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第14話 矢が飛んできた

「どこからともなく矢が飛んでくる、ですか……。まあだとしても、俺はこの依頼を受けてみようと思います。一応、治癒魔法も使えますので」


「わ、分かりました。そこまで言うなら受理しますが……ほんと賢者の無駄遣いったらありゃしないですね……」


こうして、一応受注は認められた。

その後は、受付嬢からルナメタルが採れる場所の説明などがあった。


まあ前世では、孫悟空の音速を超える如意棒連撃を躱したりしてたしな。

あの頃ほどの身体能力は戻ってないとはいえ……余程のことがない限り、矢の回避は可能だろう。


そう考えつつ、俺はギルドの建物を出た。そして、


「筋斗雲」


と呟いた。



数秒後。

コーカサスとベルゼブブを乗せた筋斗雲が、俺の近くまで飛んできた。


俺がギルドで用事を済ませている間、コーカサスたちには筋斗雲に乗ったまま、ギルドの建物上空で待機してもらっていたのだ。


『それじゃあ行こうか』


『ああ』


『ったく、待ちくたびれたぜ』


2匹が乗っている筋斗雲に俺も乗り……一気にその高度を上げた。





「確か、山の麓と湖の間くらいでルナメタルが見つかるって聞いたから……あの辺か」


俺は上空から目的地を確認し、そこに向かって筋斗雲を飛ばした。

そして飛ぶこと十数分。

俺たちは、目的地に着いた。


筋斗雲を収納すると、俺は索敵魔法を使った。

その結果……俺の近くには、大したことのない魔物が何体かいることが分かった。


『コーカサス、威嚇を頼んだ』


『分かった』


俺がそう頼むと、コーカサスは威嚇のための魔力の波動を放った。


『ヴァリウス、これで大丈夫か?』


『ああ。雑魚はいなくなった。ありがとう』


こうしておくことで、俺は魔物の襲撃に煩わされることなく、ルナメタル探しと矢の回避に集中できるのだ。


しっかり状況も整えたことだし、ルナメタルを探していこうか。







ルナメタルの鉱石を探して歩き回ること約10分。


俺はとうとう、ギルドで教えてもらった特徴通りの石を発見することができた。


ちなみにここまで、矢の襲撃は無かった。

一定の範囲内に入ったものの形や動きを察知できる「気配感知」を常時展開していたんだが……一切、それらしき高速反応は無かったんだよな。


もしかしたら、先程のコーカサスの威嚇で、アーチャーに逃げられてしまった可能性もあるのかもしれない。


それならそれでいいかと楽観的に考えつつ、俺は鉱石を拾おうとした。

だが……。そのタイミングになって、ついに矢が飛んできたのだ。


咄嗟に上半身を捻って、躱す。


思った通り、矢は簡単に回避できる程度のものだった。

おまけに、気配探知のおかげで、どの方向から矢が飛んできたのかも知ることができた。


大した脅威でもないと分かった以上、矢に構わずルナメタル拾いを続けるのも可能ではある。


だが……俺は1つ名案を思いついたので、そっちを実行することにした。


『……ヴァリウス、なんで如意棒なんて取り出すんだ?』


『んなこと聞くまでもねーだろ。ヴァリウスはなあ、如意棒でさっき撃ってきた奴を撃退するんだよ』


俺が収納魔法から如意棒を取り出すと、コーカサスが疑問を持ち、ベルゼブブが俺の目的を推測した。


まあ、順当に考えればそういう予測になるか。

でもな……。ベルゼブブの予想、今回の俺の意図とはちょっと違うんだよな。


『ベルゼブブ……近いけど、半分外れだ。俺は別に、矢を撃ってきた奴を如意棒で倒す気は無い』


俺はベルゼブブにそう言って──矢が飛んできた方向に、如意棒を伸ばした。

如意棒が障害物にぶつかっても、障害物が破壊されない程度のスピードでだ。


程なくして、如意棒は何か硬いものにぶつかった。

俺はそこで、如意棒を伸ばすのをやめた。


『コーカサス、ベルゼブブ、筋斗雲に乗ってくれ』


2匹にそう促す。その後、俺も筋斗雲に乗った。

そして、上空まで昇った。


『ヴァリウス、これは一体なんのつもりだ?』


『下を見ろ。俺が置いてった如意棒が見えるだろう?』


そう言って、俺は地面に置いてきた如意棒を指した。


『考えてみろ。俺たちに向かって、何者かが矢を撃ってきた。そしてそれは、その何者かと俺たちの間に、何も障害物がなかったってことを意味する。だろう?』


『そうだな……ああ、そうか!』


何やら合点がいった様子のコーカサス。

コーカサスは、こう続けた。


『つまり……矢が飛んできた方向に伸ばした如意棒付近を探れば、撃ってきた何者かが見つかるはずだということか!』


『そういうことだ』


俺はコーカサスの鋭さに感心しつつ、如意棒を置いた付近に人がいないか、上空から注意深く探すことにした。


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