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第20話 剣を発注した

『アルテミス、今起きてるか?』


ギルドの建物を出たところで、俺は神通力での通話を開始した。


『ヴァリウスか。起きてるも何も、私は人間ではないので睡眠など取らないぞ』


……どうやら、いつ連絡しても大丈夫なようだった。


『一つ、ルナメタルについて聞きたいことがあるんだが、いいか?』


『ああ。何でも答えてやるぞ』


通話越しのアルテミスの声は、自信ありげだった。

そうだな……観賞用とはいえ、剣にしたって話を聞いたばかりだし、武器としての実用性でも聞いてみるか。


『ルナメタルって……剣の材料としては、ふさわしい金属なのか?』


『剣、か。それなら、はっきり言って、ヴァリウス自身が使わない限りあまり役には立たないぞ。神通力を通さなければ、ルナメタルはなまくら同然だからな』


『神通力を通すと、どうなるんだ?』


『正直、今のヴァリウスが使っても、切れ味はミスリルといい勝負だろうな。けど、神通力を使いこなせるようになれば、オリハルコンでもヨーグルトを切るように斬れるようになるぞ』


それがアルテミスの回答だった。


要は、「量産して売りに出しても無意味だが、俺用の武器にするなら意味はある」ってとこか。


『ありがとう、アルテミス。とりあえず次何するかは決めたから、また聞きたいことができたら連絡するよ』


『ああ、いつでも待ってるぞ』


こうして、俺はアルテミスとの通信を切った。


俺には如意棒があるから、武器の調達とは縁がないかと思っていたが……如意棒だと代用の利かない場面が、今後出てこないとも限らない。

約3.9トンも持て余してるんだし、今後神通力を活かしていくことを見越して、一本作っておいてもいいかもな。


残りの使い道は……おいおい考えよう。


そう結論を出した俺は、次は鍛冶屋を目指すことにした。





「すみません」


「おう、何の用だ」


鍛冶屋に入り、鍛治師に声をかけると、鍛治師はぶっきらぼうな返事をした。


……鍛治師が無愛想なのは、この惑星でも共通なのか。

そんなことをしみじみと感じつつ、俺は本題に入ることにした。


「総ルナメタル製の剣を、オーダーメイドしたいと思いまして」


すると……鍛治師はギロリとこちらを睨み、声を低くしてこう言ってきた。


「はん? ルナメタル製だと?」


「はい」


……何か気に触るようなことでも言ってしまっただろうか。

そう思っていると、鍛治師は不機嫌そうな顔をズイっと近づけてきた。


「……この儂に、あんなナマクラにしかならん材料で剣を作れと。貴様はそう言うんだな?」


鍛治師の気迫に、俺は若干気圧されそうになった。


もはや退店したくなるレベルの威圧感だが……俺は鍛治師の言葉から、鍛治師が何に腹を立てたのか予測できたので、説得に入ってみることにした。


「確かに、『ルナメタル製の剣は観賞用』などと巷で言われているのは、存じています。ですが僕には、ルナメタル製だからこそ最高の切れ味を出せる、特殊な力があるんです。どうか、信じてください」


俺はそう言って、鍛治師の目を真っ直ぐに見据えた。


……おそらく、この鍛治師は自分の腕に相当なプライドがある。

そして、この鍛治師は実戦で使わないであろう剣を注文されたことに、プライドを傷つけられたと感じた。

だから、先ほどのような態度を取ったのだろう。


であれば、俺がするすべきことは1つ。

「自分にとってはルナメタル製こそが最も実戦向きだから作って欲しい」という事を、ちゃんと主張する事だ。


そんな考えから、俺はあのような説得の仕方をしたのだ。


それに対し、鍛治師はこんな返事をした。


「……貴様の目に偽りは無さそうだな。いいだろう、作ってやる。ただし、ルナメタルを自分で用意できるならの話だがな」


俺はホッとして、収納魔法からルナメタル鉱石を10kgほど取り出した。


「これでお願いします」


そう言うと……鍛治師は目を丸くした。


「な……もう持ってきてやがったのか。しかも、そんなにたくさん……」


鍛治師は深くため息をつき、こう続けた。


「しょーがねーな。作るって言っちまったもんな……。代金は、一応150000ゾルってことにしといてやる。ただし……それは、貴様が本当にルナメタル製の剣を立派に扱えると証明できたらの話だ。貴様が扱って尚、儂の納得のいかない切れ味だったら……その時は、3倍の金を頂く」


言いながら、鍛治師は右手の指で3を表現した。


なるほどな。

言い換えれば、「早急に神通力を鍛え上げなければ、鍛治師を納得させられず3倍のお金を取られる。期限は、剣が完成するまで」ということか。


いいだろう。

できれば、鍛治師にも「いい仕事をした」と思ってもらいたいところだが……最悪の場合でも、300000ゾル余計に支払うだけで済む。

2400万ゾル所持してる今の俺には痛くない出費だし、受けて立つとしよう。


「分かりました。いつ頃取りに伺えばよろしいですか?」


「そうだな……ルナメタルを扱うのは初めてだし、10日後にまた来てくれ」


そう言われ、俺は鍛冶屋を出ることとなった。




……10日か。


新たな能力をものにするには、短すぎる期間だな。


今の俺でも、ルナメタルで総ミスリル製クラスの切れ味は出せるみたいだが……それであの鍛治師が満足するかは、微妙なところだ。


だから、オリハルコンとはいかずとも、せめてアダマンタイトと渡り合えるところまでは持っていきたいのだが……まともに鍛えていては、そんなのは夢のまた夢ってとこだろう。


だが、俺はテイマーだ。

俺は1つ、急速に自分の神通力を鍛える方法の仮説を思いついている。


明日は、その仮説の検証に移るとするか。

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