<< 前へ次へ >>  更新
21/118

第21話 禁断の仮説

次の日の朝。


朝食として収納魔法の食事1食分を食べつつ筋斗雲を操縦し、俺は冒険者ギルドへ向かった。


いつも通りコーカサスとベルゼブブには上空に待機しておいてもらい、ギルド建物に入る。


依頼掲示板から適当なCランク用討伐依頼を手に取ると、俺は『受注/達成報告・素材買取』のカウンターに並んだ。


今日やるのは、もちろん「急速に神通力を鍛える方法の仮説」の検証なのだが……その際、何体かの魔物を討伐することになる。

であれば、依頼として魔物を討伐し、少しでもランクアップの足しにした方がいいだろう。


そう考え、まずはギルドに寄ったのだ。



朝方は受注報告が大半を占めるため、スムーズに列が動く。

程なくして、俺の番が来た。


「この依頼を受けたいんですが」


「はい、レッサーオルトロスの討伐依頼ですね。この依頼は確かにCランク相当なのですが……レッサーオルトロスの生息域には、ごく稀にBランク相当のオルトロスが出現することがあります。十分気をつけて、無理はなさらないでください」


受付嬢は、レッサーオルトロスの生息域の地図を俺に見せつつそう言った。


オルトロスか、それは楽しみだな。


今回の仮説検証、実を言えば敵が強いほど都合がいいのだ。

オルトロスなら、そこそこ強い上に覚醒コーカサスが苦戦するほどの相手ではない。

ちょうどいい相手なので遭遇したいところだが……まあ「ごく稀」だって言うし、期待はしないでおくか。


依頼の紙に受付嬢からのサインをもらうと、俺はギルドを出た。


そして筋斗雲を呼び寄せ、目的地に出発した。







十数分して、俺たちは目的地の山の中腹までやってきた。


早速、探知魔法を使ってレッサーオルトロスの居場所を探る。


「……いるな」


探知魔法を使うと……なんと運がいいことに、数体のレッサーオルトロスのみならず、1体のオルトロスも引っかかった。


どうやら、俺の仮説検証には天も味方してるみたいだな。

いやまあ、アルテミス((ガチなやつ))はいつだって味方だろうけど、そういうことではなく。


そんな冗談を頭の中で巡らせつつ、俺は再び筋斗雲の高度を上げた。


別に、正面きって戦う必要性はどこにもないからな。

上空からコーカサスに攻撃させて、その瞬間を見届けさえすればいいのだ。


そう思い、オルトロスの居場所の方に筋斗雲を向かわせると……すぐに、オルトロスが見えるところまでやってこれた。


『コーカサス、アレ倒してくれるか?』


俺はオルトロスを指差した。


『ああ』


コーカサスはそう軽く返事をして……その角から強力なプラズマ弾を放ち、オルトロスを攻撃した。


圧倒的な威力の攻撃を受けたオルトロスは、悲鳴を上げる間もなく絶命した。


……その瞬間。

俺は、アルテミスに作ってもらった体内の神通力回路に、全神経を集中させた。


すると……俺は、体内を巡る神通力の量が増え、神通力の流れの速度も速くなったのを知覚できた。


「やった!」


俺はガッツポーズをした。

仮説で考えた通り、コーカサスの戦闘経験を利用して、神通力を鍛えるのに成功したのだ。


コーカサスが魔物を倒すと、俺にはコーカサスの成長値の分け前が流れ込むのだが……具体的に「何が成長するか」は、コーカサスが魔物を倒した方法とは無関係だ。


現に、今までも「分け前で体力を鍛えよう」と思えば筋力や肺活量が増加し、「分け前で魔力を鍛えよう」と思えば魔力量が増える、といったように振り分けられていた。


ならば、「分け前で神通力を鍛えよう」と意識すれば、成長を神通力に割り振れるのではないか。

そう仮説を立て、検証してみたのだが……どうやら、正解だったみたいだな。


これなら、コーカサスに強力な魔物をたくさん討伐してもらえば、俺は一気に神通力を鍛えることができる。


そのことにワクワクしつつ……俺は依頼を達成するため、レッサーオルトロスを討伐していくことにした。







オルトロスを倒した後、6体のレッサーオルトロスを討伐した俺たち一行は、昼過ぎに切り上げて街に戻ることにした。


もちろん、レッサーオルトロス討伐分のコーカサスの戦闘経験による成長の分け前も、全部神通力を鍛えるのに使った。


早めに帰還したからか、ギルド内はガラ空きだ。

俺は並ぶことなく、依頼達成の報告に入れた。


「依頼の達成を報告しに来ました」


「はい! レッサーオルトロス討伐の依頼ですね! 討伐証明部位を提出してください」


対応をしてくれたのは、受注の時と同じ受付嬢だった。

まさか、依頼用紙の控えを見せずとも顔パスで通じるとは……”賢者”で目立つことの、数少ないメリットの1つかもしれないな。


「討伐証明部位……丸ごとでもいいですか?」


「丸ごと……ですか。ま、まあ構いませんけど」


俺には収納魔法事故の副産物とも言える、前世の巨大な収納魔法空間があるからな。

わざわざ、討伐証明部位だけ切り取って帰るような面倒な真似はしないのだ。


どうせ、他の部位も素材としての価値はあるだろうし。


受付嬢の許可も得たので、早速取り出すか。

そう思いかけたが……すんでのところで、俺は思いとどまった。


「あの……レッサーオルトロス6体って、ここには出しきれませんよね?」


そう。

置き場所が無いのだ。


だからそのことを相談しようと思い、そう聞いてみたのだが……


「ろ、6体も倒したんですか!? 一体どうやったら、この短時間でそんな数討伐できるんですかぁ!」


受付嬢には、討伐した数自体のことで驚かれてしまった。

ギルド内の人口密度の低さも相まって、叫び声が響く響く。


少しして、落ち着きを取り戻した受付嬢はこう言った。


「す、すみません、取り乱してしまって。そうですよね、賢者の精鋭学院生ですもんね、常識では測れませんよね……。それでは解体場に案内しますので、付いてきてください」


俺は受付嬢の案内で、ギルドの裏口へと向かうことになった。


「……あれ? そういえばヴァリウス君って、いつ学院通ってるんでしょう……」


……受付嬢の独り言が聞こえた気がするが、気にしないでおこう。





受付嬢の案内で解体場に入り、6体のレッサーオルトロスを収納魔法から出して置く。

ちなみにオルトロスは今の俺のランクを超える魔物だし、麒麟との取引材料としてちょうどいいので、出さないことにした。


レッサーオルトロスを置くと即座に職員がその状態を確かめてくれて、素材としての買取価格を決めてくれた。


確認が済み、俺と受付嬢はまたカウンターに戻ってきた。


「はあ……あんな光景を見ることになるなんて、思ってもいませんでしたよ。それではこちらが、6回分の討伐報酬にあたる120000ゾルと、素材買取価格60000ゾルを合わせた180000ゾルになります」


受付嬢は疲れた様子で、カウンターに金貨の入った袋を置いた。


「ありがとうございます」


俺はそれを受け取り、ギルドを後にした。




「んじゃ、本格的に神通力鍛えにいくか」

ギルドを出ると、俺はすぐ筋斗雲に乗り、次の目的地を目指し始めた。


……実は、今日早く切り上げたのには理由がある。


それは、「時間あたりの討伐効率が割に合わない」という理由だ。


朝から昼過ぎまでかけての、俺たちの今日の戦果。

それは、1体のオルトロスと6体のレッサーオルトロスという、何とも微妙なものだった。


探知魔法と筋斗雲をフル活用して尚、それが限界だったのだ。


依頼達成という意味合いでは、結構なペースだったのかもしれないが……10日という限られた期間の中で強くなるには、全然足りない討伐量だ。


だから、俺はもっと効率的に魔物を狩れる場所に行かなくてはいけない。

例えば……ダンジョンとかにな。


どうせ、成績のために、学期末までに一度は潜る必要があったんだしな。

攻略してやろうじゃないか、精鋭学院附属迷宮を。

<< 前へ次へ >>目次  更新