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第19話 旅立ちは不良在庫と共に

『じゃあちょっくら行ってくるから、また筋斗雲の上で待っててくれ』


『ああ』


『ウィッスウィーッス』


俺は建物上空に2匹を乗せた筋斗雲を待機させ……ギルドに入った。

ギルドに入ると、冒険者たちがざわつき始めたが……まあしばらくは見ることになるであろう光景だと思い、特に気にはせず『受注/達成報告・素材買取』の列に並んだ。


数分して、俺の番が来た。


「『ルナメタルの採取』の依頼の報告に来ました」


俺は受付嬢に、自分のギルドカードを渡した。

すると……受付嬢は俺の顔とギルドカードを交互に見つつ、顔を綻ばせた。


「ヴァリウスさん! 生きてらっしゃったんですね!」


……ああ、そうか。

月への往復で相当時間食ってたからな。

もしかしたら、矢を受けて死んだとでも思われていたのかもしれない。


「俺が依頼受けたのって、何日前でしたっけ?」


曜日感覚すら失いかけていたところだったので、俺はそう質問してみた。


「9日前ですよ! 冒険者の皆さんも、心配してたみたいですよ? 『あの賢者、もしかして矢を受けて死んでしまったのではないか』って……」


……そういうことか。

冒険者たちがざわついていたのは単に俺の髪色を見てのことではなく、俺の生還に対する反応だったのかもしれないな。


「それで、ルナメタルの採取依頼の報告なんですよね? どれくらい採ってこられたんですか?」


受付嬢は、満面の笑みで聞いてきた。


さて、どう答えたものか。

ここで4トン全部出すのは論外として、少量出すにしても、どれほどなら買い取ってもらえるのか分からないし……聞いてみた方が早いか。


「逆に、買取量の上限ってどのくらいになりますか?」


そう聞くと……受付嬢はキョトンとした顔になった。


「え……上限なんて、考えたこともありませんでしたね。まあでも、上限に引っかかることなんて無いと思いますので、とりあえず出してみてはいかがですか?」


結局、上限を聞き出すことはできなかった。


まあいいか。

とりあえず、素材を置く台の上に山盛りに出して、そこから様子を見ていけばいいだろう。


そう思い、俺は50kgくらいと思われる量のルナメタル鉱石を、収納魔法から取り出した。


すると……キョトンとしつつも辛うじて笑顔を保っていた受付嬢の顔から、ついに営業スマイルさえも消え去った。


「……あ、あれ? なんかとんでもない量のルナメタルが見えるような……」


受付嬢は、ルナメタル鉱石の山を見つめては両目をこする、を何度も繰り返した。

……それリアルにする奴初めて見たぞ。


「9日間も本気でルナメタル集めに集中したら、こんな量になるんですね」


受付嬢はため息をついた。


……いかんいかん。

このままでは、これが俺が持ってきたルナメタルの総量だと思われてしまう。


「あの……本当は、この80倍近い量のルナメタルを持ってるんですが」


「……へ、今なんて?」


「80倍です。それでもまだ、上限に引っかからないとおっしゃいますか?」


そう補足すると……受付嬢は、奥へと走って行ってしまった。





しばらくすると、受付嬢は中年の男を連れて戻ってきた。


「あれが、例の賢者が持ち込んだルナメタルだと言うのか?」


男は山盛りのルナメタルを見るなり、目を丸くしてそう言った。


「はい。なんでもヴァリウスさんが言うには、『この80倍のルナメタルを持っている』とかいうことらしくて……」


「うーむ、確かにそんな量を買わされては、ギルドの資金が底をついてしまうな」


男は受付嬢とそんな会話をした後、額に手を当てて悩み始めた。

そして男が悩んでいる間、受付嬢はこんな質問をしてきた。


「あの……こんな量のルナメタル、一体どこで入手したんですか?」


俺は一瞬、どう答えるか迷った。


「月に行った」などと言っても、「信じるか信じないかはあなた次第です」みたいな議論にしか帰着しないだろうしな……。

かと言って、ここで嘘をついて、その嘘が冒険者たちに出回ってもまずい。

ちょっと考えた末、俺は本当のことを、肝心な部分をぼかしながら言うことにした。


「ルナメタルを拾おうとしたら、どこからともなく矢が飛んでくるって話だったじゃないですか」


「そうですね」


「俺、矢を飛ばしてきた人を特定したんです。その人は、故郷に帰る方法をなくしていたみたいで……故郷に連れ帰ってあげたら、お礼にルナメタルをもらえました」


嘘は言っていない。

ただ、その故郷が宇宙空間だってことを明かさなかっただけだ。


「そ……それはすごいですね……」


受付嬢は、言葉を失ったかのようになっていた。

適度にごまかせたみたいなので、これでいいか。


そんな会話からしばらくして……男が、結論を出してくれた。


「ヴァリウス君。今回は、今ここに出している量の倍までは買い取ろうと思う。それでいいかな?」


「分かりました」


こうして、俺は追加で収納魔法からルナメタル鉱石を取り出し、結局120kgを買い取ってもらうことになった。


目分量だと100kgくらいかと思ったが……ちょっと比重が大きかったみたいだな。


別の鉱石が混じってないかの鑑定など、必要な手続きが済んだ後に、俺は2400万ゾルの報酬を受け取った。


帰り際、俺はふと受付嬢にこんな質問をしてみた。


「ルナメタルって、結局何に使われるんですか?」


「そうですね。私も人づてに聞いたくらいしか知らないんですけど……とある貴族が、剣の材料にしたって噂は聞いたことがありますよ? まあ、ほとんど観賞用らしいですけど」


「なるほど」


あんまり参考にならなかった。

そうだな……どうせなら、アルテミスにも聞いてみるか。

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