第11話 無詠唱の上位互換
ソニックブームの残響が消えると共に、建物内は静寂に包まれていった。
攻撃が──主に音量的な意味で──派手だったせいか、相当な注目を集めてしまったな。
なんなら隣で受験者と対戦中の在校生までもが、口をあんぐりと開けてこちらに注目してるのだが……勝負に集中してなくて、大丈夫なのか?
「……隙ありっ!」
全然大丈夫じゃなかった。
その在校生は、こちらに気を取られている間に対戦相手の受験者に剣を突きつけられていた。
……真っ向勝負の「真」の字も無いもんだな。
まあ合格に必死になる気持ちはわかるので、そこにはつっこまない事にした。
さてと、決着もついた事だし、次の魔術試験の場所に向かうか。
そう思って歩き出した時……採点者が、とんでも無いことを口走った。
「け……ケイディさんが、神隠しに遭った!」
採点者は、慌てふためいて右往左往しだした。
……おいおい。どうやったらそんな結論になるんだ?
「……神隠しなんてしてませんよ。ちゃんと場外に落ちてます」
想定外の事件だとか言って試験結果を無効にされてはかなわないので、俺は場外に吹き飛んだケイディの方を指差し、自分の勝利を証明した。
「あ……あれ……? 本当だ……。あの成績優秀なケイディさんを初撃で場外だなんて……これは悪い夢でしょうか……」
採点官、記録する手が止まってるんだが……大丈夫だろうか。
ちゃんと仕事してくれることを祈りつつ、俺は次の試験の場所に移ることにした。
◇
魔術試験の会場。
屋外にある、普段は訓練場として使われているであろう施設で、俺は受験者の列に並んだ。
そうして、他の受験者の魔法を眺めていたのだが……俺は1つ、異変に気付いた。
どういうわけか、全員が全員、無詠唱で魔法を使っているのだ。
試験内容が「実際の魔物を魔法で倒せ」とかなら、無詠唱でいくのも理解できる。
近接戦闘にはスピードも求められるからだ。
だがここでの試験内容は、「静止している的に向かって攻撃魔法を放つ」というだけのもの。
(ただし魔法科Ⅲ類志望、すなわち治癒師だけは別途の試験が行われるらしい)
である以上、魔法の威力重視のため、詠唱をした方が良いと思うのだが……なぜだ?
「……次の方どうぞ!」
色々考察してはみたが、結論は出ないまま、俺の番がやってきた。
まあいい。他人は他人、俺は俺。
しっかり詠唱していくとしよう。
受験者はそれぞれの職業に合った様々な魔法を使っていたが……賢者はだいたいファイアーアローを放っていたので、その上位互換でも撃つか。
「我に集いし魔力よ、右衛門の超炎となりて敵を穿て! バーベキューアロー!」
試験内容は、「用意された5つの的を、順番に魔法で射抜いていく」というものだったのだが……俺は3番目、つまり真ん中の的に魔法をぶつけた。
バーベキューアローはその的にぶつかると爆発を起こし……その余波で、残り4つの的も破壊してしまった。
5発撃つことはなかったが、肝心の的の方は全破壊できたので、これで十分得点になるだろう。
そう思い、その場を離れようとしたのだが……さっきまでずっと黙々と記録だけしていた採点官に、声をかけられてしまった。
「……的を、破壊? 何なんですか今の非常識な威力は!」
「……壊しちゃまずかったですか?」
俺は若干不安になった。
よく考えたら、テイマーが受験しにくる事を想定していない分、今の的は耐久性が低い設計だったのかもしれない。
もしスペアの的がなければ、最悪俺は試験妨害とみなされるかもしれないのだ。
魔法で修復するのは可能だが……受験者が的を修復するなんて、まず認められないだろうしな……
そんな風に考えていると、採点官はこう続けた。
「いや、一応替えの的はあります。って、問題はそこじゃないんですよ。魔法の威力が馬鹿でかいのもありますが……何で詠唱魔法で今の威力が出るんですか!」
心なしか、採点官の語気はどんどん強くなっていってるように思えた。
しかしどういう意味だ? 寧ろ、詠唱魔法「だからこそ」今の威力が出せたんだが。
「詠唱魔法って、基本無詠唱より威力上がりますよね?」
「そんな事は無いです。詠唱魔法ですと、その詠唱で定められた威力しか出ませんので、基本的に無詠唱に劣るはずです」
それを聞いて……俺は、ある事に思い至った。
まさかこの世界では、真・詠唱魔法が知られていないのか?
「確かに、詠唱魔法は詠唱文句と魔法の威力が密接に関連しているため、無詠唱ほど自由に魔力操作ができないものでした」
「……そうですよね」
「ですが後に、『声帯の閉じ具合や喉仏の位置を調節し、特定の声の音色で詠唱すればその問題が解消され、無詠唱より上位の威力で魔法を放てる』ということが発見され、真・詠唱魔法と名付けられました。ですよね?」
「何ですかそのデタラメな理論は! 今初めて聞きましたよ!」
……本当に知られてなかったか。
にしても、俺の魔法という証拠がある以上デタラメは無いと思うんだがな。
「まあいいです。いってる事はよくわかりませんでしたが……満点にしときますね」
そう言って、採点官は記録を始めた。
なんか腑に落ちない感じがするが、まあいいか。
俺は人目につかないところまで移動し、筋斗雲にのって校外に出た。
◇
3日後。
合否が張り出されるとのことで、俺は精鋭学院の掲示板のところに向かった。
掲示板の周りには既に、人だかりができている。
小さくガッツポーズする者、その場で泣き崩れる者、胴上げされる者……さまざまな人がいるな。
まあ胴上げされるために合格者のふりをする「エア精鋭受験」なるものもあるらしいので、喜んでいる者が本当に合格者かどうかは不明だが。
さあ、俺の名前がちゃんとあるかどうか、見にいこうか。