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第24話 空間転移は丁寧さが求められるが、超便利

『コーカサス、今何階層にいる?』


『28層だ』


転移可能距離は申し分無いと分かったところで、俺は通信対象を一旦コーカサスに切り替え、進捗を聞いた。


……28層ってことは、ここから2層先か。

筋斗雲で降りてもいいような階層数ではあるが……そうだな。せっかくだから、空間転移を2回使って合流するとしよう。


コーカサスたちとの集団転移に挑戦する前に、まずは自分一人での転移をきっちり成功させておきたいところだしな。


そう思いつつ……空間転移のやり方を教えて貰うため、俺は通信対象を再びアルテミスに切り替えた。


『アルテミス、空間転移のやり方を教えてくれないか?』


『ヴァリウス……あんなことを聞いてくるからまさかとは思ったが、もう時空干渉系の技に挑戦する気なのか?』


アルテミスにはしかし、そう聞き返されてしまった。


『ああ。……何か、問題があるのか?』


『いや、問題というほどではないのだが……時空干渉系の技は、きちんとセオリー通りにやらないと、危険が伴うぞ。本当にやる気なら、一言たりとも私の説明を聞きもらさないでくれよ』


アルテミスの通信のトーンは、いつになく真剣な雰囲気だった。


『分かった。覚悟はできた』


俺がそう返すと、アルテミスの説明が始まった。


『空間転移は、時空干渉系の技の中では下の中程度の難易度だが……それでも、手順は2つある。まず1つ目は、千里眼で転移したい先の様子を確認することだ。まずそれを実践して欲しいんだが……千里眼は、もうやった事あるか?』


『いや。そのやり方から教えてくれ』


『千里眼はな、自分が見たい場所の距離と方位を思い浮かべつつ、目に神通力を集めたらできるぞ。実際にやってみてくれ』


アルテミスは、俺にそう促した。


そうだな、俺は下の階層に行きたいから……とりあえず、鉛直下向きに3.5m移ると考えてみるか。

そう考えながら、神通力を目に集める、と。


『……ありがとう、ちゃんと見えたよ』


『良かった。ちゃんと千里眼が発動してれば、あたかも自分がその場にいるかのように、全身が見えてるはずだが……それも、ちゃんとできてるか?』


アルテミスにそう言われたので、確認してみると……確かに、自分の体が1階層下にあるかのように見えていた。


『ああ、それもちゃんとできてる』


『なら……その状態で、自分の体の一部が埋まってたりしないか、くまなくチェックしてくれ』


今度も、言われた通りしっかり確認する。


すると……左手が、ダンジョンの壁に埋まってるように見えてることが分かった。


『左手が……手首の先からが、埋まってるな』


『そうか。じゃあ、千里眼の距離と方位を微調整して、左手が埋まって見えることのないようにしてくれ』


俺は千里眼の視点を、右に20cmほど動かしてみた。

すると……左手含め、全身どこも埋まって見えることはなくなった。


『よし、今度こそ大丈夫だ』


『そうか。そしたら、もう空間転移は8割完成しているようなもんだぞ。あとは体内の神通力を操作して、転移を実行するだけだからな。その操作方法を言葉で説明するのは難しいが……月から帰る時の、あの感覚覚えてるか? あの感じを思い出すように、やってくれれば大丈夫だ』


……おい、最後なんか雑じゃないか?

一瞬、そう思ったが……ここまで丁寧に説明してくれたアルテミスが、最後はそれでいいと言うのだ。


月から如意棒の先端に戻る時の感覚は、結構覚えてるしな。

とにかくやってみよう。


そう思い、俺は神通力を操作した。

すると……月から帰る時と同じような光に包まれ、そしてその数秒後、俺は千里眼でみた光景を肉眼で見れるようになっていた。


……空間転移、無事成功だな。


『アルテミス! できたぞ!』


『そうか、一発でできたか! おめでとう!』


俺の成功報告を聞いたアルテミスの通信トーンは、それまでとは打って変わって明るくなっていた。

そしてアルテミスは、こう付け加えた。


『いいか、これだけは心得ておいてくれ。空間転移の事故──例えば、転移後に身体の一部がめり込んでいたりとか──は、だいたい千里眼をおざなりにしたせいで起こるものだ。逆に転移の神通力操作そのものは、ミスっても何も起こらないだけだがな。まあ、要は……千里眼だけは、何があっても怠らないでくれ』


『分かった。千里眼は丁寧に、だね。忘れないよ、ありがとう』


俺はそう返事して、アルテミスとの通信を終了した。


そして、手順を遵守しながら俺はもう一度空間転移を成功させ、28層にたどり着いた。


『うおおい、ヴァリウス、今どっから出てきた?』


『空間転移を使ったんだよ』


俺が転移した先はコーカサスのすぐそばだったのだが……コーカサスが驚いて仰け反る一方、千里眼でちゃんと状況を把握していた俺は冷静だった。








28層でコーカサスたちと合流した俺は、すぐに全員での空間転移のコツも掴めた。


俺たちは魔物の討伐をしつつ、神通力量が回復し次第転移を繰り返し……正味半日くらいで、42層までやってきた。


42層に転移すると、早速1体の魔物が姿を表した。

それを、コーカサスは魔法で仕留めようとしたが……俺は、それを手で制した。


『コーカサス、あれは倒さなくていい』


『なぜだ?』


『あの魔物、ベースゴーレムって言うんだが……あれにはちょっと、使い道があるんだ』


不思議そうに聞き返してきたコーカサスに、俺はそう答えた。




実は、ベースゴーレムには「鉱物を食べ、それが一定量に達すると変異種になる」という性質がある。


例えば、鉄鉱石を一定量食べたベースゴーレムはアイアンゴーレムに、ミスリル鉱石を一定量食べたベースゴーレムはミスリルゴーレムに……という風に変異するのだ。


そうしてできた変異種は通常のベースゴーレムより強いが、もちろん討伐するメリットもある。

ベースゴーレムの変異種を討伐すると、通常より大きい成長値と精錬された金属が手に入るのだ。


前世でも、よくその方法で純度の高いミスリルを作ったりしていたものだ。


となると、だ。

同じことを、余りに余ったルナメタルで試してみないわけにはいかないだろう。


ルナメタル変異種のベースゴーレムは、一体どれほど強くなるのか。

そして、副産物の高純度ルナメタルはどんな感じになるのか。


どちらも、相当気になる事項だ。

早速ベースゴーレムにルナメタルを食わせて、その変異を見守るとしよう。

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