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第17話 月に着いた

地上の様子が見える高さになってきたところで、俺は筋斗雲を操縦し、湖の上空に向かって移動した。


そして水面近くまで来ると、俺は収納魔法から如意棒を取り出し、湖の底に向けて如意棒を伸ばしていった。


数十秒後。

如意棒の先端が湖の底に着いた感触がしたところで、俺は如意棒を伸ばすのをやめた。


その直後……アルテミスから、念話が入った。


『湖内の全生物に生命力強化をかけた。これで、しばらく湖を冷凍しっぱなしにしても、中の生物は無事で済むはずだ』


『ありがとう。……というわけでコーカサス、準備は整った。早速氷結魔法を放ってくれ』


『分かった』


俺が指示すると、コーカサスは角を湖面に向けた。

そして……魔力を含む閃光を、角から水中に射出した。


数秒後。

メキメキメキッという音と共に、湖全体が一瞬にして氷の塊に変貌した。


試しに、如意棒を掴んで揺さぶろうとしてみる。

……うん、うんともすんとも言わないな。これなら、問題無く月を目指せそうだ。


「じゃあ、月へ向けて出発だ!」


俺はアルテミスを装備したまま如意棒にしがみつき、如意棒を伸ばし始めた。






『おお、ようやく先ほどの高さまで戻ってきたな……』


『マジそれだぜ』


如意棒で月を目指し始めてから、約6分が経った頃。

コーカサスとベルゼブブが、そう語り合い始めた。


ちなみに今俺たち一行は、こういう状態になっている。


まず1番下にコーカサスがしがみついていて、コーカサスは角で筋斗雲を挟んでいる。

そしてその筋斗雲の上に、アルテミスを装備した俺とベルゼブブが座っているのだ。


俺の役割は、コーカサスが疲れて落下しないよう、コーカサスの足に随時回復魔法をかけること。

そしてベルゼブブの役割は、筋斗雲に魔力を流し、天候シールドを展開することとなっている。


筋斗雲、成層圏より上だと上昇能力は失われるものの、気圧保持や宇宙線の低減の役には立つからな。

こうして役割分担をする事で、俺たち一行は快適に月を目指すことができるのだ。


このペースでいくと……1時間もしないうちに、大気がかなり薄いところまで上昇できそうだな。

そうなったら、超音速で移動しても大した衝撃波は発生しなくなる。

その辺まで来たら、上昇速度を上げていくとするか。






それから更に、6時間ほどが経過した。


成層圏を抜けた辺りから、俺は如意棒の伸びる速度を上げ始めたのだが……そこで俺は、驚くべき事実を発見できた。


なんと、如意棒が伸びる速度の限界は、「音速よりちょっと速い」程度のものではなかったのだ。


如意棒の加速は、つい今しがたまで続いていた。

今では、音速の4倍くらいの速度が出ていてもおかしくはないんじゃないかと思う。


これなら、思ってたよりも早く月に到着できそうである。


まあそれでも、数日間は筋斗雲天候シールドの閉鎖空間内で過ごさねばならないのだが……退屈しそうかというと、そうでもない。


俺たちがいた惑星を、この高さから眺めると……息を呑むほど美しかったのだ。


『いい眺めだな……』


『『ああ……』』


俺だけでなく、コーカサスやベルゼブブも、その光景に癒されていた。


と、そんな時。

俺はふと、どうせなら宇宙の様々な天体を観測してみようと思った。


大気に邪魔されず、鮮明に天体を観測できる機会なんて滅多にないからな。

望遠魔法とかも使って、貴重な瞬間を納めていこう。


まずは手始めに、と思い、俺は1つ外側の軌道を周回する惑星を観察してみることにした。


数分して、俺はその惑星を発見することができた。


そこで、俺はその惑星をよく見るため、望遠魔法の倍率を大幅に上げたのだが……惑星の姿をはっきりと捉えた俺は、筋斗雲から転げ落ちそうになってしまった。


……な、なぜあの惑星に衛星が4つもあるんだ!?


俺が知る限り、あの惑星にある衛星の数は2個だ。

その事実は、学者たちが幾度となく確認してきたはずだ。

4つあるなんて話は聞いたことがない、これは何かがおかしい……。


何度か深呼吸し、冷静さを取り戻した俺は1つの結論にたどり着いた。


俺は、転生前とは別の惑星に転生したんだ。


確かに、そう考えると全てに合点がいく。

世のテイマーたちが、覚醒進化を知らないことも。

テイマーが、不当に低い扱いを受けていることも。

誰一人として、真・詠唱魔法を知らないことも。


全部、「この惑星の文明が、まだそのレベルに達していない」というだけのことだったのだ。


まあ、だから何だと言われれば何とも言えないんだがな。


転生以来の様々な疑問が解決した俺の心境は……正直、微妙だった。






あれから何日が経過しただろうか。


俺たち一行は……ようやく、小石がはっきりと見えるくらいまで、月に近づいてきた。


……実に長い旅だったな。

音速の数倍にも至る超スピードで旅してきたとはいえ……やはり、380000kmは遠かった。


ふと、筋斗雲を操縦してみようと思い立ち、動けと念じてみる。

すると……筋斗雲が、若干動いた。


「筋斗雲の飛翔能力は、天体の表面近くで発揮される」という仮説に基づいての実験だったんだが……どうやら、正解だったみたいだな。


『コーカサス、ありがとう。もう筋斗雲を動かせるみたいだから、筋斗雲に乗ってくれ。一緒に月面まで行くぞ』


俺はコーカサスにそう言いつつ、如意棒の伸びる速度を緩めていった。


そして……筋斗雲で、月面まで飛んでいった。


近くにあった、ルナメタルでできた岩に、アルテミスをたてかける。

すると……アルテミスは、再び少女の姿をとった。


「ありがとう。まさか、またここに戻って来られるなんて思っても見なかった。……ああ~力が漲る」


アルテミスはそう言って、伸びをした。


そしてルナメタルの岩の窪みに寝転がりながら、アルテミスはこう続けた。


「24時間ほど、ここにいてくれないか? それくらいの時間をくれれば……まあ全盛期の6割くらいまでは、私の力が戻るはずだ。そうしたら、お礼に私の力を、少しヴァリウスに分け与えたい」


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