第14話 矢が飛んできた
「どこからともなく矢が飛んでくる、ですか……。まあだとしても、俺はこの依頼を受けてみようと思います。一応、治癒魔法も使えますので」
「わ、分かりました。そこまで言うなら受理しますが……ほんと賢者の無駄遣いったらありゃしないですね……」
こうして、一応受注は認められた。
その後は、受付嬢からルナメタルが採れる場所の説明などがあった。
まあ前世では、孫悟空の音速を超える如意棒連撃を躱したりしてたしな。
あの頃ほどの身体能力は戻ってないとはいえ……余程のことがない限り、矢の回避は可能だろう。
そう考えつつ、俺はギルドの建物を出た。そして、
「筋斗雲」
と呟いた。
数秒後。
コーカサスとベルゼブブを乗せた筋斗雲が、俺の近くまで飛んできた。
俺がギルドで用事を済ませている間、コーカサスたちには筋斗雲に乗ったまま、ギルドの建物上空で待機してもらっていたのだ。
『それじゃあ行こうか』
『ああ』
『ったく、待ちくたびれたぜ』
2匹が乗っている筋斗雲に俺も乗り……一気にその高度を上げた。
「確か、山の麓と湖の間くらいでルナメタルが見つかるって聞いたから……あの辺か」
俺は上空から目的地を確認し、そこに向かって筋斗雲を飛ばした。
そして飛ぶこと十数分。
俺たちは、目的地に着いた。
筋斗雲を収納すると、俺は索敵魔法を使った。
その結果……俺の近くには、大したことのない魔物が何体かいることが分かった。
『コーカサス、威嚇を頼んだ』
『分かった』
俺がそう頼むと、コーカサスは威嚇のための魔力の波動を放った。
『ヴァリウス、これで大丈夫か?』
『ああ。雑魚はいなくなった。ありがとう』
こうしておくことで、俺は魔物の襲撃に煩わされることなく、ルナメタル探しと矢の回避に集中できるのだ。
しっかり状況も整えたことだし、ルナメタルを探していこうか。
◇
ルナメタルの鉱石を探して歩き回ること約10分。
俺はとうとう、ギルドで教えてもらった特徴通りの石を発見することができた。
ちなみにここまで、矢の襲撃は無かった。
一定の範囲内に入ったものの形や動きを察知できる「気配感知」を常時展開していたんだが……一切、それらしき高速反応は無かったんだよな。
もしかしたら、先程のコーカサスの威嚇で、アーチャーに逃げられてしまった可能性もあるのかもしれない。
それならそれでいいかと楽観的に考えつつ、俺は鉱石を拾おうとした。
だが……。そのタイミングになって、ついに矢が飛んできたのだ。
咄嗟に上半身を捻って、躱す。
思った通り、矢は簡単に回避できる程度のものだった。
おまけに、気配探知のおかげで、どの方向から矢が飛んできたのかも知ることができた。
大した脅威でもないと分かった以上、矢に構わずルナメタル拾いを続けるのも可能ではある。
だが……俺は1つ名案を思いついたので、そっちを実行することにした。
『……ヴァリウス、なんで如意棒なんて取り出すんだ?』
『んなこと聞くまでもねーだろ。ヴァリウスはなあ、如意棒でさっき撃ってきた奴を撃退するんだよ』
俺が収納魔法から如意棒を取り出すと、コーカサスが疑問を持ち、ベルゼブブが俺の目的を推測した。
まあ、順当に考えればそういう予測になるか。
でもな……。ベルゼブブの予想、今回の俺の意図とはちょっと違うんだよな。
『ベルゼブブ……近いけど、半分外れだ。俺は別に、矢を撃ってきた奴を如意棒で倒す気は無い』
俺はベルゼブブにそう言って──矢が飛んできた方向に、如意棒を伸ばした。
如意棒が障害物にぶつかっても、障害物が破壊されない程度のスピードでだ。
程なくして、如意棒は何か硬いものにぶつかった。
俺はそこで、如意棒を伸ばすのをやめた。
『コーカサス、ベルゼブブ、筋斗雲に乗ってくれ』
2匹にそう促す。その後、俺も筋斗雲に乗った。
そして、上空まで昇った。
『ヴァリウス、これは一体なんのつもりだ?』
『下を見ろ。俺が置いてった如意棒が見えるだろう?』
そう言って、俺は地面に置いてきた如意棒を指した。
『考えてみろ。俺たちに向かって、何者かが矢を撃ってきた。そしてそれは、その何者かと俺たちの間に、何も障害物がなかったってことを意味する。だろう?』
『そうだな……ああ、そうか!』
何やら合点がいった様子のコーカサス。
コーカサスは、こう続けた。
『つまり……矢が飛んできた方向に伸ばした如意棒付近を探れば、撃ってきた何者かが見つかるはずだということか!』
『そういうことだ』
俺はコーカサスの鋭さに感心しつつ、如意棒を置いた付近に人がいないか、上空から注意深く探すことにした。