懐くはずもない。


講師は再び、剣でドンキーエイプを攻撃し始めた。

それに加え、攻撃魔法も何発か発動する。


そして、ドンキーエイプがいよいよ満身創痍になってきた頃。

ダメ押しのつもりなのか、講師はまた従魔契約魔法を行使した。


そして今度は魔法は成功し、ドンキーエイプは講師の従魔となった。


「……いかがでしたか? これが魔物をテイムするやり方です。コツは、『常に魔物相手に若干有利に立ち回り、格の違いを分からせること』。相手が屈した頃合いを見て、契約魔法を放つのですよ」


「「「「「はーい!」」」」」


講師の説明に、受講者たちはなんの疑いもなく返事をした。




……これは想定の数十倍酷かったな。

何というか……これではテイムというより、ただの魔物虐待でしかない。


そもそも今講師が見せた魔物を屈服させるようなやり方では、本質的に魔物が懐いてはいないため、覚醒進化がほとんど成功しないのだ。


覚醒進化の条件には、従魔との絆も要因だからな。


ここで「こんなやり方は間違ってる!」と言ってやりたいところだが……まあ8歳児の意見なんて、ちょっと感受性豊かめな人の理想論に過ぎないと一蹴されてしまうだろう。


どうせ、午後からは受講者が実践形式で魔物をテイムする時間なのだ。

俺は、俺のやり方……魔物の好物、ビーストチップスを使ったやり方で魔物をテイムしてやる。


説得は、そこで結果を出してからにするとしようか。

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