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第27話 帰還

ベルゼブブが状態異常にしたところをコーカサスが角で挟み込み、そのまま回転しながら突進していって壁にねじ込む。


そんな攻撃を受け、行動不能となったところにとどめの魔法が放たれ……81層の魔物である、ブルーフェニックスは絶命した。


……もう何度この光景を見たことだろうか。

そう思いつつ、ブルーフェニックスの遺体を収納魔法にしまいながら、俺は2匹に念話でこう伝えた。


『そろそろ地上に戻るぞ』


『そうか……仕方ないな』


『なんか闘い足りねー』


コーカサスもベルゼブブも、名残惜しそうな様子だが……もうそろそろ、81層に至ってから丸1日が経つ。

そろそろ地上に戻らなければ、剣を受け取りに行くのが間に合わなくなるだろう。


筋斗雲を収納魔法から取り出し、2匹に乗ってもらう。

俺もそこに乗ると、元来た道を戻るように移動し始めた。


『しかしお前ら……そんなに戦ってて、よく飽きないよな』


『戦いに飽きるなどという概念、あるわけなかろう』


『それな。生きがいに飽きるもヘチマもねーぜ』


……そんな会話を経つつ、俺たちは57層まで戻ってきた。


流石に、まだ空間転移のみで地上に戻れるほどの力は無いので、ここまでは筋斗雲で移動してきたが……ここからは、空間転移に頼らざるを得ない。

俺は57層から44層の間、そして42層から28層の間の順路は把握してないからな。


というわけで、千里眼で転移先の様子を確認し、そこにコーカサス、ベルゼブブと一緒に転移する。


すると……コーカサスが、こう言ってきた。


『ん? この様子は……ヴァリウス、1層飛ばしで転移できるようになったのか?』


どうやらコーカサスは、56層ではなく55層に転移したことに気づいたようだった。


『ああ。神通力の瞬間出力も、それなりに上がってきたからな。今なら、2層ごとに転移できる』


『なるほど』


同じ距離を移動するのであれば、1回ごとの転移距離を多くし、転移回数を減らした方が神通力の節約になる。

今の俺では、一回ごとの転移は2階層分が限界だが……それでも、神通力は結構節約できるのだ。


『このまま、この方法で28層まで戻るぞ。そこから先は、また筋斗雲で移動する』


『ああ。任せた』


そうして、俺たちは28層まで転移し……さらに26層まで筋斗雲で戻ったところで、俺は一旦移動を中断することにした。


俺は筋斗雲から降り、収納魔法からルナメタル鉱石を取り出す。

これはこのために残しておいた、最後の1つのルナメタル鉱石だ。


そして、そのルナメタル鉱石に神通力を流し……ちょうど曲がり角を曲がってきたレッサーエキドナに、魔法による身体強化無しでルナメタル鉱石を投擲した。


すると……レッサーエキドナは、跡形もなく木っ端微塵になった。


『ヴァリウス、何をやってるんだ?』


『いや、ちょっとした実験をね。思った通り、実験は失敗したよ……いい意味でね』


コーカサスの質問に、俺はそう答えた。


そう

魔法での身体強化必要量を計測しての、成長の数値化に失敗したってことだ。


身体強化が不要だった以上、数値化なんてできないからな。

無論、こういう意味でなら、測定できるより測定できない方がいい。


晴れやかな気持ちを胸に……俺は筋斗雲を操縦し、可能な限りの速さで地上までたどり着いた。






地上に着くと、まずは成長記録装置の返却に向かった。


「帰還報告に来ました」


「あれ、あんたは……確か、ダンジョンに入ったのが1週間くらい前じゃなかったかい? 無事だったんだね!」


「まあ、はい」


……安否の心配をされてたのか。

大げさだなと思いつつ、俺は腕に装着していた装置を返却した。


「あいよ。誰の成績なのか記録するから、生徒手帳を出しな」


そう言われたので、俺は収納魔法から生徒手帳を取り出した。


すると、カウンターの女性は記録をつけつつ、成長記録装置を魔道具の上に置いたのだが……そこで女性は、その魔道具が示す数値を、食い入るように見つめ始めた。


「何だい、これは……」


「どうかしましたか?」


「この記録……あんたが行ったの、25層どころじゃないだろう?」


「ええ、まあ」


そう返すと……女性はふうとため息をつき、こう言った。


「あんたねえ……はっきり言って、この記録は異常だよ。私はこの学院で、十何年もこの仕事をしてきたけど……どの年の首席も、この半分の記録も出せていないんだよ?」


……ああ、そんなことか。

まあテイマーなので、それくらいはやれて当然なわけだが。


というか……


「1週間潜ってたからじゃないですか?」


むしろ、こっちの方が要因の気がする。

授業中もダンジョンに潜り続ける人など、俺くらいだろうしな。

そう思い、俺はそう聞いてみた。


だが。


「いや。あんたの記録はねえ……今までの首席の、1学期間の成績の合計の倍以上を記録してるんだよ!」


女性は、そう力説してきた。


……そうなのか。

こんなもんで、1学期間の成績を稼げてしまうもんなのか。


じゃあ、とりあえず「これ以上は成績のために潜る必要は無い」ということは確定したな。


唯一懸念点があるとすれば、不正を疑われるくらいか。

そう思い、俺は収納魔法からブルーフェニックスの羽を1枚取り出し、カウンターの上に置いた。


「これはブルーフェニックスの羽です。討伐の証明になるので、必要があれば、真っ当な記録であることの証拠として使ってください」


俺はそう言い残し、ここを後にすることにした。


「……へ? ブルーフェニックス? 今なんか伝説の生き物の名が聞こえたような……」


……何かブツブツと言ってるのが聞こえるが、放っておこう。

用事は終わったし、鍛冶屋に直行しないといけないのでな。


建物の外に出る。

すると……後ろから、聞いたことのある声がした。


「アンタは……試験の時、このアタシをコケにした……!」


振り返ると……武術試験の時の対戦者だった人が、そこに立っていた。

名前、何だったっけな。確か、前世の通信魔道具会社に似てた気が……


「もう一度勝負よ! 受けて立ちなさい!」


こちらは一生懸命名前を思い出そうとしてるのに、相手はそうまくし立ててくる。


「建物内を経由して、曲がり角。届くな」


俺はそう呟いて、二度空間転移をした。

なんかめんどくさそうだったからな。


めんどくさいやつの視界を外れたところで、俺は筋斗雲を取り出して精鋭学院の敷地を出た。


そして……数時間が経ち、鍛冶屋の建物が見えるところまで来た。

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