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第26話 やっぱ深層攻略するわ

『ハイルナメタル……? 何だそれは?』


『ハイルナメタルはだな……まあ分かりやすく言えば、ルナメタルの上位互換みたいなものだ。特に私にとってはな』


聞き慣れない単語が飛び出してきたので質問すると、アルテミスはそう答えてくれた。


『それは……純度の高いルナメタルとは、また別物なのか?』


『違うな。例えば、純度の高いルナメタルだと、単に私の力が増すだけだが……ハイルナメタルが近くにあったりすると、私の神通力の質が変化したりするんだ』


はて……そんなことになるものなのか。


俺は、変な話だなと思った。

というのも……ベースゴーレムの変異種から取れる金属が、元々鉱石に含まれていたものとは全くの別物になることなど、かつて聞いたことがないからだ。


だがまあ……その疑問は、おそらくここで考えて解決するものではないだろう。

そう思い、俺はより実際的なことを思い巡らすことにした。


大切なのは、それで何ができるかだからな。


『アルテミス、2つ質問がある。まず1つ目だが……このハイルナメタルとかいうやつ、月に持って行った方がいいのか? 作り方は単純だし……ルナメタル鉱石を持って帰って、ここで加工して、またそれを月に運ぶ、くらいのことならできなくもないが』


『……そうしてくれるのか? それは結構ありがたい。是非、頼みたいところだ』


『分かった。じゃあ2つ目だが……ハイルナメタルで作った剣と、ただのルナメタルで作った剣だと、切れ味に違いが出たりはするのか?』


『……残念ながら、そういう違いは特に無いな。上位互換とは言ったが、あらゆるスペックが上昇するというわけではないしな……』


……なるほどな。


じゃあ、これからやる事は決まりだ。


アルテミスがハイルナメタルを欲するというなら、やはりここでルナゴーレムの討伐を続けるのが正解ということになる。


ただ、もしハイルナメタル製の剣が、ルナメタル製の剣より切れ味が上がるとしたら、それより先に鍛冶屋に相談しに行くところだったが……その必要も無いと、2つ目の質問で分かったしな。


『俺はこれから、ハイルナメタルを量産してくとするよ。そして、それが終わったら……ちょっといくつか用事があってな。月に行くのはその後になるんだが……それでいいか?』


『ああ。1か月か2か月くらいなら、わたしには誤差みたいなもんだからな』


アルテミスの返事を聞き、俺は通信を切った。


流石に1か月もかかりはしないがな。

まあ人生何があるか分からないから、自分から期日を早めることもないだろう。


結果的に、先方が思うより早く着けばそれでいいのだ。


などと考えつつ、ルナメタルの山を設置してはそこに旨味調味料を振りかけていると……ついに、使い切ってしまった。


ルナメタルを、ではない。

旨味調味料の方が、先になくなったのだ。


『コーカサス、ベルゼブブ、一旦集合だ』


俺は、一旦43層に降りることに決めた。

43層の敵は、ルナゴーレムの足元にも及ばない程度の強さだが……麒麟とのトレード材料が必要だからな。







43層の魔物を倒し、旨味調味料を手に入れ、ベースゴーレムの餌を用意し、ルナゴーレムをコーカサスに倒してもらう。


このルーティーンを、約5日繰り返したところで……俺は、ようやく収納魔法の全ルナメタル鉱石を、ハイルナメタルに加工することができた。


この5日間で42、43層の構造は知り尽くしたので、筋斗雲で44層まで一気に移動する。


「今の俺なら……13回は、連続で転移できるな」


そして、ここ5日で成長した神通力の流れを感じつつ、俺はそう呟いた。


『コーカサス、ベルゼブブ。一気に下層まで降りるぞ』


『やっと降りるのか! ルナゴーレムとやらは、そこそこ骨が無くもなかったが……耐久力が高いだけで、戦っててあまり面白い相手ではなかったからな。楽しみだ』


『腕がナリナリのナリーヤだぜ!』


2匹が期待を膨らませる中、千里眼で様子をチェックし、転移用の神通力操作をする。


その作業を13回繰り返し、俺たちは57層まで降りてきた。


だが……ルナゴーレムの強さが70層相当だったことを考えると、これでもまだ物足りない。


そこで俺は、次点で最高効率の迷宮攻略法に移ることにした。


それは、探知魔法と千里眼を併用した、最短経路予測探索法だ。


探知魔法で魔物の位置を把握し、そこに至る道筋の予測を立てた上で千里眼で道の確認をし、最短経路を効率的に探していくのだ。


それが見つかると、その道を筋斗雲で突っ切る。


千里眼だけなら、神通力の自然回復量で使い続けられるしな。


空間転移に比べれば格段に速度は劣るものの……普通に攻略していくよりは、時短になるだろう。


『あ、ヴァリウス、今敵がいたのにスルー……』


『コーカサス、もう少し辛抱してくれ。この階層の敵じゃ、どうせルナゴーレムより弱いし……手っ取り早く下に行った方が、楽しめる戦闘が待ってるぞ』


『……なら仕方ないな』


時々、コーカサスやベルゼブブとの会話も交えつつ……一心不乱に、下の階層を目指す。


そうして、半日ほどが過ぎ……俺たちは、81層まで到達した。


『じゃあ、この辺で……好きに動き回っていいぞ』


『よし、やるぞ!』


『俺の真価を見せてやるぜ!』


やる気満々の2匹を見て、俺は微笑ましく思った。


帰還のことも考えると……ここに滞在できるのは、あと1日ってとこか。

その間、コーカサスたちには存分に楽しんでもらうとしよう。

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