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第29話 新たな友情の前触れ

「代金はいらない。良いものを見せてもらったからな、その剣はタダでくれてやる」


試し斬りの部屋を出て、再びお会計のカウンターに戻ってくるまでの間に落ち着きを取り戻した鍛治師はそう言った。


「そういう訳にはいきませんよ。こんなに良い剣を作って下さったのですから、お金はちゃんと支払います」


俺は収納魔法から150000ゾルを取り出した。


「いやいや。これはね、君を疑ってしまったことのお詫びでもあるんだ。あれは、剣を正しく使ってくれる客に取っていい態度ではなかった。だから、代金を受け取る訳にはいかんのだよ」


鍛治師は、尚も金銭の受け取りを拒んだ。


……いつのまにか俺の二人称が「貴様」から「君」に変わってる辺り、この鍛治師、本気で金を受け取らないつもりなんだろうな。

だが……それだとそれで、なんか借りを作るようでこちらの後味が悪い。


そう思い、俺はこう提案してみた。


「今回は、代金を支払わせてください。ただ……今後もしこの剣が壊れた時は、またルナメタル製の剣を作ってください。別の鍛治師に頼みに行って、また門前払いにされかけるのは勘弁ですから。それさえ約束していただければ、僕はそれで構いません」


そう返すと……「そういう事なら」と、鍛治師はようやく代金を受け取ってくれた。


「まいどあり!」


鍛治師の威勢のいいお見送りを聞きつつ……俺は鍛冶屋を出て、筋斗雲上で待機していたコーカサスたちと合流した。


「さてと……んじゃあ、アルテミスの元へ行くか」


俺は方角を確認し、筋斗雲で出発した。







それから丸2日。


俺たちは、とある湖の近くまでやってきた。


今回来たのは、以前凍らせた湖とは別の湖だ。

この湖は、月から帰ってくる際に地上を見下ろしていたところ、たまたま発見できたものだ。


この湖に来た目的は、前回と同じく氷結魔法で如意棒の土台にするためなのだが……近くの湖ではなく、わざわざ丸2日もかかるところまで遠出したのには理由がある。


それは、この湖が真っ赤な色をしていたからという理由だ。


転生前に俺がいた惑星には、強アルカリ性で生物が全く存在しない湖があったのだが……その湖も、真っ赤なことで有名だった。

もしかしたら、この湖もその類かもしれない。


強アルカリ性の湖は元から生命活動に適していないので、そこには一切生物が存在しないと考えていい。

つまり、もし俺の予測が当たっていたら……湖に棲む生物のことは一切考慮せず、いきなり氷結させて大丈夫ということになるのだ。


現在の俺の神通力では、湖全体に生命力強化をかけるには少々力不足だからな。

アルテミスが一緒にいない今、生物に迷惑をかけない土台の選定は重要事項だったのだ。


俺は筋斗雲を湖面スレスレまで移動させ、毒物検知魔法を発動した。


「高濃度の炭酸イオンを検知、か。間違いないな」


予想が外れていなかったことを確認した俺は、念のため探知魔法も使って生物の不在を確認し、それから如意棒を湖に突き刺した。


『コーカサス、氷結魔法を頼んだ』


俺がそう指示を出すと、コーカサスの魔法で湖は一瞬にして氷塊と化した。


……また、往復一週間以上の旅が始まるな。







数日後。


『アルテミス、そろそろお迎えを頼む』


如意棒の先端がある程度月に接近したところで、俺はそう頼んだ。


『分かった』


アルテミスの返事の直後、俺たちは光に包まれ……そして、無事に月に到着した。


『久しぶりだな、ヴァリウス。……と言いつつも、まさかこんなすぐに会うことになるとは思ってもみなかったんだが』


『同感だ。あ……これが、約束の品だ』


挨拶を交わした後、俺は収納魔法からハイルナメタルを全て取り出した。

ちなみにルナゴーレムの死体からハイルナメタルを分別する作業は、湖までの移動時間で済ませてある。


『おお、これがハイルナメタルか……』


アルテミスがハイルナメタルに近づくと、ハイルナメタルは不思議な光り方をした。

アルテミスは、「ハイルナメタルが近くにあると神通力の質が変わる」などと言っていたし……おそらく今、それが起こっているんだろうな。


『どうだ? 神通力の質とやらは変わりそうか?』


俺はそう聞いてみた。


『まあ、少しは、な。この量だと、決定的に質が変わるには足りないが……』


『そうか』


思ったより、効果は微々たるもののようだった。

まあ、初めから何往復もしてハイルナメタルを運び込む前提だったしな。

そんなもんなんだろう。


そんなことを考えていると……アルテミスが、質問をしてきた。


『ヴァリウス、よかったら、どうやってハイルナメタルを作ったのか詳しく教えてくれないか? 私も昔、ハイルナメタル精製のためにいろんな実験をしてみたんだが……どれもうまくいかなくてな』


『そうなのか。作り方は、至って簡単だったぞ? ルナメタル鉱石をベースゴーレムという魔物に食わせて、その魔物が変異した段階で討伐した。それだけだ』


『そんなことだったとは……。しかし不思議なもんだな。ルナメタルを、食料にする魔物なんて存在するのか』


『まあな。ゴーレムってのは、そういう生き物だ。もっとも、なんか食いつきが悪かったので、旨味調味料で味付けしてやったがな』


俺はビーストイノシン酸が入った瓶を収納魔法から取り出し、振って見せた。





……すると。

アルテミスは、思いもよらぬところに着目した。


『その瓶は……おいヴァリウス、もしかして、麒麟と面識があるのか?』


『……? まあ、面識ならあるが……それがどうした?』


『その話……もっと詳しく聞かせてはもらえないか?』


なぜか、アルテミスが麒麟について知りたいという話の方向になってしまったのだ。


そうだな……。

百聞は一見に如かずって言うしな。

どうせなら、ここで麒麟を召喚してみてやるか。


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