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第39話 ヘルクレスの処遇

「……どういうことですか?」


俺はメイシアさんに聞き返した。


俺は、ヘルクレスには情状酌量の余地があるという話をしていたはずなのだが……なぜそこから、俺がヘルクレスをテイムするという結論が出てくるのだろうか。


そう不思議に思っていると、メイシアさんが説明を始めた。


「ヴァリウス、討伐依頼には、実は2種類あるって知ってるか?」


「……2種類、ですか?」


「そうだ。討伐依頼には、魔物の素材を目的とした狩猟依頼と、魔物による脅威の排除を目的とした駆除依頼があるのさ。……ちょっと、依頼書を見せてくれねーか?」


メイシアさんにそう言われ、俺は収納魔法からヘルクレス討伐の依頼書を取り出した。


それを見て、メイシアさんは依頼文の1箇所を指差した。


「ほら。『ヘルクレスマナカブトの脅威を排除すること』ってあるだろ? この言い回しが、これが駆除依頼だってことを指しているのさ」


それを聞いて……俺は、メイシアさんの言わんとすることを理解した。


「要は……俺がヘルクレスをテイムしたら、その瞬間からヘルクレスは依頼主にとっての脅威ではなくなる。だから、依頼達成とみなされるってことですね?」


「そうさ」


メイシアさんはそう言って、親指を立てた。



……なるほどな。

つまり、ヘルクレスを殺さなければならないかもという懸念は、完全に杞憂だったってことか。


ヘルクレスを換金して得られるはずだった分の報酬は、「ついでにブルーフェニックスを狩りました」とか言って補填すれば、彼女たちも納得するだろう。


ヘルクレスには同情しかけていたところだったし、実にありがたい話ではある。


だが……1つだけ問題が残るな。


「甲虫系魔物が二匹、は正直いらないんだよな……」


そう。

コーカサスとヘルクレスを両方従魔にするのは、テイマーとしては結構ナンセンスなのだ。


覚醒進化素材は、集めるのは簡単ではない。

だからテイマーは、可能な限り従魔を厳選しなければならない。


そして従魔の組み合わせというものは、多彩な系統のを集めるのがセオリーだ。


甲虫系を二匹……それも、既に持っている方の下位互換をテイムするというのは、はっきり言って無駄でしかない。


そう考え、俺はメイシアさんにこう聞いてみた。


「俺としては、これ以上甲虫系魔物を従魔にするのは避けたいところなのですが……例えば、知り合いのテイマーに頼んで、ヘルクレスをその人に従魔にしたりしても、依頼達成にはなるんですかね?」


すると……メイシアさんは、若干苦い顔をした。


「まあ、それでも達成にはなるけどさ……そうなったら多分、そのテイマーも報酬の一部を欲しいって言い出すんじゃねーかな」


……なるほど、ブルーフェニックスは2匹出すか。


そう思いかけたが……その提案をする前に、アイリアさんが口を開いた。


「あの……。私の妹、テイマーなんですが……よかったら、妹に引き取らせましょうか?」


言ってから、「差し出がましいかもしれませんが……」と俯くアイリアさん。


だがその言葉に、メイシアさんはパッと表情を明るくした。


「そうだ、そー言えばそうじゃねえか! アイリアさんの妹のもんになるなら

アタシも賛成していいぜ!」


メイシアさんは、乗り気のようだった。


「じゃあ、それで!」


ありがたいと思いつつ、俺もそう返事をした。


「で、でもヘルクレスですよ? 私が言い出しっぺですが……本当に頂いてしまってよろしいのでしょうか?」


アイリアさんは、不安そうにそう確認してきた。


「むしろ、貰わないと言われた方が困ります。……あ、もちろん、妹さんがいらないとおっしゃったら考え直しますが……」


「妹なら、確実に喜ぶと思います」


こうして、パーティメンバー間でのヘルクレスの処遇についての意見は、一致することとなった。


あとは、本人の意向だな。


『ヘルクレス、大事な話がある』


俺はヘルクレスに念話で語りかけた。


すると……驚くべきことに、ヘルクレスは全てを理解したかのように、こう返してきた。


『本来であれば殺されるところを、その娘の妹の従魔になれば免れられるという話だろう?』


『……どうして、そこまで?』


『コーカサスの奴が、会話での人語を理解できるようになっていてな。我に中継してくれたのだ』


……まじかよ。


「コーカサス、それ本当か?」


俺は念話ではなく口頭で、そう聞いてみた。


『本当だぞ』


へえ、いつの間に。

しかしそれなら、すぐに本題に入れるな。


『で、ヘルクレスとしては、この提案をどう思っている?』


従魔になるか、死か。

普通であれば、前者を選ぶだろうが……ヘルクレスは、ザクエルの酷い支配から逃れたばかりだ。

また誰かの支配下に置かれるくらいなら死を選ぶ、とか言い出してもおかしくはない。


ヘルクレスが前者を選ぶことを期待しつつ、俺は質問した。


『我は受け入れるぞ。コーカサスが言うには、我の元支配者が最低だっただけらしいからな。現にコーカサスは、お主の元での生活に満足しているらしいしな、我もそこに賭けてみようと思っている』


ヘルクレスからは、前向きな返事を貰えた。


コーカサス、よっぽどうまいこと説得してくれてたんだろうな。

ありがたい話だ。


そう思いつつ……俺はアイリアさんにこう伝えた。


「ヘルクレスの同意も取れました。ヘルクレスは、アイリアさんの妹の従魔になる。この方針で決定ということにしましょう」


こうして俺たちは、メルケルスの街に帰還することとなった。

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